「自画像」とは何か?描き方や歴史と有名作品・画家を紹介

「自画像」は美術の中の重要なジャンルの一つです。有名な画家や巨匠たちも多くの自画像を残していますが、そもそも「自画像」の定義とは何なのでしょうか?

この記事では「自画像とは何か」についてと、その歴史について解説します。あわせて有名な作品と画家についても紹介しています。



「自画像」とは何か?

「自画像」とは「自分で描いた自分の肖像」のこと

「自画像(じがぞう)」とは、画家などが「自分で描いた自分の肖像(しょうぞう)」のことです。「肖像」とは「人物の顔や姿を表現した絵」という意味です。

多くの画家たちが自画像を主題とした作品を描いており、自画像は宗教画・歴史画・静物画・風景画などと並ぶ美術の重要なジャンルの一つです。

自画像はまた、技術を高めるためのデッサンとして、画家が自身を手頃なモデルとして描くものも含まれます。著名な画家のデッサンは、自画像のカテゴリーとして分類され、高く評価されているものもあります。

「現実を描写する自画像」の他に「観念的な自画像」の描き方がある

自画像は対象となる自分を忠実に描かなければならないということはなく、内面を比喩的に写し取る「観念的な自画像」の描き方もあります。たとえばキリストの受難に自身を照らし、キリストの姿に自身を反映させて描く自画像は多くの画家が描きました。

観念的な自画像には「不在の自画像」もあります。人物は登場せず、画家の持ち物や手紙を描いた静物画や、無人の部屋に「自画像」というタイトルをつける作品です。

また、過去の巨匠の姿に似せて自分を描いたり、理想とする自身の姿を過度に演出して描くことも行われます。たとえばゴッホは憧れていた日本の僧侶に自身を投影し『僧侶としての自画像』を描いています。

自画像はさまざまな目的や背景、描き方の要素が混在し、「私とは誰か」という哲学的な問いが根底にあるため、きわめて広い概念のジャンルであると言えます。

英語では「self-portrait」

「自己の(self)肖像(portrait)」である自画像は英語で「self-portrait」と書きます。

カタカナ語の「セルフ・ポートレイト」は、写真家が自分を写した写真の自画像の意味で使われることが多いですが、「self-portrait」は絵画や彫刻の自画像の意味も含みます。

「自画像」の歴史とは?

中央に一人の人物が描かれる自画像を美術のジャンルとして成立させたのは、14世紀の後半から15世紀の前半に活躍した北方ルネサンスの代表画家であるデューラーです。

「自画像」という概念がなかった中世までは、「自分の手で描かれた画家自身の絵」という表現がされており、自画像という熟語はありませんでした。この章では自画像の歴史を解説します。

15世紀頃から画家自身を「画面に列席させる自画像」が描かれ始めた

『東方三博士の礼拝』に描き込まれたボッティチェリの自画像
(出典:Wikimedia Commons)

最初に画家自身が自画像を描くようになるのは、ルネサンスの始まる15世紀頃からです。ただし、聖書の場面を描く宗教画や貴族などの肖像画の画面の端の方に、画家自身が列席する形で描かれました。画家が画面に登場する際は、鑑賞者に向かって顔を向けるように描かれることが多く、署名と同等の意味を持っていました。

たとえば初期ルネサンスを代表する画家サンドロ・ボッティチェリ(1445年~1510年)の肖像として引用されることが多い自画像は、新約聖書を主題とした『東方三博士の礼拝』(1475年)の画面右端に立つ人物像です。

ラファエロやミケランジェロなども同様に、作品の登場人物に自身の顔を紛れ込ませて描きました。ルネサンス期は、中世以来続いていた「職人としての画家」から「芸術家としての画家」へと、個人が意識を高めていった時代でした。

北方ルネサンスの画家「デューラー」が初めて独立した自画像を描いた

イタリア・ルネサンスにおいては、前述したように歴史画や宗教画、あるいは王や教皇など権力者の肖像画の中のに、登場人物として、画家自身の肖像を描き込むことが行われました。

その一方で、北方ルネサンスをけん引したアルブレヒト・デューラー(1471年~1528年)は、画家の自画像を独立したジャンルとして誕生させました。デューラーは美術史上で最初に自画像を描いた画家です。

デューラーの時代には、画家は職人と同じく社会的地位が低い職業であるとされ、絵画は芸術作品とはみなされていませんでした。デューラーは美術を改革しようとする強い信念を持っており、その一環で自画像を制作しました。

デューラーの作品についてはのちほど詳しく解説します。

近代の「自画像」は自己との対話と自己検証のために描かれた

17世紀になると、自画像は大きく発展し、一つの頂点を迎えました。名声のある画家の自画像を注文して蒐集するパトロンなどが現れたことは、画家の地位が向上したことを表わしています。

19世紀以降の近代においては、画家の地位の変化とともに自画像にも新たな展開が見られました。近代以前の帝国の時代には、才能のある画家は王侯貴族などのパトロンから生活を保障されていましたが、市民社会の成立とともに階級社会が消滅すると、画家の地位や経済状況は不安定な立場となります。

19世紀後半に興った印象派以降の画家たちは、自己の内面を見つめ、自己の対話と自己検証のために自画像を描くようになりました。

有名な自画像と画家を紹介

強いメッセージを自画像に込めた画家「デューラー」

デューラーは13歳のときに銀筆で描いた素描(デッサン)の自画像を別にして、有名な3枚の自画像を残しています。画家としてのアイデンティティを反映させたデューラーの自画像によって、美術に自画像のジャンルが確立されました。

『22歳の自画像』(1493年)

(出典:Wikimedia Commons)

『22歳の自画像』はデューラーが最初に油彩で描いた本格的な自画像で、西洋美術における初めての単独の自画像です。

上部には「天の定められたままに」という信仰への証しである一文が記されています。手に持つエリンギウムの小枝は、「男の節操」を意味し、この絵は婚約者への贈り物として描かれたと推測されています。

『26歳の自画像』(1498年)

(出典:Wikimedia Commons)

「私はこのように自分自身を描いた。私は26歳だった」と記されています。当時のドイツでは珍しかったひげをはやし、華麗で上等な衣装をまとっています。

デューラーはおしゃれで衣装道楽でしたが、貴族のように着飾る姿で自身を描くことは、芸術家が称賛を受けるに値する社会的地位にあることを誇示する目的もありました。

『28歳の自画像(1500年の自画像)』(1500年)

(出典:Wikimedia Commons)

中世後期に伝統的描かれた、シンメトリーに正面を向くキリストの肖像に似せて描かれているこの自画像は、当時から物議をかもしだしました。しかしキリストの似姿としての自画像は傲慢からではなく、神は自らに似せて人間を創造し(旧約聖書の記述)、芸術の才能は神から授かったものであるという、神への敬意の表明でした。

「ニュルンベルクのアルブレヒト・デューラーは、消し難い色で、私自身を28歳の時に描いた」と右上に記されています。左上には大きく、イニシャルADのモノグラムと「1500」が記されています。

絵の研究と自己省察のために自画像を描いた「レンブラント」

レンブラントの自画像(1658年)
(出典:Wikimedia Commons User:Jan Arkesteijn)

17世紀を代表する画家でバロック絵画の巨匠レンブラント(1606年~1669年)は、多くの自画像を描きました。構図や表情など絵の研究のために描いたり、自己省察を目的として内省的に描いたりしました。

また、ルネサンスの巨匠に自身をなぞらえて重厚に描くことで、イメージ戦略を狙うものもあり、その目的はバラエティに富んでいます。

1658年に描かれた晩年の自画像は威厳に満ちた姿で描かれ、「最も穏やかで最も壮大な作品」と評されます。

内面を反映させた特異な自画像を描いた「ゴッホ」

『包帯をしてパイプをくわえた自画像』(1889年)
(出典:Wikimedia Commons User:Mefusbren69)

オランダの巨匠フィンセント・ファン・ゴッホ(1853年~1890年)は、多くの独特な自画像を描きました。うねるような背景と鋭い眼光が印象的なゴッホの自画像は、画家の自画像としてまっさきに思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。

『包帯をしてパイプをくわえた自画像』は、ゴッホの有名な「耳切り事件」を起こした1か月後に描かれました。ゴッホはパリからアルルの「黄色い家」に移住し、ゴーギャンとの共同生活を試みますが、ゴッホが「耳切り事件」を起こしたことで破綻していました。

ゴッホが主要な絵を描いた期間は1886年から自殺する1890年までの5年ほどの短い期間でしたが、油彩だけでも40点ほどの自画像を描いています。その時々の内面を反映させた自画像には、画家の特異な人生と才能が表現されています。

孤独な自画像を描いた「ムンク」

ムンク『時計とベッドの間の自画像』(1940年~44年)
(出典:Wikimedia Commons User:MLWatts)

ムンクは生涯にわたって多くの内省的な自画像を描きました。それぞれの時のありのままの自分の姿を描き、特に孤独や不安を感じさせるものを多く描きました。

晩年には死に立ち向かう孤独と抵抗が感じられる厳しい姿が描かれました。『時計とベッドの間の自画像』は最後の自画像で、年老いたムンクが死を象徴するベッドと時計の間に立っています。扉の向こうは画家の人生を象徴するたくさんの絵が壁に掛けられ、太陽の光に照らされています。

まとめ

「自画像」の概念を確立したデューラー以降、画家たちは繰り返し自己の内面を反映させた自画像を描いてきました。その自画像には、画家を取り巻く社会との関係や、世界観、自己の心的表象など、複数の要素が多様な形で現れています。

ルネサンス以降の、巨匠と呼ばれる画家たちのほとんどが、印象深い自画像を描いています。気になる画家の背景について知りたいときは、その画家の自画像について調べると、画家を取り巻く世界を多角的に知ることができます。

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趣味は読書とヨーロッパ旅行です。ドイツには5年余り滞在経験があります。某大学の人間科学部とデザイン学部を卒業。心が豊かになる知識の探索を人生の糧にしています。