「ソシュール」の『一般言語学講義』とは?チョムスキーとの違いも

近代言語学の父と呼ばれ、『一般言語学講義』で知られる「フェルディナン・ド・ソシュール(1857年~1913年)」の思想とはどのようなものなのでしょうか?この記事では『一般言語学講義』に書かれたソシュールの思想や言葉の意味について紹介します。入門に最適なおすすめの本も紹介しています。

「ソシュール」と『一般言語学講義』とは?

ソシュールは「近代言語学の父」

ソシュールとは、スイスの言語学者です。「近代言語学の父」と呼ばれています。ソシュールは言語学を「当然存在すべきだが、まだ存在していない一般科学」だとして言語学の独立性を提言し、その基礎を築きました。

ソシュールの目的は、人間はどうして言葉を使ってコミュニケーションができるのかということの解明でした。

学生のノートがまとめられた『一般言語学講義』

ソシュールが1906年から1911年にかけてジュネーブ大学で行った講義について、学生がとったノートから再構成し、ソシュールの死後、1916年に出版されたのが『一般言語学講義』です。本書に書かれた学説は当時の言語学者に大きな影響を与え、各国に翻訳されました。

ソシュールの説といえば『一般言語学講義』を指す

ソシュールは自らの理論について著わした著書は出版しておらず、ソシュールの説といわれるときは、一般的にこの『一般言語学講義』に書かれた説を指します。

ソシュールは講義を行った後に病により55歳で亡くなりました。『一般言語学講義』に書かれた学説は近代言語学の形成の出発点となり、言語学の聖典ともされています。

ソシュールとチョムスキーの違いとは?

チョムスキーは「現代言語学の父」

ソシュールは近代言語学の父とされますが、ノーム・チョムスキー(1928年 – )は「現代言語学の父」と称されます。チョムスキーは「生成文法理論」を創始し、理論言語学や認知科学の分野に影響を与えました。

「ソシュール」の思想はどんなもの?

「構造主義思想」に影響を与えた

言葉の進化や歴史から言語を研究する「歴史言語学(通時言語学)」が主流だった19世紀の末に、ソシュールは言葉の仕組みや働きを研究する「共時言語学」を研究しました。そのためには言語の構造の理解が必要となり、この研究は1960年代から流行するヨーロッパの構造主義にも影響を与えました。

「ラング」と「パロール」の側面から考察した

ソシュールは、言語の構造についての認識を新たにしました。ソシュールは言語の考察を「ラング」の側面と「パロール」の側面に分けて進めました。ラングは英語ではランゲージに相当し、すなわち言語の体系を表し、パロールはスピーチに相当し、すなわち言語の使用を表します。

ソシュールはパロールは言語学の対象ではないとし、この二者の弁証法的な区別は構造主義の発展に影響を与えました。

言葉は「意味を表す記号」だと捉えた

ソシュールは、記号および記号の関係が言語学の研究対象であるといい、記号や記号間の関係も構造的な本質を持つと述べました。

ソシュールは、言語記号は「記号表現」と「記号内容」という二つの側面の間の関係からとらえることができるとし、例えば「木の概念」である記号内容と、「木の聴覚映像」である記号表現の間にある構造的な関係は一つの言語記号を構成しており、言語はこのような言語記号であるとして、「観念を表現する記号の体系」が言語であると述べました。

ソシュールが、言語は歴史や世界と対応したものでなく、人間の関心に応じて表現される記号の体系だとした考え方は画期的なものでした。ソシュールの、記号を研究する提案によって、のちに記号学という分野が構築されました。

文学作品における単語研究「アナグラム研究」

ソシュールは文学作品における単語の研究も行っており、それはソシュールのアナグラム研究と呼ばれています。アナグラムとは、単語や文の文字を入れ替えることによって全く違う意味の言葉を作りだす言葉遊びのことですが、ソシュールのアナグラムはそれとは異なります。

ソシュールのアナグラム研究とは、ギリシャ語やラテン語で書かれた文学作品の中から一節を取り出して、その中から拾いだした言葉がその作品のテーマに一致するものになるという研究です。

ソシュールがアナグラム研究に没頭した理由は謎とされており、近代言語学の父と呼ばれるソシュールとは別に、もう一人のソシュールがいるとも説明されます。

ソシュールを学ぶためには?

ソシュール入門におすすめの本

「言葉」についての認識を新たにしてくれるソシュール入門には以下の本がおすすめです。本書は「一般言語学講義」で示された学説が具体的に解説されています。

ソシュールから始まる言語学の流れについては以下の本が参考になります。

まとめ

ソシュールがジュネーブ大学で行った3回の講義が『一般言語学講義』として出版され、そこに書かれた理論が近代言語学の基礎を作りました。その研究方法は1960年代からヨーロッパで流行した構造主義思想にも影響を与えました。言語学界においては、1960年代後半からチョムスキーの変形生成文法が注目を集めました。

そもそも、人間はなぜ言葉を使ってコミュニケーションが行えるのかという、言葉の本質について考えてみることは、一般のビジネスパーソンにとっても新たな発見を秘めているかもしれません。