西洋美術のテーマに「最後の晩餐」がよく取り上げられます。とくにレオナルド・ダ・ヴィンチが描いたサンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会の壁画が有名です。「最後の晩餐」とはどのような意味を持つ場面なのでしょうか?
この記事では、「最後の晩餐」が書かれた聖書の内容と、その意味を解説します。あわせてレオナルド・ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』についてと、見学方法についても紹介します。
「最後の晩餐」の意味とは?
レオナルド・ダ・ヴィンチ『最後の晩餐』
(出典:Wikimedia Commons User:Hello world)
「最後の晩餐」は「ユダの裏切り」の預言に意味がある
「最後の晩餐(さいごのばんさん)」は、イエス・キリストと12人の使徒が囲む過越祭の晩餐の場面を描いたものです。この晩餐の翌日にイエスは逮捕されるため、「最後の」晩餐と呼ばれます。
「最後の晩餐」のポイントは、使徒ユダの裏切りによって、イエスが逮捕されることを「その場でイエスが預言すること」にあります。
「ユダの裏切り」とは?
ユダは、イエスを敵視していたユダヤの祭司長たちに、銀貨30枚でイエスを売り渡す手はずを整えていました。それは秘密だったはずですが、「最後の晩餐」の場において、イエスが突然「あなたがたのうちの一人が、わたしを裏切ろうとしている」と発言します。
そのイエスの言葉によって、使徒たちに動揺が広がる、という場面が切り取られて描かれたのが「最後の晩餐」です。そのため「最後の晩餐」は、たんなる食事の風景ではなく、「ユダの裏切り」が告げられる場面を描くことに意味があります。
最も有名な絵画の作者は「レオナルド・ダ・ヴィンチ」
「最後の晩餐」はもともと新約聖書にあるエピソードで、これを題材に何人もの画家が作品を描いています。その中でも特に有名な作者は「レオナルド・ダ・ヴィンチ」です。ミラノにある、サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会の食堂に描かれたもので、現在でも見学することができます。
レオナルドが描いた「最後の晩餐」については、後ほど歴史や技法などを詳しく紹介します。
裏切り者のユダはどこにいる?
ユダの位置は「イエスの向かって左側の3番目」
レオナルドが描いた「最後の晩餐」では、ユダはイエスの向かって左側の3番目に座る人物です。その特徴として、右手に銀貨が入った袋を握っています。
レオナルドの絵は「イエス・キリスト」と「12人の使徒」が並んだ表現が斬新
伝統的な『最後の晩餐』では、裏切り者のユダはそれとわかるように、テーブルの反対側に描かれることが多かったところを、レオナルドは他の弟子たちと同列に並べて配置しました。それとともに、動揺する使徒たちの表情やしぐさを、リアリズムの手法でひとりづつ細かく描き、臨場感を表現しました。このような描き方は、当時として斬新な表現でした。
さらに、綿密な遠近法を用いることで、食堂の実空間と、壁に描かれた絵画の空間に連続性が生まれ、鑑賞者はその場にいるような錯覚を覚えるように計算されていました。
「最後の晩餐」の場面解説
「最後の晩餐」は『新約聖書』の「福音書」すべてに登場するエピソード
「最後の晩餐」は、『新約聖書』におさめられた4つの福音書のすべてに描かれているエピソードです。それぞれに記述の仕方は異なる部分がありますが、『ヨハネ福音書』における、絵画に描かれる部分の記述は次のような流れです。
「最後の晩餐」は「キリストの受難」のテーマに含まれる工程の一場面
「最後の晩餐」は、いくつかのテーマで構成される「キリストの受難」のうちの一つです。「キリストの受難」は、「最後の晩餐」から始まり、「ペテロの否認」「十字架の道行き」「磔刑」「十字架降下」「嘆き」「キリストの埋葬」などのテーマで絵画などに繰り返し描かれました。
「ユダの裏切りの予言」は、その後に続く「イエスの受難」の始まりを告げるモチーフとして、「最後の晩餐」に描かれてきました。そのため、ユダだけがテーブルの向かい側に座り、イエスと対面する姿で描かれたり、聖人の証である頭の上の光輪が描かれなかったりするなど、ユダの描写が工夫されました。
レオナルド・ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』とは?
『最後の晩餐』
(出典:Adobe Stock)
数多く描かれてきた「最後の晩餐」の中で、最も有名なレオナルド・ダ・ヴィンチの作品について解説します。
ミラノ「サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会」の食堂に描かれている
レオナルドの『最後の晩餐』は、ミラノにあるサンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会の修道院食堂の壁画として1495年~1498年に描かれました。横幅が9メートル余りもある巨大な壁画ですが、未完となることが多いレオナルドの絵画の中では完成した数少ない絵画です。
しかし、壁画に向かないテンペラ技法で描かれたため、損傷が激しい絵画としても知られ、1999年の修復作業によって現在の姿に整えられました。
演劇の一場面のような「臨場感」が仕掛けられている
レオナルドは、宮廷の舞台演出も行っていたこともあり、その手法を絵画にも応用しました。『最後の晩餐』を描くにあたって、弟子たちが動揺した一瞬の動きを振り付けた脚本を起こしていたことが、残された手稿からわかっています。
例えば、激高したペテロ(左から4番目)は、裏切り者に襲いかかろうと手にナイフを持っています。また一番左端にいるバルトロマイ(ナタナエル)は、今聞いた言葉が本当なのかと驚いて立ち上がり、身を乗り出しています。イエスの右隣に座るヨハネは、あきらめたようにぐったりと身を傾けています。
さらに、12人の使徒たちは3人組のグループに分けられているため、多様な動きがあっても調和がとられています。
描かれた3つの窓の役割
イエスの背後には、空間を感じさせる3つの窓が描かれています。これは奥行きを示すとともに、光輪を描かないイエスに背後から光をあて、特別な存在として浮き立たせている仕掛けです。このように臨場感を高めるためにさまざまな仕掛けがほどこされています。
レオナルドの『最後の晩餐』を見学するには?
サンタ・マリア・デッレ・グラッツィエ教会正面
(出典:Wikimedia Commons User: Gogo Lawrence)
入れ替え制のため事前にチケット予約が必要
レオナルドの『最後の晩餐』を見学するためには、事前予約が必要です。見学は決められた人数ごとに入れ替え制となっています。毎月第1日曜日は無料ですが、予約は必要です。下記予約サイトから予約ができます。
公式サイトからの予約が難しい場合は、日本のトラベル会社などのホームページから現地ツアーの予約も行えますので、検索してみてください。
まとめ
「最後の晩餐」とは、『旧約聖書』における、「イエスの受難」が始まることを告げる重要な場面を表現したものです。イエスを裏切ったユダが、特別な描き方をされていることが特徴です。
レオナルド・ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』では、それまでの図像を覆す表現を行ったため、さまざまな憶測を呼びました。とくに、ダン・ブラウンの小説『ダ・ヴィンチ・コード』では、イエスの向かって左に座るヨハネは、実はマグダラのマリアであり、マリアはイエスと恋愛関係にあったとして、その暗号がこの絵に隠されているとする構想を用いました。
レオナルドの『最後の晩餐』は、イタリア旅行の際には一度は見学したい作品ですが、美術館に収蔵されているのではなく、教会内の修道院の壁画として描かれているため、見学がしにくい絵画かもしれません。
なお、ミケランジェロの壁画『最後の審判』は、バチカンの「システィーナ礼拝堂」内の壁画です。
■参考記事
『最後の審判』とは?聖書箇所を解説!ミケランジェロの鑑賞も
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ペテロはヨハネにそれが誰なのかをイエスに尋ねるように頼む
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ヨハネはイエスに体を傾け尋ねる
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イエスは「それは私がパンを浸して与える者です」と言いユダに与える