「孫子の兵法」として有名な『孫子』を著したとされるのが「孫武」です。その実在が疑われてもいる孫武には、どのような史実や逸話が伝わっているのでしょうか?
この記事では、孔子と同時代に生きたとされる「孫武」についてと、孫武の著書とされる「孫子の兵法」について解説します。人生戦略にも使える名言も紹介しています。
「孫武」とは?
まずはじめに孫武(そんぶ)について伝わっている記録や逸話を紹介します。
孫武は『孫子』の著者で春秋時代後期の人物とされる
孫武とは、古代中国の兵法書として有名な『孫子』の著者とされる人物です。今から2千4百年ほど前の、春秋時代後期に生きた軍事思想家とされています。「孫子」とは「孫武」の尊称です。
『孫子』は、中国における代表的な兵法書である「武経七書」(ぶけいしちしょ)のうちのひとつで、その中でも最も優れているとされています。
『孫子』に書かれた兵法のことを「孫子の兵法」といい、日本ではその解説書が多数出版されており、戦略思考を指南するビジネス書としても人気です。
孫武の「実在」や史実については論争がある
孫武の生涯を知るための資料は司馬遷の『史記』や『呉越春秋』などがありますが、どのようにして亡くなったのかなど詳しいことはわかっていません。また、その記述に不自然な点もあるとして、史実の真偽についてや、実在した人物なのかについて、論争されています。
さらに、『三国志』によれば、三国時代の呉を建国した孫権の父である「孫堅(そんけん)」は孫子の子孫だとされていますが、真偽は明らかになっていません。
「伍子胥」に推挙されて呉の将軍となった
春秋時代の呉(ご)国の臣であった伍子胥(ごししょ)が、孫武を呉王の闔閭(こうりよ)に推挙したということが『呉越春秋』に記されています。また、『史記』によれば、孫武は紀元前517年に呉の将軍となり、のちに楚国との戦いにおいて呉国を勝利に導いたとされます。
「闔閭の姫兵」の逸話が有名
孫武が初めて呉王の闔閭に謁見した時の逸話が『史記』に記されており、孫武を語る上でよく知られています。闔閭は、著作を読んだが実際に兵を動かすところがみたいと孫武にいい、孫武の才能を短時間で見極めようと、無理な提案をします。夫人を兵として訓練してもらおうというのです。
孫武は宮廷の美女180人を2隊に分け、闔閭の寵姫をそれぞれの隊長として移動の訓練を行いました。しかし寵姫や美女たちは号令の太鼓に笑うばかりで従わないため、孫武は二人の寵姫を処刑してしまいます。
闔閭は機嫌を損ねながらも、孫武は用兵に優れているとして、将軍に任命したということです。ただし、この逸話については不自然な部分が指摘されるなど信憑性が疑われており、真偽の決着はついていないようです。
孫子は「孔子」と同時代に生きたがお互いを知る記録はない
『論語』で有名な「孔子」は、紀元前551年(または552年)から紀元前479年の人物です。孫子は孔子よりもやや早い生まれで、両者は同時代に生きたと推測されています。しかしお互いが相手を知っていたかどうかの記録などは確認されていません。
「孫子の兵法」とは?
次に『孫子』に書かれた「孫子の兵法」について紹介します。
『孫子』は13篇から成る戦略の理論書
孫武の時代の戦争は、占いや運に頼ったり個人の力量に任せたりして戦っていましたが、孫武は戦争の記録を分析・研究し、勝利を得るための指針を細かく理論化しました。
孫子の兵法が書かれた『孫子』は、戦争の準備計画を述べた「作戦篇」や、実際の戦闘を行わずに勝利を収める方法を述べた「謀攻篇」などの13篇で構成されています。
『孫子』は哲学的な戦略論や具体的な戦術が述べられ、全体としては合理的な「勝ち方」を述べた戦いのための実用書であるといえます。
「兵は詭道なり」が基本思想
戦争を決断する前に考慮すべき事柄について述べた序論の「計篇 」には、「兵は詭道なり」の言葉が書かれています。この言葉は孫子の兵法の思想の基本を表しています。「兵は詭道なり」とは、「戦争とは相手を騙す(だます)こと」という意味です。
「戦わずして勝つ」が基本戦略
『孫子』には具体的な戦術も述べられていますが、「戦わずして勝つ」という戦略思想に重きが置かれています。そのための事前の分析の重要性や、スパイの重要性などが多く語られています。
『孫子』の名言
「孫子の兵法」から書き下し文と現代語訳で紹介
「孫子の兵法」の中でよく知られた名言を、書き下し文と現代語訳で紹介します。
兵をあらわすの極みは、無形に至る。(虚実篇)
軍の形で最良なものは形がないということである。(敵軍に応じて変幻自在に変化させれば敵軍は攻め手を失う。)
善く戦う者は、人を致して、人に致されず。(虚実篇)
うまく戦う人は、相手をコントロールして、コントロールされることがない。
戦わずして人の兵を屈するは、善の善なる者なり。(虚実篇)
戦闘せずに相手を降伏させることが最善である。
彼を知らずして、己を知る者は、一勝一負す。(謀攻篇)
相手のことを知らなくても自分を知っていれば勝率は五分五分である。
先ず勝ちて、後に戦いを求む。(形篇)
戦う前に勝てる体制を整えてから、戦う。
正をもって合し、奇をもって勝つ。(勢篇)
まずは正攻法で戦い、奇策によって勝利する。
利にあらざれば動かず、得るにあらざれば用いず、危うきにあらざれば戦わず。(九地篇)
利益にならなければ行動しない、得るものがなければ軍隊を使わない、危険が迫っていなければ戦わない。
智者の慮は、必ず利害をまじう。(九変篇)
智者は、必ず物事のプラス面とマイナス面を比較する。
まとめ
「孫武」はその史実に疑義はあるものの、世界的に知られる「孫子の兵法」を指南した『孫子』の作者であるとされています。
孫子の兵法は「いかにして合理的に勝つか」という戦争で勝つための実用書として書かれていますが、冷静で哲学的な分析がされた思想書としての普遍性を持ち、「いかにして生きるか」という人生戦略に読み替える啓発書としても人気があります。