「ベルクソン」とその思想とは?著書『時間と自由』や名言も紹介

アンリ・ベルクソン(1859年~1941年)は、美しい文章と独創的な思想で知られるフランスの哲学者です。この記事では、ベルクソンとその思想や、著作『時間と自由』『物質と記憶』『笑い』を紹介します。あわせてベルクソンの名言や、入門のためのおすすめの本も紹介します。

「ベルクソン」の思想とは?

ベルクソンとは「生の哲学」を代表するフランスの哲学者

ベルクソンとは、フランスの哲学者です。「生の哲学」の代表者とされ、20世紀から台頭する実存主義の先駆けともなりました。

「生の哲学」とは、19世紀後半から20世紀初めにかけてヨーロッパで展開された哲学の潮流で、合理主義や科学的思考を批判して、生の非合理的で根源的な姿を捉えようとする立場のことをいいます。ニーチェやショーペンハウアーから始まり、ベルクソンが代表とされます。

また、ベルクソンは、明快で美しい文章を書くことでも評価が高く、1927年にはノーベル文学賞を受賞するなど、文学者としても業績を残しています。

ベルクソン哲学のキーワードは「持続」「生への飛躍」

「生の哲学」は、それぞれの哲学者によってキーワードが異なります。ショーペンハウアーは「生への暗い意志」、ニーチェは「権力への意志」、ベルクソンは「持続」「生への飛躍」あるいは「生への躍動」などと呼ばれます。

ベルクソンは「フランス唯心論」の立場で唯物論と戦った

ベルクソンは「フランス唯心論」の頂点をなす身体論を展開しました。フランスでは、19世紀には定着していた実証科学的な考え方が次第に唯物論と合流し、ベルクソンの時代には一元論的な世界観に流れてゆきました。そのような中でベルクソンは、実証的形而上学の哲学を展開し、広義の唯心論であるフランス唯心論の立場で唯物論と戦いました。

フランス唯心論は、フランス・スピリチュアリズムとも言い換えられ、ベルクソンは心霊研究や神秘主義的思想に基づいた研究も行っていました。ベルクソンは、心霊現象や超常現象の科学的研究を行うイギリス心霊現象研究協会の会長も務めており、心霊研究や夢に関する著作もあります。

「ベルクソン」の著書を紹介

『時間と自由』(『意識に直接与えられたものについての試論』)、『物質と記憶』、『創造的進化』、『道徳と宗教の二源泉』はベルクソンの四大主著として知られています。

『物質と記憶』や『創造的進化』における哲学的主張について、自らが解説するのが『精神のエネルギー』『思考と動くもの』(『思考と動き』)です。ベルクソンの主著は難解ですが、この2冊はベルクソン入門書としてもわかりやすく書かれています。その他に、『笑い』という、おかしさによって引き起こされる笑いについての論文があります。

とくにおさえておきたい、第一、第二の主著と、ユニークな著書である『笑い』について概要を紹介します。

『時間と自由』1889年

「意識に直接与えられたものについての試論」が原題の『時間と自由』は、ベルクソンの第一の主著で、哲学の博士論文として書かれました。

ベルクソンは、「時間」とは何かを問う前に、時間と呼ばれるものが何かというところから考察すべきだとして、これまでの時間の概念を批判しました。そして、時間とはひろがりをもつ非空間的な空間である「純粋持続」であると説明しました。

哲学における時間の概念を捉えなおした本書は、文学者や哲学者に高く評価され、大きな影響を与えました。

『物質と記憶』1896年

第二の主著『物質と記憶』では、「イマージュ」という概念を用いて実在論と観念論を論じました。イマージュとは、事物と表象との間にある中間的な存在のことです。事物とは、人間の知覚とは別にただそこにある物のことで、表象とは、その物を情報として受容したあとに思い描く像のことをいいます。

ベルクソンは、物質である身体と持続的な物である記憶は、両極にありながら持続を通して実在することを考察しました。本書は、記憶に着目してデカルト以来の心身二元論を進化させ、脳科学の分野にも大きな影響を与えました。

『笑い』1900年

『笑い』では、アリストテレスが『喜劇について』を著わして以来、思想家たちが論じてきた笑いの意味や笑いの根底についての哲学的思索を、独創的に行っています。喜劇的な笑いと、悲劇との違いについても展開されます。

人間は、自然な生の流れの中に機械的な雰囲気を感じると、それをおかしさとしてとらえて笑いの瞬間となるとして、時間論をふまえて分析しました。心理学者のフロイトは、ベルクソンの『笑い』における分析を自著の中で称賛しています。

ベルクソンの「名言」

著書の中からベルクソンの「名言」を紹介します。

人間的であるもの以外におかしさはない

意識は、あったこととあるだろうこととの、間を結ぶ連結線であり、過去と未来の間に渡された橋である。

意識とは、自由を伴った記憶であり、そこには真の成長がある

直観とは、ひろがって無意識のふちに迫る意識である。直観は無意識の存在を私たちに教える。

人間の本質は、物理的にも精神的にも創造すること、物を製作するとともに、自己をも製作することであると私は信じている。「製作する人」というのが私の提案する人間の定義である。

「入門におすすめの本」を紹介

「精神のエネルギー」「思考と動き」

ベルクソン哲学への入門として、ベルクソンの講演録やエッセイなどをまとめた『精神のエネルギー』『思考と動き』がおすすめです。ベルクソンの思想のキーワードである「持続」や「生への飛躍」がわかりやすく語られています。

まとめ

ベルクソンの哲学は、当時の若い世代や学会まで広く受け入れられ、ベルクソンブームが巻き起こりました。夏目漱石や西田幾多郎、小林秀雄など、日本の文学者や哲学者、思想家も愛読し、影響を受けました。

ベルクソンの神秘性を秘めた哲学は、その四つの主著に語りつくされているといわれますが、研究者でさえもそれらは極めて難解だと述べており、小林秀雄のベルクソン論も未完に終わっています。