ジョン・ロックの思想とは?「社会契約論」「教育論」や名言も

「ジョン・ロック(1632年~1704年)」は近代イギリスを代表する思想家です。イギリス経験論の父として、また民主主義の政治原理の基礎を築いた政治哲学者として、近代に大きな影響を与えました。この記事では、ロックの思想や著書、名言などを紹介します。

「ジョン・ロック」の思想とは?

ジョン・ロックとは「イギリスの哲学者」

ジョン・ロックとは、17世紀後半に活躍したイギリスの哲学者です。ロックは、哲学や政治哲学の他にも、教育、自然科学、宗教など、人間の活動における領域をすべてカバーする広範なテーマにかかわる論考を残しました。ロックの代表的な思想を紹介します。

ロックの「経験論」はイギリス独自の思想を初めて形作った

ロックは、近代哲学の認識論における「経験論」を確立し、イギリス経験論の父と呼ばれます。ロックの経験論とは、人間にはあらかじめ理性が備わっているとする合理論に対して、一切の認識は知覚経験に基づいて形成されると考える理論です。

生まれたときの心は最初は白紙であり、生まれつきの原理などはなく、観念は経験から備えられるものだと説きました。人間の心は生まれたときは白紙であるということを「タブラ・ラサ(ぬぐわれた書板)」という用語で表現しました。

ロックが創始したイギリス経験論は、ジョージ・バークリ(1685年~1753年)を経て、デイビッド・ヒューム(1711年~1776年)に受け継がれました。この一連の思想は、現代のイギリス人にも受け継がれるものの考え方を明確にしたもので、イギリス独自の思想を初めて形作ったものでした。

あとで紹介する著書『人間知性論(人間悟性論)』において、経験論が論じられています。

ロックの「社会契約論」は民主主義の基礎を築いた

ロックは近代政治哲学でも大きな功績を残しました。ロックは、ホッブズ(1588年~1679年)やルソー(1712年~1778年)と同様に、自由で平等な人間が、理性に基づく社会契約を原則とする社会契約論を唱えました。

ホッブズは『リヴァイアサン』において、ルソーは『社会契約論』において、それぞれ「社会契約論」を提唱しました。ロックは『市民政府論(統治二論)』において社会契約や抵抗権について論じました。

ロックの提唱した自由で平等な市民社会の原理である社会契約論は、アメリカ独立宣言や、フランス人権宣言に強い影響を与えました。

ロックは「キリスト教の世界観」に基づいて市民社会を論じた

ロックは、人間は神によって自由かつ平等な存在として作られたとするキリスト教の世界観に基づいて、市民社会のあり方について論じました。最高の政治権力は神に由来すると考えたロックの思想は、ホッブズやルソーの、宗教を前提としない立場とは異なります。

ロックの思索は、キリスト教の信仰の上にあり、神によって創造された人間の条件を、不死なる魂とともに地上における現世的な生を持つものと規定しました。ロックは、神が定める摂理に忠実に生きることが良き生であると説きました。

その一方で、神は人間の上にあるが、人間は神にすがるものではなく、自分の足で立ち、自分の足で歩くものだという、人間の理性の有用性についての探求を行いました。

ロックの「教育論」は近代教育論の原型

ロックは、近代教育論の原型を『教育論』で提示しました。「タブラ・ラサ」の主張に基づき、子どもは生まれた時は白紙の状態であるため、子どもの教育は経験的な訓練から始めることを主張しました。

また、教育でもっとも大切なことは、知識を教えたり、規則で縛るのではなく、習慣の形成であるとして、家庭教育の大切さを説きました。

「紳士は、健全な身体と道徳と知識を持つべきだ」という序文の言葉から、ロックの教育法は「紳士教育」とも呼ばれています。

「ジョン・ロック」の著書を紹介

『人間知性論』(『人間悟性論』)1689年

『人間知性論』は、ロックの哲学における主著です。イギリスが近代市民社会へと変革する中で、イギリス人の思想における指導的役割を果たした本書は、のちの18世紀のヨーロッパ思想にも大きな影響を与えました。

『人間知性論』の書かれた目的は、経験論の立場から人間の知性のあり方と限界を考察することです。ロックの多岐にわたる分野の思索は、本書の経験論的認識論に集約されました。

『統治二論』1690年

『統治二論』(とうちにろん)は、ロックの政治哲学の主著です。二篇の論文から成り、『統治論二篇』『統治論』『市民政府論』『市民政府二論』とも呼ばれます。

第一論では王権神授説を否定し、第二論では政治権力の起源を社会契約によるものだと示しました。本書に書かれた自由主義の思想は、アメリカ独立宣言の原理の核心となり、フランス人権宣言の思想にも影響を与えました。

「ジョン・ロック」の名言とは?

ロックの主著から、思想がわかる名言を紹介

もし私たちが知性はその視線をどこまで及ぼせるか、その機能はどこまで絶対確実に達するか、どんな場合にはそうだと判断し、憶測できるだけなのかを見いだせたら、私たちは現世で得られるもので満足することを学べるだろう。

この世での私たちの仕事は、なんでも知り尽くすことではなく、私たちの行いに関係のあるものを知ることである。

経験に私たちのいっさいの知識は根底を持ち、いっさいの知識はこの経験から究極的に由来する。

心の主要活動は次の二つ、思考すること、意志することである。

真理に至る最善の道は、事物をあるがままに検討して、自分ひとり空想したとおりのものだとか、他人に教わって想像したようなものだと推察、断言しないことである。

人間は、不死なる魂のほかに、この地上における現世的な生を持っている。

まとめ

ロックは、人間の理性の限界を自覚しながら、理性の有用性について探求しました。人間の理性を過信せず、有用なものとしていかに理性を行使していくかを考察したロックの思想は、キリスト教の世界観を前提としたものでしたが、現代の私たちも絶えず振り返るべき普遍的な思想であるといえます。