「年俸制」とは、「一年単位で給与の総額を決定する方法」のことです。近年広がりつつある「年俸制」にはどのような特徴があるのでしょう。残業代の有無やボーナスの支給方法、税金との関係性は?など、「年俸制」のメリットやデメリットを含めて解説します。
「年俸制」とは?
「年俸制」は「一年単位で総額を取り決める給与決定方式」のこと
「年俸制」の意味は、「一年単位で給与の総額を決定する方法」です。「年俸制」の場合、当該年度の業績・勤務実態などをもとに査定し、次年度の年俸を定めるのが一般的です。
具体的な「年俸」の決定方法は企業によって異なり、自社の賃金規定に則って算出する方法や、経営者自らが社員に年俸を提示する方法などがあります。
「年俸制」の給与は分割して毎月支払われる
「年俸制」の場合、給与総額は年単位で決定されますが、給与の支給は毎月決められた日に行われます。これは、給与は毎月一回以上支払うことが労働基準法で義務付けられているためです。
ただし、毎月にどの程度支払うかに関しては企業によって異なります。年俸を12分割し、12分の1ずつ支払う場合もあれば、年2回の賞与を考慮し、14分割(夏と冬の賞与として1分割ずつ支給)、あるいは16分割(夏と冬の賞与として2分割ずつ支給)する例もあります。
中途入社の場合は入社日から次回更改までで定める
中途入社の社員に「年俸制」を適用する場合は、入社日から次の更改日までの期間で給与総額(年俸)を決定するのが一般的です。たとえば、4/1~3/31で年俸を定める場合、入社日から3/31が年俸の対象期間となります。
なお、次年度の年俸に関しても、4/1~3/31で査定するのではなく、入社日~3/31で更改するのが一般的です。更改までの期間が短すぎる場合は、前年と同等額に設定する、あるいは同レベルの社員の平均をとる、という方法もあるでしょう。いずれにしても、他の従業員と比べ、不利にならないような決定方法が求められます。
「年俸制」の特徴とは?
「年俸制」では「固定残業代」を含む場合が多い
「年俸制」の場合、残業代を支払う必要がないと認識する人もいますが、これは誤りです。年俸制であっても、残業代の支払い義務はあります。労働基準法上の管理監督者に該当する社員以外(いわゆる管理職以外)は、「残業代なし」は違法です。
ただし、「年俸制」では、「固定残業代(みなし残業代)」を年俸に含むケースが多いのが特徴です。これは、残業が発生することを前提として、一定時間分は年俸額にあらかじめ含む、という方式です。この「固定残業代制(みなし残業代制)」であれば、違法には当たりませんが、あらかじめ定められた時間数を超えた分の残業代は別途支払い義務が生じます。
一方、「固定残業代制」である旨を契約書等で定めていない「年俸制」の場合は、「年俸」はすべて基本給の扱いとなります。そのため、別途残業代の支払い義務が生じます。
賞与・ボーナスは別枠という例も
「年俸制」では、あらかじめ年俸額に賞与を含む場合と、年俸とは別に賞与を設定する場合の2つのパターンがあります。
年俸とは別に賞与を支給する場合、毎月の給与は年俸を12分割し、その12分の1ずつの支給となります。賞与は業績などに応じて、改めて通知されることでしょう。一方、年俸額にあらかじめ賞与が含まれる場合は、賞与の支給額によって、年俸の分割数と月々支払われる額が変わってきます。
たとえば、賞与を給与一か月分とする場合は、年俸を14分割し、その14分の1ずつを毎月の給与及び賞与として、それぞれ支払います。賞与を給与二か月分と設定する場合は、年俸を16分割し、16分の1ずつを毎月の給与として、賞与として16分の2ずつ支給することも可能です。
「年俸制」でも欠勤分は控除される
「年俸制」の場合、あらかじめ一年に支給される給与が決まっているわけですが、欠勤した分の給与は当然ながら控除(天引き)されます。「年俸制」での欠勤控除額は、年俸額を所定の労働日数で割って計算した日額を控除するのが一般的です。
欠勤や遅刻、早退など労働者の都合によって勤務しなかった分の給与の取り扱いについては、賃金規定や就業規則で定められています。
「年俸制」は受取方によって税金や社会保険料が異なる
「年俸制」では賞与を含むかどうか、また賞与を1か月分とするか2か月分とするかによって、月々の支給額が異なることは先述した通りです。この「月々の受け取る額が異なる」という点は、結果として税金や社会保険料の支払いにも影響を与えます。
仮に、月々の手取りが多いと社会保険料は増えます。しかし、同時に将来受け取れる年金額も増えるので、一概にデメリットとも言えなさそうです。また、給与の受け取り方は企業が一律に定めるものなので、労働者の裁量で決められるものではありません。どちらが良いとも言い切れませんが、そういった違いがある点は覚えておきましょう。
「年俸制」でも基本給を明確にしておくことが望ましい
「年俸制」でも残業代の支払い義務は生じます。「固定残業代制」を採る場合が多い「年俸制」では、あらかじめ、「年俸額のどの部分が残業代で、基本給はいくらなのか」を明確にしておくことがポイントです。
たとえば、「年俸額600万円で、そのうち150万円を〇時間相当の残業代とする」と明確にしておくと、労使ともにトラブルになりにくくなります。雇用契約書では、残業時間のみを明記しているケースも多いですが、具体的な金額があることで、超過分の残業代の計算もしやすくなります。休日出勤分や深夜労働などの割増が発生する場合にも有効です。
「年俸制」のメリット・デメリットとは?
メリットは一年の途中で給与が減らされることがない点
「年俸制」の一番のメリットは、一年の途中で給与カットに合う心配がない点です。「年俸制」では、最初に一年分の報酬額に合意しているため、会社側が一年の途中で給与を減らすことは契約違反になるためです。
業績不振などを理由に会社側が報酬の交渉に乗り出すこともあるかもしれませんが、その場合でも本人の同意がなければ年俸額を途中で変えることはできません。
「年俸制」は成果主義が色濃くなりがちなのがデメリット
一方、「年俸制」のデメリットは、月給制に比べて成果主義の影響を受けやすいことが挙げられます。あくまでも一般的な話ですが、成果主義の導入とともに「年俸制」が広まったという背景があるため、実際の運用においても、月給制以上に信賞必罰の色が濃いのが特徴です。
「年俸制」では、一年に一度、業績や勤務実績などを考慮して年俸額が更改されます。年俸が増える分には問題ありませんが、「場合によっては生活に影響を与えるかも?」といった心配はつきものです。
「年俸制」の英語訳とは?
「年俸制」は英語で「annual salary system」
「年俸制」を英語にすると「annual salary system」となります。他にも、次のような表現があります。
- annual salary scheme
- annual wage plan
- annual salary
いずれもニュアンスに大きな違いはないので、使い分けの必要性はあまりありません。
まとめ
一年分の報酬についてその総額を決定する「年俸制」では、年俸額を分割して毎月給与が支払われます。賞与が含まれるかどうか、また、賞与が何か月分なのかによっても月々の給与が変動します。また、一定分の残業代を含む「固定残業代制」が多い「年俸制」ですが、固定分を超過した場合には、別途残業代の支払い義務が生じます。「年俸制」の運用では残業代が軽視されやすいので、企業側・労働者側ともに注意が必要です。