「自己承認欲求」とは?他者承認欲求や自己肯定感との関係も解説

「自己承認欲求」は、自己肯定感を得る過程で生じる人間の自然な欲求である「承認欲求」の一つです。この記事では、自己承認欲求の意味とその特徴を、密接な関わりのある他者承認欲求や自己肯定感もまじえて解説します。あわせてマズローの承認欲求論や、自己顕示欲との関係も紹介しています。

「自己承認欲求」の意味とは?

「自己承認欲求」の意味は”自分で自分を認めたい欲求”

「自己承認欲求」の意味は、“自己の自己への評価に対する欲求”のことです。つまり、自分を認めたい、承認したいと願う欲求です。自分を認めたいと願う承認欲求は、誰もが持つ自然な欲求です。

心理学では、人間は自己を優れた存在として自認したい欲求を持っているとされます。自己を優れた存在として自認することを、自尊心、自己信頼、自己尊重、自信、自己信任、自己効力感などと呼び、これらは人間が成長する上できわめて重要な要素です。

「自己承認欲求」と「他者承認欲求・自己肯定感」の関係とは?

「他者承認欲求」に捕らわれている人は”自己承認欲求”が低い

「承認欲求」はおおむね2種類に分かれます。自己の自己への評価に対する欲求である「自己承認欲求」と、他者から尊敬や名誉を得たいと願う「他者承認欲求」です。

自己承認欲求よりも、他者に依存する他者承認欲求の方が低次の欲求だとされます。自分に自信が持てない不安から逃れるために、他者からの期待に応え続けようとする他者承認欲求に捕らわれると、思考の自由が狭くなり、自己承認欲求が低い状態に陥ります。

あるがままの自分を認めてもらえる他者承認欲求が満たされたとき、自分で自分を認めたい自己承認欲求が生じます。

「自己承認欲求」と「他者承認欲求」が満たされると”自己肯定感”が得られる

「承認欲求」は「尊敬と自尊の欲求」とも呼ばれ、他人から尊敬される他者承認と、自分が自分を承認する自尊の欲求である自己承認とは、分かちがたい関係があります。

先に説明したように、他者からの承認が得られないと、自らの存在価値を肯定できず、人は無力感や劣等感を抱きます。自己の自己への評価に対する欲求を満足させるためには、他者からの承認を得ることが必要です。他者からの承認を介して、自らの価値を問い直すのです。

「自己承認欲求」と「他者承認欲求」が満たされると、自分は世の中に役立つ存在だという強い「自己肯定感」が得られ、自己実現の欲求が生まれる段階に進みます。

なお「自己肯定感」とは、自らの存在意義や人間としての在り方などを肯定し、積極的に自分を評価できる感情のことです。

心理学の承認欲求論とは?

「承認欲求」を理論化したマズローの”欲求の階層説”

心理学において、欲望論は人間の持つ重要な欲求として古くから検討されてきました。欲望論の中で、最も有名な「承認欲求論」を提唱したのは、アメリカの心理学者アブラハム・マズローです。

マズローは、人間の動機付けに関する「基本的欲求」を理論化し、5つの欲求からなる「欲求の階層説」を提唱しました。それらの欲求は、人間が無意識的に自然に持つもので、低次の欲求が満たされると高次の欲求が現れる階層を持つとされます。

基本的欲求は、最も根源的な「生理的欲求」から「安全の欲求」「所属と愛の欲求」「承認の欲求」へと進み、最後は「自己実現の欲求」へと至ります。

自己実現に至る過程で生まれる「承認欲求」

マズローの「欲求の階層説」による「承認欲求」は、自己実現に至る過程で生まれます。参考までにマズローの「欲求の階層説」の5段階を紹介します。

  1. 生理的欲求
    人を動機づける最も根源的な欲求が、生命維持に関係する「生理的欲求」です。食物や性、睡眠の欲求が代表的なものです。特に食の欲求は強く、飢えているときは他の欲求を感じることはありません。飢えなど根源的な欲求が収まると、高次の欲求が生まれます。
  2. 安全の欲求
    生理的欲求が十分に満たされると、安全の欲求が現れます。安全の欲求が満たされない人間は、秩序や安全に対して強力な欲求を持ち、予期しないことは徹底的に避けようとしたり、極端に恐れたりします。
  3. 所属と愛の欲求(社会的欲求)
    生理的欲求と安全の欲求が満たされると、所属と愛の欲求が現れます。マズローの言う愛とは、深く理解され、受け入れられることです。また、人間は、共同体の一員として集団に所属したい、そしてそこに暖かく迎えられたいという欲求を持ちます。
  4. 承認の欲求
    社会的欲求が満たされると、承認の欲求が現れます。自己の自己への評価に対する欲求が「自己承認欲求」と呼ばれるもので、自尊心とも言えるものです。自尊心を満たすために、自信・自立・自由・達成などを希求します。他者からの承認の欲求は、名声・受容・信望・理解などの評価を得ることを求めます。自己承認欲求と、他者承認欲求が満たされると、自分を肯定し、強い自信が湧いてきます。しかし、この欲求が満たされないと、焦燥感や無力感などの感情が現れます。
  5. 自己実現の欲求
    社会的欲求と、承認欲求が満足されると、自己実現への欲求が発生します。自己実現の欲求とは、自分の能力を開花させ、自分がなることのできるものなら、何にでもなろうとする欲求です。つまり、自己実現とは、自分がなりえるものに、なりきることです。ここに至るまでの承認の欲求などの全ての欲求を満たしたとしても、自己実現されていなければ、人間には不満が生じるのだというのがマズローの基本的欲求理論です。

「自己承認欲求」と「自己顕示欲」の違いとは?

「自己承認欲求」と「自己顕示欲」はどちらも”承認欲求”の一つ

「自己承認欲求」と似た意味の欲求に「自己顕示欲(じこけんじよく)」があります。自己顕示欲は、周囲の人や不特定多数の人から注目されたいと願う欲求のことで、承認欲求に含まれる欲求の一つです。

他者から尊敬されたり、注目を得ることで満たされる承認欲求は、注目されたいと願う自己顕示欲として現れます。また、自分で自分を価値ある存在だとして認める自己承認欲求が満たされると、自分を認めてもらいたいとアピールする自己顕示欲は低くなるため、両者は密接した関係にあります。

■参考記事
「自己顕示欲」の意味とは?「承認欲求」との関係や類語も紹介

まとめ

「自己承認欲求」とは、「承認欲求」のひとつで、自分を価値ある存在だとして認めたいという欲求です。マズローによれば、承認欲求が満たされると、人間は自己実現に向かうとされます。

マズローは、自己実現した人間、つまり心が真に満たされた人格は、自分のために生きるのではなく、自分の人生に与えられたなんらかの課題や仕事に没頭していると述べています。

成熟した人間は自分自身へ健康的な敬意を持ち、自分自身を信頼し、自己の感情をコントロールできます。ユングも自己実現した人間を、調和的で成熟した人格と定義しました。自分に自信を持ち、充実した人生を送るためには、承認欲求を健全に満たすことが必要だと言えます。