「ベルニーニ」とその作品とは?彫刻「アポロンとダフネ」も解説

イタリア・バロック芸術の巨匠「ベルニーニ」。現在もローマを訪れる人は、至る所でベルニーニの傑作に出会うことができます。この記事では「ベルニーニ」について紹介するとともに、バチカンのサン・ピエトロ大聖堂に関するベルニーニの作品や、彫刻の代表作品などについて解説します。

「ベルニーニ」とは?

ベルニーニ自画像(1630~35年)ボルゲーゼ美術館
(出典:Wikimedia Commons User:Scewing)

「ベルニーニ」とはローマ・バロック芸術の巨匠

ジャン・ロレンツォ・ベルニーニ(1598年~1680年)とは、バロック期を代表するイタリアの建築家です。バロック芸術の最も典型的な彫刻や建築を多く残し、その作品の多くはバロック芸術の最高峰と称されます。

彫刻家の父のもとに生まれたベルニーニは、神童とも呼ばれる芸術の才能を幼い頃から発揮し、教皇ウルバヌス8世をはじめとする多くのパトロンを得ます。バチカンのサン・ピエトロ大聖堂に大きな足跡を残し、ローマの芸術界に生涯にわたって君臨しました。

なお、バロックとは、16世紀末のイタリアに始まり、18世紀前半までのヨーロッパで流行した芸術様式です。調和を重視したルネサンス様式に対して、バロック芸術は出来事の一瞬を激情的なドラマのように演出する構成や、過剰なまでに壮麗な装飾形式が特徴です。建築、絵画、彫刻、音楽などあらゆる分野でその様式が確立しました。

「ベルニーニ」の代表作品を紹介

『アポロンとダフネ』(1622年~24年)

『アポロンとダフネ』ボルゲーゼ美術館
(出典:Wikimedia Commons User:Int3gr4te~commonswiki)

『アポロンとダフネ』は、ベルニーニの彫刻の初期における代表作品で、「芸術における革命」とも評されるほど高い評価を得ました。

固い大理石でできているとは信じられないほど躍動的かつ繊細な人物や情景が表現され、その構成は複雑でありながら完璧に調和しています。

作品の主題は、アポロンから求愛されたダフネが自らの姿を月桂樹に変えるという、ギリシャ神話の物語の一場面です。アポロンから逃れようとする瞬間をダイナミックに表現しており、ドラマのある一瞬を固化させるバロック彫刻の代表作品です。

『聖女テレジアの法悦』(1647年~52年)

『聖女テレジアの法悦』サンタ・マリア・デッラ・ヴィットーリア聖堂コルナーロ礼拝堂
(出典:Wikimedia Commons User:Jastrow)

『聖女テレジアの法悦』は、ベルニーニの彫刻の中で人気の高い作品のひとつです。「聖テレジア」は、生涯のうちで何度も神秘的な恍惚状態に陥ったとされる実在の修道女で、聖人に列せられています。この彫刻の場面は、テレジアが槍を持った天使に出会ったとする回想録を再現したものです。

バロックでは光に超越的な性格を認め、神秘的な演出が行われました。ベルニーニは本作品において、天井からの神秘の光を細い金色の棒で表現し、加えて上方の窓から実際の光も降り注ぐように設計しました。彫刻と建築の両面から、神秘の場面を巧みに演出することもベルニーニの特徴です。

バチカン宮殿の階段「スカラ・レジア」(1663年~66年)

リラ紙幣の表と裏
(出典:Wikimedia Commons User:OneArmedMan)

サン・ピエトロ大聖堂からバチカン宮殿に続く階段「スカラ・レジア」は、遠近法の錯覚を巧みに利用して実際よりも壮大に見せる階段としてベルニーニが設計しました。

階段の柱列が上に行くにしたがって幅と高さが縮小されてゆく構造になっており、下から見上げた時に実際よりも奥深く感じられます。

表にベルニーニの肖像が採用された、2000年まで流通していたイタリアの5万リラ紙幣の裏には、スカラ・レジアの階段の1点透視図と断面があしらわれています。

ベルニーニは建築以外にも透視図法を駆使し、舞台芸術のためのデザインや絵画も制作しました。

ベルニーニが手掛けた「サン・ピエトロ大聖堂」に関する作品

「サン・ピエトロ大聖堂内部の大天蓋」(1624年~1633年)

バルダッキーノ

サン・ピエトロ大聖堂内部の巨大な大天蓋(バルダッキーノ)は、9年の歳月と大金を費やして制作されました。高さ28はメートルあまりもあり、独特の装飾で覆われた大天蓋は、かつて存在しない規模の芸術品で、訪れた人々を驚かせました。制作から400年近く経過した現代においても、見る人を驚嘆させています。捻じれた円柱が支える天蓋が覆う主祭壇の地下には、ペトロの墓があります。

「サン・ピエトロ広場」の設計(1656年~1667年)

サン・ピエトロ大聖堂から見た広場の眺望

ベルニーニはバチカンで多くの仕事を行いましたが、その最大の仕事がサン・ピエトロ広場の設計です。ベルニーニが設計した、4列のドリス式円柱からなる列柱廊に囲まれた壮大な楕円形の広場は、バロック建築の代表作例とされます。

140体の聖人像で飾られた柱廊は外部に開かれる形になっており、暖かく信者を迎え入れようとするベルニーニの意図がありました。

まとめ

スペイン広場『船の噴水』

ベルニーニはローマのために生まれたと称賛されるほど、ローマを荘厳に彩り、多くの傑作を残しました。サン・ピエトロ大聖堂の装飾や広場の整備、『アポロとダフネ』を代表とする大理石の彫刻などに加えて、ナヴォーナ広場の『四大河の噴水』や、スペイン広場の『舟の噴水』など、多くの広場に設置された彫刻や噴水にもベルニーニが手がけたものが多くあります。

ユーロが導入される前のイタリア紙幣には、バロックの巨匠ベルニーニのほかに、ルネサンスの巨匠ラファエロや、バロックの先鞭をつけたカラヴァッジョの肖像も使われました。