「チョムスキー」の言語学「生成文法」とは?名言や新刊本も紹介

ノーム・チョムスキーは「生成文法理論」で言語学に革命をもたらした言語学者ですが、米国の政策やメディア批判を行う政治学者としても知られています。この記事ではチョムスキーとその思想について解説し、あわせておすすめの本についても紹介します。

「チョムスキー」とは?

まずはじめにノーム・チョムスキー(1928年 – )について紹介します。

チョムスキーは「現代言語学の父」

チョムスキーとは、アメリカ合衆国の言語哲学者です。それまでの言語学に革命をもたらした「生成文法理論」を創始し、理論言語学や認知科学の分野に影響を与え、「現代言語学の父」と称されます。

チョムスキーは1955年にペンシルヴェニア大学大学院博士課程を修了し、言語学の博士号を取得しました。同年よりマサチューセッツ工科大学(MIT)に勤務し、現在はインスティテュート・プロフェッサー(名誉教授)として活動を続けています。

メディアと政治批判の論客としても活動

言語学者であるとともに、チョムスキーは1960年代から政治論や社会論などを論じており、一貫してアメリカ外交政策に対する批判を行う政治活動家でもあります。その著作やインタビューを集めた書籍の多くが日本語にも翻訳され、出版されています。邦訳された書籍についてはのちほど紹介します。

プラトン、デカルトの信奉者

チョムスキーはプラトン哲学と同様に、抽象的な命題を立て、そこから思索を進めました。チョムスキーは「子どもは言語をたやすく獲得するのはなぜか」という問いを立てました。

チョムスキーはまた、デカルトの、理性を正しく導いて、もろもろの知識の中から真理を探し出すための方法をとる合理主義哲学を信奉していると述べています。デカルト『方法序説』において示した、論理的に考える4つの規則を、チョムスキーも踏襲しています。

参考までに、デカルトの論理的に考える4つの規則を紹介します。

  • 独断と偏見を避け、明らかな考えだけを受け容れること
  • 問題はいくつもの小部分に分割し、それぞれの部分から解決すること
  • 単純な事柄から複雑な対象へと、順序に従って進むこと
  • 何も見落としていないと確信できるよう常に間違いがないか点検すること

妻のキャロル・チョムスキーも言語学者

妻のキャロル・チョムスキー(1930年~2008年)も言語学者であり、幼児の言語獲得における研究を行いました。

「チョムスキー」の思想と「生成文法」とは?

次にチョムスキーの言語学思想である「生成文法」について紹介します。

「アメリカ構造主義」の「経験論」に対立して生まれた「生成文法」理論

1930年代半ばから1960年代にかけての言語界では、アメリカ構造主義言語学が隆盛を極めていました。チョムスキーは、アメリカ構造主義の、人間が言葉を覚えるのは生まれたあとに他人の言語行動を見習って習得するという経験論に反対し、「合理論」の立場で「変形成文法理論」(略して生成文法)を構築しました。

チョムスキーの「生成文法」は、著書『言語理論の論理構造』や、『文法の構造』において提示されました。1960年代後半から70年代前半にかけて、チョムスキーの変形生成文法が言語界においてもっとも注目を集めました。

「生成文法」において掲げたチョムスキーの4つの問い

「生成文法」理論によってチョムスキーが課題としてあげた問いは次の4つです。

  1. 人間の言葉の本質とは何か
    人間が言葉について知っていることを言語能力としてとらえ、これを究明することで本質に迫る。
  2. 人間は生まれてから短期間で言葉を覚えるのは何故か
    人間は生来、抽象構造の理解や言葉を使いこなす能力が備わっているとする「合理論」を仮説する。
  3. 言語使用の特色は何か
    同じ形の文でも異なる解釈を与えることができるような、言語運用の特徴を扱う数理論を定式化する。
  4. 人間の言葉をつかさどる生物学的基盤は何か
    人間の言葉の特徴は生物学的特質に由来すると考え、脳神経科学によって実証可能だとする。

以上の観点から、生成文法理論はチョムスキーが創始して以来、脳科学や認知科学などにも大きな影響を与えながら、現在も研究が進められています。

言語習得の生得性を仮説する「合理論」

チョムスキーは「生成文法」理論において、人間は相当量の言語の知識を生得的に持って生まれ、周囲の大人たちが話す言葉を利用して言語能力を開花させるとする「生得性仮説」の「合理論」を提示しました。さらにまた、基本的な文法そのものが人間に備わっているとして「普遍文法」の考えを提示しました。

このことは、子どもの言語習得をいかに整合的に説明するかという経験論的な問題となり、合理主義者と経験主義者の間で哲学的な論争が起こりました。

生成文法理論は心理学にも影響を与えた

言葉は人間の精神構造を反映するものだとしたチョムスキーの合理論によって、言語学と心理学が結び付けられました。さらに脳神経科学なども総合した認知科学の分野の研究が進みました。

「チョムスキー」の名言

政治に関する著書より名言を紹介

チョムスキーの政治に関する著書より、チョムスキーの思想がうかがえる名言を紹介します。

不平等という事実そのものが、人々の人間関係も、意識も、生活も蝕んでいきます。あらゆる種類の否定的な影響が不平等から生まれるのです。

アメリカの初期には、富も、自由も、成功も、すべてが増えていく一方のように見えました。ただしそれは、その裏に潜む犠牲者に注意を払わない限りという限定つきでした。

わたしたちは「他人のことは気にかけるな」という下劣な格言に従わねばならないのです。それは富裕層や特権階級にとっては結構なことでしょうが、残りのすべての人にとっては破壊的なものです。

何か物事を成し遂げようと試みるとき、わたしたちはまず学ぶことから始めます。世界がどのようになっているかをまず学ぶのです。そしてその学んだことが、運動をどう進めていけばいいのかを理解することにつながります。

「チョムスキー」の新刊・おすすめの本を紹介

最後に、日本で刊行された新刊のおすすめの本を紹介します。

『誰が世界を支配しているのか?』

2018年に日本で出版された『誰が世界を支配しているのか?』(原題:Who Rules the World?)は、世界を支配する権力構造についてチョムスキーが解き明かしています。

「2017年版によせてのあとがき」では、地球温暖化に対するアメリカ共和党の危険な対応などにも触れ、アメリカが直面しているリスクは巨大だと述べています。

世界やアメリカで本当は何が起きているのかを知るために最適の本です。本書は日本で発売されてすぐにamazonランキングの国際政治情勢部門で第一位になっています。

『アメリカンドリームの終わり』

『アメリカンドリームの終わり』(原題:Requiem for the American Dream)は、チョムスキーのインタビューを構成し、2017年にアメリカで出版されたものです。チョムスキーは、この長さのインタビューに応じるのはこれが最後だと語ったということです。

本書では、極端な格差社会に陥ったアメリカについて、その原因となった「富と権力を集中させる10の原理」について語り、アメリカンドリームは崩壊していると述べています。語りかける言葉で読みやすく書かれており、翻訳も読みやすくおすすめです。

まとめ

チョムスキーは、人間は文法知識を生得的に備えた存在であり、自由意志に基づいて知識を探求する創造的な存在であるとする人間観を打ち出しました。

チョムスキーは、言語学と政治批評の異なる分野で活躍していますが、どちらにおいても、人間は創造的な存在として、物事の単純な真理を的確に見極めることが大切だと問いかけているように思えます。チョムスキーの活動から、現代の日本人は学ぶべきことがたくさんあるといえるでしょう。