「アプサラス」とはインド神話に登場する精霊の一族です。接待役として神や人間を魅了するアプサラスですが、時にはその美貌を神に利用されることもあります。
この記事ではインド神話で有名な「アプサラス」と、その物語を紹介します。くわえて「ガンダルヴァ」や「ラクシュミー」など、他の神との関係を解説しましょう。
「アプサラス」とは?
「アプサラス」とは”インド神話の精霊”
「アプサラス」とは、“インド神話に登場する水の精”です。「アプサラス」には”水の中で動くもの、雲の海に生きるもの”という意味が込められており、川や雲、星のなかに住んでいると言われています。
「アプサラス」は1体の精霊を指す言葉ではなく、数多くいる水の精をまとめて「アプサラス」と呼んでおり、個々にはそれぞれ別の名称が付けられています。
美しい容姿から「天女」とも呼ばれる
「アプサラス」はとても美しい姿をしており、その容姿から「天女」とも呼ばれます。一般的には女性の姿をしているアプサラスですが、姿を自由に変えることができ、水鳥の姿で描かれることもあります。
「アプサラス」は神々の接待役である
「アプサラス」は神々の接待役として、踊り子を務めます。美しいアプサラスの踊りは、神だけでなく人間の王やリシ(仙人)をも虜にしました。神話のなかでは妖艶さを神に買われ、リシや英雄を誘惑するよう命じられる話もあります。また、接待役だけではなく、戦死者の魂を天へと運ぶ役目も任されています。
「アプサラス」は乳海攪拌で生まれる
「アプサラス」は”乳海攪拌(にゅうかいかくはん)”によって生まれます。「乳海攪拌」とは、インド神話のなかで世界がどう創り出されたかを記した物語です。その昔、アスラ(神の敵)との争いに疲弊した神々は、不老不死の薬「アムリタ」を得ようとヴィシュヌ神に相談します。
ヴィシュヌ神は「神とアスラが協力して海をかき混ぜれば、アムリタが得られる」と助言しました。神々とアスラは、大きな山と竜王「ヴァースキ」を使って海を混ぜ始めます。1,000年もの間混ぜ続けることで、太陽や月、女神が海から生まれ、最後にアムリタが出てきました。この時、複数の女神と一緒にアプサラスも生まれたと言われています。
インド神話で有名な「アプサラス」を紹介
「ウルヴァシー」は人間と恋に落ちる
インド神話で有名なアプサラスの1人「ウルヴァシー」は、人間の王「プルーラヴァス」と恋に落ちます。ウルヴァシーはプルーラヴァスの裸を見ないことを条件に2人は結婚し、子どもを身ごもりました。しかし、2人の結婚をよく思わない「ガンダルヴァ(半神半獣の種族)」は、プルーラヴァスが裸のときを見計らって、ウルヴァシーに悲鳴を上げさせます。
悲鳴を聞いたプルーラヴァスは裸のままウルヴァシーの元へ駆けつけたため、2人の結婚は無かったことになります。その後、破談を受け入れられないプルーラヴァスはウルヴァシーを探し出し、彼がガンダルヴァの一員となることを条件に再び夫婦幸せに暮らすことができました。
「ラムバー」はインドラに利用される
アプサラスの1人「ラムバー(ランバー)」は、あまりの美しさから軍神「インドラ」に利用されます。インドラは巨大な蛇の怪物「ヴリトラ」を倒すため、ラムバーにヴリトラを誘惑させます。ラムバーの美しさに気をよくしたヴリトラは、彼女が勧めてきたスラー酒を飲んでしまいました。
インドではカースト制度の1階級である「バラモン」が、スラー酒を飲むことを禁止しています。そのため、バラモンであるヴリトラはスラー酒を飲んで気を失い、インドラに倒されてしまったのです。
「メーナカー」はリシを誘惑したアプサラス
「ラムバー」だけでなく「メーナカー」も、インドラの命令により誘惑を行ったアプサラスです。神々の王である「インドラ」は苦行を積んでいたリシの「ヴィシュヴァーミトラ」を見て、王の座を奪われると危惧します。そこで、苦行がすべて泡になるよう、メーナカーに誘惑させたのです。
メーナカーの美しい姿をみたヴィシュヴァーミトラは、彼女に恋心を抱き、長い期間ともに過ごします。2人の間にできた子どもを産んだとき、メーナカーはインドラの命を完遂したと捉え、子どもを捨ててインドラの元へ帰ったのでした。この神話には諸説あり、インドラの策略だと気づいたヴィシュヴァーミトラが、メーナカーと子どもを捨てたという話もあります。
「アプサラス」と他の神との関係とは?
「ガンダルヴァ」はアプサラスの配偶者
「ガンダルヴァ」とはアプサラスの夫にあたる半神半獣の種族です。インド神話ではインドラに仕えて、音楽を演奏する役割を担っています。アプサラスと同じで「ガンダルヴァ」は1体の存在ではなく、種族そのものの名称を意味しています。
「ガンダルヴァ」はアプサラスの配偶者ではあるものの、必ず結ばれるという訳ではありません。「ウルヴァシー」のように人間と恋に落ちることもあれば、「メーナカー」のようにインドラの命により「ウルヴァシー」以外との間に子を宿すこともあります。
「ラクシュミー」はアプサラスの1人とも言われる
最高神の1柱「ヴィシュヌ」の妻である「ラクシュミー」も、一説によるとアプサラスだと言われています。「ラクシュミー」は”幸運”や”豊穣”を司る女神で、4本の腕が特徴です。「ラクシュミー」も乳海攪拌で生まれていることや、容姿があまりに美しいことからアプサラスの1人ではないかと言われています。
まとめ
「アプサラス」とはインド神話に登場する水の精霊です。「天女」とも呼ばれるアプサラスはとても美しく、神々の踊り子として多くの神や人間を虜にしました。「アプサラス」は基本的に「ガンダルヴァ」と結ばれますが、インド神話では人間の王と恋に落ちる様子や、神の命令によりリシとの子を宿す様子が描かれています。