「漸く」は「ようやく」と読みます。ひらがなにするとよく見聞きする単語になりますが、漢字では覚えにくいという人も多いかもしれません。本記事では、「漸く」の漢字の成り立ちをはじめ、その意味・使い方を例文で詳しく解説します。また、間違えやすい読みを持つ「暫く」「悉く」や言い換えに使える類語表現、英語訳も併せて紹介します。
「漸く」の意味や読み方とは?
「漸く」の意味は”中々実現しなかったことがやっと実現した”
「漸く」の意味は、“中々実現しなかったことがやっと実現した・かろうじて実現した”です。また、「ゆっくり変化する」という意味もあります。
「漸く」という漢字は、音読みでは「ぜん」と読み、「しだいに・だんだんに」という意味を持ちます。この「漸」の字は、部首「さんずい」に「(刀で)斬る(きる)」と書きますが、「水の流れを斬って徐々に導く」という意味になり、転じて「次第に」という意味となったとされています。
「漸く」の読み方は”ようやく”
「漸く」の読み方は、“ようやく”です。
「漸く」の使用例とは?
「漸く」は苦労した様を表す際に使う
「漸く」は、「漸く実現する」のように時間や手間がかかった様、苦労した様を表す際に用いられます。そのため、一般的な過程に対しては使用しない表現です。
- 子供のころからの夢が漸く実現する
- 立ち上げからかかわったプロジェクトが漸く実現し、感動もひとしおだ
- ここまでいろいろあったが漸くオープンの日を迎えることができた
「徐々に」「ゆっくり」のニュアンスで使用することも
「漸く」は、上記の「やっと実現した」という意味で使用されることが最も多いのですが、「徐々に・ゆっくり」という意味で使用することもできます。たとえば、「漸く寒さも落ち着いてきた」というと「徐々に寒さが落ち着いてきた(段々と春めいてきた)」というニュアンスにもなるのです。
ただし、「やっと」の意味がメジャーなため、「やっと寒さが落ち着いてきた(やっと寒くなくなってきた)」という意味でとられることもあります。
「かろうじて」のニュアンスでも使用可能
「漸く」にはもうひとつ、「かろうじて・なんとか」という意味もあります。たとえば、「締め切りに漸く間に合った」というと「かろうじて(なんとか)締め切りに間に合った」というニュアンスとなります。似たような例では、「残業を切り上げ、彼女との約束に漸く間に合った」などの使用も可能です。
ただし、「試験に漸く合格した」と使った場合のように、2通りの意味にとられることもあります。ひとつは、「かろうじて合格した」という意味ですが、もうひとつは「(何度か失敗し苦労もあったけど)やっと合格した」という意味です。的確なニュアンスを伝えたい場合には、それぞれ言い換えた方がベターです。
「漸く」と間違えやすい漢字とは?
「暫く」の読みは”しばらく”、意味は「少しの間」
「漸く」の読み間違いとして多いのが「しばらく」です。「少しの間」という意味の「しばらく」は、漢字では「暫く」と書きます。たとえば、「暫く留守にします」などと使います。なお、「暫く」の意味する期間は、文脈や使用シーンによって異なります。明確な定義を持たない曖昧な表現です。
「悉く」の読みは”ことごとく”、意味は「残らずすべて」
「暫く」同様に、「漸く」と混同しやすいのが「悉く」です。「悉く」は「ことごとく」と読み、「残らず・すべて」という意味を持ちます。たとえば、「悉く失敗する(何をやってもすべて失敗する)」や「悉く予想が外れる(残らずすべて、予想が外れる)」などといった使用が可能です。
漢字で書かれることが少ないため忘れてしまいがちですが、「漸く」「暫く」「悉く」はしっかり区別しておきましょう。
「漸く」の類語とは?
言い換えには「やっと」「ついに」「とうとう」
「漸く」の言い換えに使える単語には、「やっと」「ついに」「とうとう」の3つが挙げられます。「やっと」は、「やっと終わった」「やっと合格した」という風に、実現しえなかったことを実現した、という場合に使います。なお、「やっと」を漢字にすると「漸と」となり、まさに「漸く」の同義語であることが伺えます。
「ついに」は、長い期間を経て期待した結果が得られた、という場合に使用します。「ついに終わった」というと、ここまでの道のりが長かったことが伺えます。「とうとう」は、最終的に実現した、という結果を表す際に用いる表現です。「とうとう成功した」というと、いろいろあったが最終的に実現できた、というニュアンスです。一方で、「とうとう来なかった」というと最後まで待ったが来なかった、という実現しえなかった結果を表します。
「漸く」の英語訳とは?
「漸く」は英語で”finally”
「漸く」は、英語では“finally”という単語を使用します。「finally」には、”ついに・漸く・やっと”などの意味があります。たとえば、「Finally, work is finished」で”漸く仕事が終わった”という意味です。また、「at last」も”漸く”の意味で用いられる慣用表現です。たとえば、「At last, I finished」で”漸く終えた”という意味になります。「finally」は良いこと・悪いことの両方に用いられますが、「at last」は一般には良い事柄にのみ用いられるのが特徴です。
また、「漸く」の持つ「かろうじて」という意味では「barely」や「manage to~」といった表現が、「徐々に」という意味では「gradually」や「little by little」といった英語表現があります。
- I barely escaped death.(私はかろうじて死を免れた[九死に一生を得た])
- He managed to pass the exam.(彼はなんとか試験に合格した)
- The dawn came gradually.(漸く[徐々に]夜が明けてきた)
- My baby is getting bigger little by little.(うちの赤ん坊は少しずつ大きくなっている)
まとめ
難読漢字のひとつともいえる「漸く」は「ようやく」と読み、ひらがな表記あるいは口語表現としてなじみがある人は多いことでしょう。「漸く」には複数の意味がありますが、最もよく使われるのは「やっと(実現した)」という意味です。「かろうじて」や「徐々に」の意味で使うと正しいニュアンスが伝わらない可能性が高いので、適宜言い換えたほうがよいでしょう。