「受胎告知」の意味とは?聖書や日本にあるエル・グレコの作品も

「受胎告知」は西洋美術の重要なテーマとして、繰り返し芸術家たちによって表現されてきました。「受胎告知」とは、どのような意味を持つのでしょうか?

この記事では、『聖書』に書かれた受胎告知の場面と、その意味や描かれ方の特徴を解説します。あわせてレオナルド・ダ・ヴィンチやボッティチェリなどの有名な絵画作品や、日本の美術館が所蔵するエル・グレコの作品なども紹介します。



「受胎告知」(英語:The Annunciation)の意味とは?

「受胎告知」とは「マリア」の処女懐胎をガブリエルが告げる出来事

「受胎告知(じゅたいこくち)」(英語:The Annunciation)とは、大天使ガブリエルがマリアの前に現れ、マリアが聖霊によってイエス・キリストを妊娠したこと、つまり処女懐胎を告げる出来事のことをいいます。

聖母マリアへの信仰が高まるとともに、キリスト教芸術作品として数多くの「受胎告知」の場面が描かれてきました。

「受胎告知」は『新約聖書』に書かれたキリストの重要なエピソード

「受胎告知」のエピソードは、『新約聖書』における、イエス・キリストの物語における重要な場面です。『新約聖書』の「ルカ福音書」によれば、天使ガブリエルが、マリアのところに来て「おめでとう、恵まれた人よ。主があなたとともにおられます。」と告げます。マリアがとまどうと、天使は、聖霊が神の子を授けたこと、男の子が生まれるので名をイエスと名付けること、などを告げます。マリアは「わたしは主の召使い、お言葉のとおりに」と答えると天使は去り、次の場面に移ります。

なお、「マタイ福音書」にも受胎告知の場面が書かれていますが、こちらは内容が異なり、マリアの夫ヨセフの夢に天使が現れ、マリアの受胎を告げることになっています。この場面を描いた絵画には、ジョルジュ・ド・ラ・トゥールの『ヨセフの夢』などがあります。

「受胎告知」にはマリアの純潔を表す「白い百合の花」が描かれる

「受胎告知」では、天使ガブリエルは大きく美しい翼をもった姿で描かれます。あわせて聖霊を表す白い鳩や、マリアの純潔を象徴する白い百合などが重要な小道具として描かれます。

「受胎告知」の場面は、キリスト教正典ではない外典と呼ばれる書物にも記されており、その内容にバリエーションがあります。そのため、天使が現れるときのマリアは、布を織る仕事をしていたり、読書をしていたりする姿で描かれます。

また、マリアが修道院で育てられたという伝説から、告知の舞台は修道院であることが多いですが、豪華な宮殿の中にいることもあります。

有名な『受胎告知』の絵画とは?

無数にある『受胎告知』の絵画の中から、代表的なものを紹介します。

ジョット「スクロヴェーニ礼拝堂」内の壁画(1305年)

スクロヴェーニ礼拝堂内部
(出典:Wikimedia Commons User:Rastaman3000)

ジョット・ディ・ボンドーネ(1267年頃~1337年)は、ゴシック期から初期ルネサンス期を代表する画家です。イタリア・パドヴァのスクロヴェーニ礼拝堂内に手掛けた壁画が代表作です。礼拝堂は聖母マリアに捧げられたもので、聖母マリアとイエスの生涯がフレスコ壁画として描かれています。

『受胎告知』 内陣アーチ左側に描かれた大天使ガブリエル
(出典:Wikimedia Commons User:Petrusbarbygere)

『受胎告知』 内陣アーチ右側に描かれたマリア
(出典:Wikimedia Commons User:Petrusbarbygere)

『受胎告知』の場面は最重要な場面として内陣アーチの左右に描かれています。それまでの平面的なビザンティン様式を離れ、写実的な空間や人物の自然な動作や感情を取り入れた描写方法は、革新的なものでした。

シモーネ・マルティーニの『受胎告知』(1333年)

『受胎告知』ウフィツィ美術館(イタリア・フィレンツェ)
(出典:Wikimedia Commons User:Tm)

シモーネ・マルティーニ(1284年頃~1344年)はゴシック期の先鞭となったイタリアの画家です。マルティーニの『受胎告知』は、それまでの様式から離れた新しい図像を打ち出しました。マリアは、ガブリエルのお告げを恭順に受け入れる姿で描かれるのが一般的でしたが、本作品のマリアは戸惑いの表情をみせ、体をよじらせています。風をはらんだマントの描写も新しいものでした。

フラ・アンジェリコの『受胎告知』(1450年)

『受胎告知』サン・マルコ美術館(イタリア・フィレンツェ)
(出典:Wikimedia Commons User:Alonso de Mendoza)

修道士画家であったフラ・アンジェリコは、「受胎告知」を10点近く描いていますが、その中でも最も親しまれているのが、サン・マルコ美術館内に描かれた壁画の『受胎告知』です。サン・マルコ美術館は前身が修道院であり、フラ・アンジェリコも居住していました。

フラ・アンジェリコは「天使のような修道士」とも呼ばれ、その性格が反映されたような柔らかい作風が特長です。この『受胎告知』では、ガブリエルの豪華な衣装と多色使いの翼が印象的です。

レオナルド・ダ・ヴィンチの『受胎告知』(1475年~1485年)

『受胎告知』ウフィツィ美術館(イタリア・フィレンツェ)
(出典:Wikimedia Commons User:Slick-o-bot)

レオナルド・ダ・ヴィンチ (1452年~1519年)の初期の代表作『受胎告知』は、ヴェロッキオの工房で修行していた頃に描かれました。天使の翼などは他の画家が描いたとされます。右手の指を2本立て、いわゆるピースサインをしています。死者の木である4本の杉の木は、イエスの運命を示しています。

ボッティチェッリの『チェステッロの受胎告知』(1489年頃)

『受胎告知』ウフィツィ美術館(イタリア・フィレンツェ)
(出典:Wikimedia Commons)

サンドロ・ボッティチェッリ(1445年~1510年)は、初期ルネサンスで活躍したフィレンツェの画家です。チェステッロ聖堂のために描かれた本作品では、マリアの手がとまどいと受け入れを表現し、ガブリエルの手と呼応しています。ここでは聖書の場面を忠実に表すというより、二人のドラマが劇的に描かれています。

大原美術館が所蔵する「エル・グレコ」の『受胎告知』(1599年~1603年頃)

 『受胎告知』大原美術館(倉敷)
(出典:Wikimedia Commons User:DcoetzeeBot)

ギリシャ出身の画家エル・グレコ(1541年~1614年)の『受胎告知』は、倉敷の大原美術館が所蔵しています。ガブリエルはマリアの前にひざまずくのではなく、閃光の中を雲の上に乗って出現するという珍しい構図で表現されています。

大原美術館(倉敷)

まとめ

「受胎告知」とは、『新約聖書』に記された、天使ガブリエルが聖母マリアのもとを訪れ、マリアが聖霊によって懐妊したことを知らせる場面のことです。イエス・キリストとともに、聖母マリアへの信仰も盛んとなり、それにともなって多くの『受胎告知』が描かれました。

時代や作家によって異なるマリアの感情表現の仕方や、ガブリエルの登場の仕方、さらに一緒に描かれる小道具などに注目しながら、『受胎告知』をピンポイントで鑑賞してみるのもおすすめです。