「インスタレーション」は現代美術におけるジャンルの一つです。屋外に設置された大きな作品や、映像や光、デジタル技術を駆使して生み出す環境作品など、幅広い表現手法があります。
この記事では、現代アートを知る上で欠かせない美術用語、「インスタレーション」について、その意味や特徴、作家、作品などを幅広く紹介します。
「インスタレーション」とは?
インスタレーションとは「空間全体を作品とする美術手法」という意味
「インスタレーション」とは、20世紀に発展した現代美術における表現手法のことです。絵画や彫刻、写真などと並ぶ芸術のジャンルの一つです。
作家の明確なコンセプトに基づいて、室内や屋外に作品や物体を配置し、時には音や光なども用いて、その場所や空間そのものを作品として構成します。作品をただ鑑賞するだけでなく、空間世界や環境を体験させることが従来の芸術作品と異なります。
異素材の組み合わせやさまざまな手法のミクスト・メディアが特徴
複数の素材やさまざまな技法の組み合わせにより構成されたアート作品のことをミクスト・メディアと呼びます。多くのインスタレーションにはミクスト・メディアが取り入れられています。また、その手法もさまざまで、20世紀後半から常に新しい技法が取り入れられ、発展し続けています。
1963年には韓国生まれのアメリカの現代美術家ナム・ジュン・パイクは世界初のビデオ・アート作品を発表し、「ビデオ・アート・インスタレーション」の分野を確立しました。複数のテレビモニターに抽象的な映像を映し出す作品です。
現在では、コンピュータや電子機器を利用した芸術は「メディア・アート」と呼ばれ、プロジェクション・マッピングやVR(バーチャル・リアリティ)など、さまざまなメディアを用いたインスタレーションが生まれています。
インスタレーションの語源は”設置”という意味の英語「Installation」
「インスタレーション」は、英語の”Installation art”が語源です。「Installation」は”設置、架設、取り付け”という意味を持ちます。
従来の彫刻や絵画を展示する芸術とは異なる、室内や屋外に立体作品や装置などを設置する芸術が生まれ、それらと区別する目的もあり、「Installation art」は美術用語として定着しました。
なお、「インスタ映え」の言葉が生まれたSNSの「インスタグラム(Instagram)」の「インスタ」は、「インスタレーション」とは関係がありません。「インスタグラム」は「インスタント(Instant:その場で)」と「テレグラム(Telegram:電報)」の造語です。
インスタレーションの作家や作品を紹介
ジェフ・クーンズ『パピー』(ビルバオ・グッゲンハイム美術館)
(出典:Wikimedia Commons User:AndreasPraefcke)
ジェフ・クーンズの屋外作品『パピー』
ジェフ・クーンズ(Jeff Koons、1955年~)は、大量生産された既製品や、キッチュなイメージを用い、アメリカのポップカルチャーをテーマとするアメリカの現代美術家です。80年代から注目を集め、現在も大きなスタジオとスタッフを抱えて大規模なインスタレーション作品を制作しています。
クーンズのよく知られた作品に、1992年にドイツのアーロルゼン城に展示するために制作された『パピー』があります。13メートルもの高さがあり、7万株の花を鉄の骨組みに植え込み、子犬の形に刈り込んだもので、大きな注目を集めました。
現在はビルバオのグッゲンハイム美術館の庭に設置され、年に数回花の入れ替えを行い、剪定や水やりなどが行われています。
「空間のアーティスト」クリスチャン・ボルタンスキー
クリスチャン・ボルタンスキー(1944年~)は、自らを「空間のアーティスト」と呼ぶフランスを代表する現代美術家です。
1960年代後半から映像フィルムや写真を用いた作品を発表し、80年代からテーマとした光を用いた宗教的な作品で国際的な評価を得ました。
日本とも縁が深く、越後妻有アートトリエンナーレ「大地の芸術祭」にも数回参加し、廃校となった小学校の教室に白い布を垂らし、花で一杯にするなどのインスタレーションを行いました。2019年には大規模な回顧展が日本を巡回しました。
境界のないアート「チームラボボーダレス」
「チームラボ」は、アーティスト、エンジニア、建築家などのさまざまな分野のスペシャリストから構成される日本のアート集団です。
2001年から活動を開始し、アメリカ、オーストラリアなどの美術館に作品が収蔵されるほか、2018年には世界初のデジタルアート専門美術館である東京・お台場のミュージアム「 チームラボボーダレス」を開設し、国際的に高い評価を得ています。
「 チームラボボーダレス」のコンセプトは「境界のないアート」です。アメリカのTIME誌は、「世界で最も素晴らしい場所 2019年度版」100選にチームラボボーダレスを選出しました。「視覚的なプロジェクションと、物理的なインスタレーションを組み合わせた、イマーシブ(没入的)な空間である」と伝えています。
まとめ
「インスタレーション」の語源は英語「Installation art」です。本来はインスタレーション・アートと呼ぶべきところを、日本では略してインスタレーションと呼ばれています。「Installation」とは「設置、取り付け」という意味を持ちます。
インスタレーションは、絵画や彫刻を室内で鑑賞する従来のスタイルとは異なり、室内や屋外などに立体作品や装置を配置したもので、その空間や環境を体験する芸術です。鑑賞者は作品の中を歩いたり、音を聞いたり光を見たりしながら、作品の世界を体感することができます。
日本では、世界初のデジタルアートミュージアム「 チームラボボーダレス」が、インスタレーションの新しい形を提示し、世界的に高い評価を得ています。