「アヌビス」とはエジプト神話に登場する冥府の神です。「アヌビス神」とも呼ばれ、犬の頭をもつ特徴的な姿をしています。
この記事では「アヌビス」の特徴や、エジプト神話での登場シーンを解説します。くわえて「アヌビス」と、猫の頭をもつ女神「バステト」との関係性も解説しましょう。
「アヌビス神」とは?
「アヌビス」とは”エジプト神話の冥府の神”
「アヌビス」とは、“エジプト神話に登場する冥府の神”のことです。「アヌビス神」とも呼ばれ、死後の魂がいくとされる「冥府」で死者の魂を守る仕事をしています。また、エジプトの大都市「アシュート」の名前が「リコポリス」だった時代、アヌビスは「リコポリスの守護神」とも呼ばれていました。
「アヌビス」とは人の体に犬の頭をもつ
「アヌビス」とは人の体に犬の頭をもつ姿で描かれています。名前である「アヌビス」はギリシャ語で「若い犬」を意味し、古代エジプトでは「インプゥ」と呼ばれていました。また、犬ではなくジャッカルの頭で描かれることや、人の姿ではなくジャッカルそのものの姿で描かれることもあります。
「アヌビス」とは死者の眠りと未来を守る神
「アヌビス」とは冥府の神として、死者の眠りと未来を守る役割を担っています。死者に関わっていることから「死者の魂を運ぶ神」や「死神」などと勘違いされることがあります。しかし、死者の魂を運ぶのは牛の頭をもつ「ハトフル」という神であり、死神と呼ばれるのは「セクメト」という殺戮の神であるため、「アヌビス」とは全くの別物です。
「アヌビス」に似た犬種”ファラオ・ハウンド”
「アヌビス」に似ていると言われているのが「ファラオ・ハウンド」という犬種です。「ファラオ・ハウンド」はアヌビスを連想させるような、小さな顔と大きな耳をもちます。その高貴な姿からファラオという名がつけられていますが、エジプトではなくマルタ共和国の国犬に選ばれています。
「アヌビス神」の神話での登場シーンとは?
「アヌビス」は不倫によって生まれた
「アヌビス」は冥府の神「オシリス」と葬祭の女神「ネフティス」の間に生まれます。本来、オシリスの妻は豊穣の女神「イシス」ですが、オシリスに恋をしたネフティスが妻であるイシスに成りすましてアヌビスを身ごもったのです。
しかし、ネフティスには戦争の神「セト」という夫がいます。セトはオシリスの弟にあたり、王位を継いだオシリスを憎んでいました。そのため、セトの怒りを恐れたネフティスは、生まれてすぐのアヌビスを草むらに隠したのです。
「アヌビス」は初めてミイラを造った神
「アヌビス」は初めてミイラを造った神であることから、「ミイラを布で包む者」や「ミイラづくりの神」という異名をもちます。エジプト神話ではアヌビスの存在を知ったセトが、アヌビスの父であるオシリスをバラバラにして殺害します。
アヌビスはかき集められた死体をミイラにして復活させますが、遺体の一部が失われていたため完全な復活とはなりません。再びエジプトの王に返り咲くことはできないオシリスは、冥界の楽園と呼ばれるアルルの王になったのです。
「ラーの天秤」を使って死者を判別している
アヌビスは「ラーの天秤」を使って死者の魂を裁くとされています。天秤にある2つの皿のうち、片方に死者の心臓を、もう片方には正義の女神「アマト」の羽根を置きます。心臓が羽根よりも重い場合、死者には罪があるとして復活を禁じられたのです。
死者の魂を裁く儀式を「魂の計量」と呼び、復活を禁じられた魂は幻獣「アメミット」に食べられ、2度と転生できない魂となります。
「アヌビス」と「バステト」の関係とは?
「アヌビス」と「バステト」は親子である
「アヌビス」の母にあたる神は諸説あり、その1つが「バステト」を母にもつという説です。バステトは「豊穣の女神」と呼ばれ、音楽や踊りを好む穏やかな女神として描かれます。
ただ、バステト独自の神話がなく、アヌビスではなくライオンの神「マヘス」が子どもという説もあるため、一般的には「アヌビスはオシリスとネフティスの子」という説が浸透しています。
「バステト」は猫の頭をもつ女神
「バステト」は人型の体に猫の頭をもつ姿で描かれています。神話のなかでは、戦いの女神「セクメト」や湿気の女神「テフヌト」、愛と美の女神「ハトホル」と同一視されることが多くありました。
そのため、当初は人を罰する女神として恐れられていた「バステト」ですが、他の女神と混同されたこともあり「人を病気などから守る女神」や「家庭の守護神」「天空の女神」などの側面をもつようになります。
まとめ
「アヌビス神」とは、エジプト神話に登場する冥府の神です。ミイラを始めてつくった神でもあり、死者の魂を裁き、未来を守る役割を担っています。
猫の頭をもつ「バステト」とは親子関係にあるという説がありますが、一般的には「オシリス」と「ネフティス」の不倫によって生まれたという説が浸透しています。