『山海経』とは何?成立背景や刑天・天狗など妖怪についても解説

最も古い地理書として中国に伝わる『山海経(せんがいきょう)』。日本の妖怪のモデルが描かれているともいわれています。この記事では『山海経』についてと、そこに書かれた妖怪の記述の日本語訳原文などを紹介します。

『山海経』とは?

『山海経』は空想的な地理書

『山海経』とは、古代中国人が考えた「外なる世界」を記述した書物です。読み方は、「せんがいきょう」です。「山経」と「海経」の二つで構成され、「山経」は人々の暮らす世界である生活領域の外にある空間である山岳や川沢について、「海経」は中国世界の外にある異族の空間について書かれています。

『山海経』には多くの鬼神や妖怪・鳥獣についての解説があり、もともと絵図がついていた、あるいは絵図の説明書であったとも考えられています。しかし現在流布されている山海経に付けられた「山海図」とされる絵図は、明代以降に本文をもとに想像して書き加えられたもので、絵図の原本は喪失しています。

想像上の動物や国々の地理や地誌が記された『山海経』は、古代中国人の世界観を知る上で貴重な民俗資料とされています。

『山海経』は安全な旅をのためのガイドブックだった

当時の人々が生活圏から外に出る時に、危険を避けたり有益な薬草や鉱物を得たりするためのガイドブックとして『山海経』は使われていたようです。『山海経』を携えて日本にやってきた人がいたかどうかは不明ですが、日本に渡来して定着、あるいは発展した妖怪の姿もあると考えられています。

『山海経』の成立年と著者は不明

『山海経』のはっきりとした成立時期や作者はわかっていません。戦国時代から漢代(紀元前4世紀~3世紀頃)にかけて、さまざまな人の手が加えられながら徐々に成立していったものと考えられています。

後の知識人に「荒唐無稽の書」とされた

『山海経』は山岳や川沢の地名、植物や鳥獣、鉱物などの名称や属性が記されている一方で、そこに生息する超自然的な異形の存在についても記されているため、正統な地理書や博物誌として分類されていません。

「出入りするときは必ずつむじ風、にわか雨をともなう。ここには怪神多く、すがたは人の如くで頭には蛇をいただき、左右の手には蛇を持つ。怪鳥が多い。」などと記述されています。

司馬遷の『史記』の中にこの書名が登場しますが、「『山海経』の有するところの怪物に至りては、余はあえて之を言わざるなり」と記され、知識人の間では否定的に扱われてきました。

『山海経』は前漢末に整理されて解題がつけられていますが、長い間、荒唐無稽の書として学者からは重要視されてきませんでした。日本の妖怪との関連については今後の研究が待たれるところです。

『山海経』から「妖怪」を記述した日本語訳原文を紹介

『山海経』に出現する妖怪・天狗

獣がいる、そのかたちは狸のようで、白い首、名は天狗(てんこう)。その声は榴榴(未詳)のごとし。もって凶をふせぐべし。

特別な霊能がある狗(犬)の類族の狸のようなものとして認められたため、「天狗」という名がつけられたと考えられます。日本の「天狗」とは違う姿であるため、日本の天狗のルーツではないかと思われます。

『山海経』に出現する妖怪・刑天

形天(けいてん)と帝がここにいたって神争いをし、帝はその首を斬り、これを常羊の山に葬った。そして形天は乳を目となし、へそを口とし、たてとまさかりを持って舞った。

神である刑天は首がなく、胴体が顔になっており、たてとまさかりを持って舞う姿で描かれます。敗北しても屈しない精神の象徴とされ、詩に詠まれるなどしました。

『山海経』に出現する妖怪・鳧徯

鳥がいる、その状は雄鶏のごとくで人面、名は鳧徯(ふけい)。鳴くときはわが名を呼ぶ。これが現れると戦いがおこる。

(参考)孔子の言葉

「怪力乱神を語らず」という言葉が論語にある

「怪、力、乱、神を語らず(原文:「不語怪力乱神」)」という言葉が『論語』にあります。

「(孔子は)「理屈では説明のつかない、奇怪なことや力を頼むこと、世を乱すことなどは語らず(常にあたりまえなことを説いた)」という意味です。

孔子の言葉の意図は、「怪力乱神、つまり妖怪や怪神などがもたらす災害や豊作などに一喜一憂していても仕方がない」ということを表しているという意見と、その逆に、「怪力乱神を軽くみていたのではなく、軽々しく口にすべき存在ではないとして、その不思議な力を認めていた」とする見方があります。

いずれにせよ、孔子は怪力乱神に精通していたと思われる逸話が多く残っています。当時の人々にとっての妖怪や怪神は、生活をともにする身近な存在だったことがうかがえます。

まとめ

『山海経』は荒唐無稽な書として、学者や知識人からは評価されてきませんでしたが、そのためにかえって当時の思想が伝わる貴重な資料として、近年再評価の動きが起きているようです。

日本の妖怪も『山海経』からの影響を受けているとされ、日本人になじみのある「子啼き爺」や「河童」なども『山海経』の妖怪が先祖ではないかと水木しげるが指摘しています。

また中国の古典にしばしばみられる「怪力乱神」という表現は、『山海経』に描かれた怪物や怪神のことを指しています。当時の人々の世界観を知る上でも『山海経』について押さえておくと世界観を広げることができます。