「頂戴いたします」はビジネスシーンでよく耳にするフレーズですが、実はこの言い回しは厳密には正しくありません。「頂戴します」「頂戴したく存じます」など、「頂戴」の意味と正しい敬語での使い方について解説します。お金や名前などシーンに応じた使い方のポイントや「頂戴」の類語・英語表現も紹介します。
「頂戴」とは?
「頂戴」の意味は”「もらう」の謙譲語”
「頂戴」の意味は、“「(ものなどを)もらう」の謙譲語”です。謙譲語とは、敬語のひとつで、相手に敬意を表すために、自分を低く見て、遜って(へりくだって)言う場合に使用する言葉です。「頂戴」は、「もらう」以外に、「食べる」の謙譲語でもあります。
「頂戴」には、「頭の上に物をいただきささげること」という意味もありますが、目上の人に何かをもらった場合や食べ物を与えてもらった場合などに主に使用する言葉と覚えておきましょう。
「頂戴」の読み方は”ちょうだい”
「頂戴」の読み方は“ちょうだい”です。
「頂戴」は文末で”ください”の意味にも
「頂戴」は、上記以外にも、文末で使用することで「ください」の意味で使うことができます。
本来、この文末での使用も謙譲表現として使われていましたが、現代では子どもが「お菓子をちょうだい」という場合、あるいは「掃除してちょうだい」などと依頼する場合のカジュアルな意味で使用されるようになりました。そのため、文末での使用は、ビジネスシーンなど目上の人に対する敬語表現には不向きと言えるでしょう。
「頂戴」は漢字表記がベター
「頂戴」は漢字で書かれる以外に、ひらがな表記を用いられる場合もあります。漢字・ひらがなともに意味に違いはなく、どちらを使用しても問題はありません。
ただし、ビジネスシーンで「ちょうだいします」とひらがなで書いてしまうと、やや稚拙な印象を与える懸念が生じます。ビジネスでの使用においては、「頂戴します」のような漢字表記がベターです。
「頂戴」の使い方と例文とは?
「頂戴します」「頂戴しました」が一般的
「頂戴」という単語は、「頂戴します」や「頂戴しました」という表現が基本です。たとえば、次のような使い方をします。
目上の人から何か物をもらった場合をはじめ、ビジネスシーンでは、お褒め言葉・賞などをもらった場合にもよく使われます。
「頂戴したい」は”もらいたい”の意味に
「頂戴したい」という表現は、「もらいたい」と相手に依頼する際に用いられる表現です。資料など「物」のほか、ビジネスシーンでは「時間が欲しい」という場合にも用いられます。
資料を頂戴したいのですが、送付いただくことは可能でしょうか
一度お会いする機会を頂戴したく存じます。つきましてはご都合の良い日をお知らせ願えますでしょうか
「頂戴したく存じます」以外にも、「頂戴したい所存です」なども同様の意味で使える表現です。日程調整など相手の都合を聞いたり、時間を作ってほしいと依頼したりする場合に便利な表現で、メールでもよく用いられます。
「頂戴いたします」は二重敬語になるのでNG
名刺交換の場で「頂戴いたします」と言葉を添えて受け取る人も多いですが、実は「頂戴いたします」という言い回しは二重敬語に当たるため、不適切です。
二重敬語とは、ひとつの文章中で敬語が不自然に重ねられた状態のことです。「頂戴いたします」は、「頂戴」と「いたします」の両方が謙譲語であるため二重敬語となります。二重敬語は、「回りくどい」「変に仰々しい」といった理由で嫌われる表現です。
本来、二重敬語は避けた方がよい表現ですが、「頂戴いたします」に関しては広く浸透しているので「許容範囲内」とする声もあります。
「お名前を頂戴する」も誤り
ビジネスシーンでは、「お名前を頂戴できますか」や「お名前を頂戴してもよろしいでしょうか」といったフレーズもよく耳にします。実は、この表現も誤りです。
「頂戴」とは「もらう」の謙譲語なので、「お名前を頂戴する」は、君主など偉い人の名前を、自分や子供の名に充てるという意味になります。単に「名前を聞く」という意味では使用することはできません。
名前を聞きたい場合は次のような表現を使用するのが適切です。
お名前をお聞かせ願えますか
お名前を伺ってもよろしいですか
「頂戴」を”お金”に使う場合はぴったりの額ならOK
レジでの会計時に受け取った額を確認する意味で、「1000円頂戴します」ということがあります。この場合、購入額が1000円ぴったりでおつりがない場合には「頂戴します」として問題ありませんが、おつりが発生する額のお金を受け取る場合に「頂戴します」というのは不適切です。「頂戴」は「もらう」という意味なので、「1000円頂戴します」はおつりがなく、その額をそのまま受け取ることになるからです。
受け取った額ではおつりが発生する場合には、「1000円お預かりいたします」という表現が適切です。
「頂戴」の類語とは?
「頂戴」の類語は”頂く”や”賜る”など
「頂戴」の類語は、“頂く(いただく)”や“賜る(たまわる)”が挙げられます。
「頂く」には、「もらう」「~してもらう」「食べる(飲む)」などの謙譲の意味があります。「お褒めの言葉を頂く」「手料理を頂く」などといった使用が可能です。
「賜る」には、「もらう」の謙譲の意味に加え、「与える」の尊敬語として「目上の人が物をくださる」の意味があります。「先日は結構な品を賜りまして、ありがとうございました」などと使います。
謙譲の度合いとしては、「頂く」「頂戴する」「賜る」の順に強くなります。特に、「賜る」は相手の厚意に対して強い感謝を述べる際に使う表現で、謙譲のレベルも強いのが特徴です。メールやお礼状に使う書き言葉としてもよく使われる表現です。
「拝受」という表現も類語の一つ
「頂戴」の類語には、“拝受(はいじゅ)”という表現もあります。
「拝受」は、「受けること」「受け取ること」の謙譲語で「謹んで受け取りました」という意味の言葉です。「もらう」の謙譲語である「頂戴」に対し、「受けとる」のニュアンスが強いのが特徴です。たとえば、メールで資料を送ってもらった場合などに「拝受しました」と使うことができます。
「頂戴」の英語表現とは?
「頂戴します」と受け取る場合の英語訳は”have”や”Thanks”
英語には、日本語のように、自らを遜って(へりくだって)言うような謙譲語は存在しません。英語で何かを「もらう」「受ける」を意味する単語は「receive」ですが、「もらいます」や「いただきます」の意味では「have(持っている)」を使うこともあります。
I will gratefully receive it.(ありがたく頂戴します)
I’m going to enjoy eating this.([食べ物をもらった際に]頂きます)
また、「頂戴します」と何かを受け取る場合には、感謝の意を示す「Thanks.」という添えることがよくあります。簡易的な表現にも聞こえますが、「頂戴します」の意味で広く用いられる口頭表現です。
まとめ
「頂戴」は「もらう」の謙譲語で、目上の人に物や食べ物もらう場合に使用する言葉です。ただし、よく使用される「頂戴いたします」は二重敬語に該当するため、聞く人によっては仰々しい印象のため嫌われることもあります。「頂戴」は、「頂戴します」や「頂戴しました」といった表現でも十分な敬意を持ちます。併せて、お金や名前に対する使い方も間違いやすい例ですので、気を付けながら使用しましょう。
先日、取締役からお褒めの言葉を頂戴し、俄然やる気が出た
若手奨励賞を頂戴したことで周囲からも認められるようになった