「一角獣(ユニコーン)」とは何か?海の一角獣やタペストリーも

ヨーロッパ中世の美術に描かれた「一角獣(ユニコーン)」は、イエス・キリストの象徴だとされます。架空の動物ユニコーンはどのようにして生まれたのでしょうか?

この記事では、「一角獣(ユニコーン)」とは何かについてと、その伝説を紹介します。あわせて、「海の一角獣」イッカクとの関係や、有名な「一角獣のタペストリー」についても解説します。



「一角獣(ユニコーン)」とは何か?

「一角獣(ユニコーン)」とは「一角をもつ馬に似た伝説の生き物」

「一角獣(いっかくじゅう)」または「ユニコーン」とは、額の中央に一つの角をもつ伝説の生き物のことです。一般的に、白馬に細い角が生えた姿で表現されることが多いですが、伝説の生き物であり、実在はしていません。

「一角獣(ユニコーン)」はキリスト教との関係があるため、宗教画としても描かれます。キリスト教との関係についてはのちほど解説します。

「一角獣」の英語は「Unicorn(ユニコーン)」

一角獣は英語で「Unicorn」と書きます。カタカナ語「ユニコーン」は英語が由来のカタカナ語です。

「海の一角獣」は実在する「イッカク」のこと

「一角獣」は、実在する海の動物「イッカク」の別名でもあります。イッカクとは、イッカク科クジラ類の哺乳類で、雄には角状に伸びた1本の長い牙があります。この牙は、左まきにねじれながら成長し、2メートルを超えることもあります。牙は頭から生えている角のように見えます。北極海に生息しています。

「一角獣(ユニコーン)」とイッカクとの関係については、のちほど紹介します。

「一角獣(ユニコーン)」の伝説とは?

「処女と一角獣」ドメニコ・ザンピエーリ
(出典:Wikimedia Commons User:Never covered)

「一角獣(ユニコーン)」の伝説とキリスト教との結びつきは、どのようにして生まれたのでしょうか?

『フィシオログス』の記述により一角獣とキリストが結びついた

中世ヨーロッパで広く読まれた『フィシオログス』(博物学者という意味)の中で、一角獣が詳しく解説され、一角獣のイメージの原型が形作られました。さらに一角獣とキリスト教との関連もこの書で述べられました。

『フィシオログス』は、さまざまな動物や植物の姿や伝承が解説され、それに関連する教訓が聖書からの引用とともに著された書です。ヨーロッパに伝わる動物寓意譚の原型になったものと言われています。

一角獣については次のように記述されています。

一角獣はヤギのように小さいが、非常に獰猛で、額に一つの角を持っている。一角獣は捕らえることができないが、一角獣の森に処女を連れてゆくと、一角獣は彼女の懐に飛び込む。乙女の膝の上に頭を載せて寝入ったところであれば、捕まえることができる。

さらに一角獣は、『聖書』の『ヨハネ福音書』の一節を引いて、キリスト教へ次のように結びつけられます。

この方法において、イエス・キリストはマリアの胎内に入った。ダビデは次のように言う。「私の角は一角獣の角のようにあなたを高めるであろう」そのうえ、一角獣の角は救世主の言葉を意味している。

「私と私の父とは一つである」(『ヨハネ福音書』10章30節)

このように一角獣の捕獲とマリアの処女懐胎とが結び付けられ、一角獣は、キリストを象徴する図像として表現されるようになりました。

「シュメール」に伝わる古代詩の記述が影響した可能性がある

古代メソポタミアのシュメールには、頭をもたげた王が聖婚を成就するために花嫁の膝を求めるという詩があります。『フィシオログス』に記された、乙女の膝に頭を載せる一角獣の伝説は、古代の王の婚姻に関する比喩として、マリアの処女懐胎につなげられた可能性があります。

「一角獣の角」だと偽って「イッカク」の角が薬として珍重された

イエスとの結びつきから、一角獣は特別な癒しの力を持つと信じられ、角には解毒作用があるとされました。また一角獣が角を有毒な水に浸すと、水が浄化されるという伝説も生まれたため、中世に描かれた一角獣は、乙女の膝に頭を載せるか、水に角を浸す姿で描かれています。

中世ヨーロッパでは、一角獣の角だと偽って、実際にはイッカクの角が解毒剤として販売されました。オランダを通して江戸時代の日本にも輸入されていました。

イッカクの角がユニコーンの角だと信じられたため、絵画などに描かれたユニコーンの角は、細長い螺旋形状のイッカクの角を持つ姿となっています。

中世美術の傑作として有名な「一角獣のタペストリー」を紹介

ユニコーンは絵画など芸術のテーマとして描かれてきましたが、中でも中世美術の傑作とされるユニコーンのタペストリーが知られています。2つのタペストリーを紹介します。

『貴婦人と一角獣』のタペストリー

『貴婦人と一角獣』「我が唯一つの望みに」
(出典:Wikimedia Commons User:Thesupermat)

『貴婦人と一角獣』は、パリの国立中世美術館(クリュニー美術館)に収蔵されている、6枚連作のタペストリーです。タペストリーの最高峰とされ、15世紀末頃にフランドルで織られたものとみられています。

タペストリーには、若い貴婦人とユニコーンがそれぞれの場面をともなって描かれ、ライオンや猿なども登場します。

5枚は「聴覚」や「視覚」など五感を表しているとされるもので、1枚は「我が唯一つの望みに」と書かれた、他とは異なる謎を秘めた図像となっています。貴婦人はネックレスを外し、侍女に渡しています。ネックレスをこれから身に着けるところだと見ることもできます。

この1枚のタペストリーはさまざまな解釈がなされてきました。旧約聖書の雅歌にある「あなたの一目も、首飾りのひとつの玉も、それだけで、わたしの心をときめかす」と関連づけられて解釈されることもあります。

『一角獣狩り』のタペストリー

ニューヨークのメトロポリタン美術館には『一角獣狩り』という7枚連作のタペストリーがあります。『貴婦人と一角獣』のタペストリーと同時期に、フランドルで織られた可能性が高いとされています。

「一角獣狩り」の6番目のタペストリーでは、一角獣は狩人に殺害されます。7番目では閉ざされた園で一角獣が復活して物語が終わります。

容赦なく捕らえられ、殺される一角獣の物語は、イエス・キリストの生涯を象徴していたものであるとの説もあります。古代キリスト教会は、それまでの異教の聖地の上に建てられました。キリスト教の伝説にも異教の物語を取り込み、人気の高い一角獣を聖なる存在として取り込もうとしたとの解釈です。伝統的解釈として、一角獣が頭を預けているのは処女マリアであり、一角獣はその胎内に宿るイエス・キリストだとされます。

まとめ

「一角獣(ユニコーン)」は、古代の伝承からその姿が想像された架空の動物で、キリスト教と結びついて聖なる存在となりました。海の一角獣であるイッカクの角が、解毒作用があるユニコーンの角だと偽って売られ、ユニコーンの角はイッカクの角とそっくりに描かれました。

ユニコーンが、乙女の膝に頭を載せるとおとなしくなるという伝説から、マリアの処女懐胎に結び付けられたことは少々強引な気もしますが、このことはキリスト教が、それ以前に流布していた伝説や異教を取り込みながら発展してきたことの、一つの例であるといえます。