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「アガメムノン」とは?マスクやアイキュロスのギリシャ悲劇も

「アガメムノン」は伝説上のギリシアの指導者です。シュリーマンが発掘した「アガメムノンのマスク」がよく知られていますが、アガメムノンは実在の人物なのでしょうか?

この記事では、アガメムノンとはどのような人物なのか、また実在したのかどうかについて解説します。あわせてギリシャ神話の歴史やアガメムノンにかかわる物語のあらすじなどについても紹介しています。

「アガメムノン」とは?

アガメムノンとは「トロイア戦争の総大将」

「アガメムノン」とは、ギリシャ神話の英雄です。ギリシャ神話の物語では、ミケーネ王アガメムノンは小アジアのトロイアに戦争を仕掛け、トロイアのイリオスを滅ぼします。のちにホメーロスが叙事詩『イーリアス』にトロイア戦争として描いたのがこの出来事でした。

ギリシャ神話のとおりにトロイア戦争が起こったかどうかは不明ですが、ミケーネ王がトロイアを征服した出来事は史実であったようです。

アガメムノンはトロイア戦争における軍の総大将として勝利をおさめますが、妻とその情婦に暗殺される運命をたどります。

アガメムノン王のもと繁栄した「ミケーネ文明」

ギリシャ神話では、アガメムノン王のもとミケーネ文明が繁栄したとされます。全知全能の神ゼウスの子孫であるミケーネの王アトレウスがアガメムノンの父です。アガメムノンは父のあとを継いでミケーネ王となり、ギリシャ全土を支配したと神話では語られます。

考古学的には、紀元前20世紀~前15世紀にかけて、エーゲ海にあるクレタ島にクレタ文明が栄え、紀元前15世紀~前12世紀には、クレタ文明から変遷してギリシャ本土にミケーネ(ミュケナイ)文明が発展しました。

ミケーネ文明の遺跡は、19世紀にシュリーマンによって発掘され、その内容が明らかになりました。巨大な石造建築物の獅子門などがよく知られています。

「アガメムノンのマスク」が知られるが実在したかは不明

アガメムノンの黄金のマスク
(出典:Wikimedia Commons User:Bibi Saint-Pol)

シュリーマンが行ったミケーネ遺跡の発掘の際、1872年に発見された黄金の仮面はアガメムノンの死体を覆っていたものだとして「アガメムノンの黄金のマスク」として有名になりました。

ところが、のちの調査によって、仮面はアガメムノンの時代よりも早い紀元前16世紀のものだということが判明しました。しかしマスクは現在でも「アガメムノンの黄金のマスク」としてアテネ国立考古学博物館に展示されています。

アガメムノンが実在したことを示すものは発見されておらず、アガメムノンが神話上の架空の人物なのか、あるいは実在した王であり英雄であるのかどうかは不明です。

アガメムノンが登場するギリシャ神話とギリシャ文学とは?

「ギリシャ神話」とは西欧文化の根幹を成すもの

ギリシャ神話は西欧文化の根幹を成すもので、ギリシャ神話に登場する物語や登場人物を題材に絵画や彫刻、文学や演劇など多くの芸術作品が作られてきました。

その起源は、紀元前20世紀~紀元前15世紀頃のクレタ文明の時代に口承文学として誕生した神話です。王政の時代が終わり、民主主義国家のポリスが誕生する紀元前8世紀頃になると、ギリシャ神話を題材とした文学であるギリシャ悲劇が生み出されました。

叙事詩人ホメロスとヘシオドスが長編叙事詩としてギリシャ物語の原型を作りあげ、悲劇は酒の神ディオニュソスを祝う春の祭りの際に上演されました。

紀元前2世紀にギリシャがローマの属州となると、ギリシャ神話とローマに伝わる物語が結びつき、ローマ神話が誕生します。14世紀にイタリアで始まったルネサンスの時代には、ギリシャ・ローマ神話を主題とした芸術作品が数多く制作されました。

アキレウスとの確執から始まるホメーロスの『イーリアス』

『イーリアス』は、トロイア戦争が勃発して10年目の年のトロイアでの戦争の過程を描いた、ホメーロスの長編叙事詩です。神々と人間の英雄が織りなすドラマが展開され、ギリシア軍の総大将アガメムノンが登場します。物語は主人公である英雄アキレウスとアガメムノンの確執から始まります。アガメムノンは強欲で傲慢な人物として描かれています。

なお、ホメーロスは紀元前8世紀末の人物とされますが、実在したかどうかは分かっていません。しかし、トロイア戦争などホメーロスの叙事詩に登場する内容については、考古学研究から若干の史実に沿ったものであるとの意見が確実視されています。

アガメムノンの悲劇を描いたアイキュロスの『アガメムノン』

アイスキュロス(紀元前525年~前456年)は、『オレステイア』(オレステースの悲劇)三部作を著しました。アイキュロスはアトレウス王家に伝わる歴史物語の神話を3部作の悲劇として構成しました。第一部『アガメムノン』はアガメムノン王の暗殺を主軸に描かれています。

トロイア戦争におけるギリシャ側の総大将アガメムノンはトロイを陥落したのち、トロイの王女カッサンドラを捕虜にして帰国します。しかし帰国した晩に、妻クリュタイムネストラの愛人であるアイギストスによってアガメムノンは殺害されてしまいます。さらにカッサンドラはアガメムノンの妻によって殺されます。これらは、かつて戦争のために妻に嘘をついて娘イピゲネイアを犠牲にしたアガメムノンへの妻からの復讐でした。

『オレステイア』の悲劇は、紀元前458年のアテナイのディオニュソス祭において上演されました。

まとめ

「アガメムノン」は、古代ギリシャにおけるミケーネの王、トロイア戦争における総大将としてギリシャ神話に登場します。ギリシャ神話は「創世神話」「神々の物語」「英雄たちの物語」に大別されますが、アガメムノンは「英雄たちの物語」に登場する英雄のうちの一人です。

シュリーマンがミケーネ遺跡から発掘したアガメムノンの黄金のマスクが有名ですが、考古学的にはアガメムノンのものではない可能性が示され、またアガメムノンが実在したことを裏付ける資料はありません。