「監査役を委嘱する」「会計監査を委嘱された」と、仕事を任せることや受けることを「委嘱」と呼ぶことがあります。この「委嘱」とはどのような意味、使い方をするのでしょう。例文で詳しく解説します。また類語「委託」「委任」などとの違いや使い分けのポイント、「委嘱契約」した場合の報酬などにも触れています。
「委嘱」の意味とは?
「委嘱」とは「特定の仕事を他の人に任せること」
「委嘱」とは「一定の期間、特定の仕事や役割をほかの人に任せること」という意味です。特に、専門業務を外部の人に依頼すること、任せることをさして「委嘱」といいます。
行政では「民間人や他所の公務員を起用すること」
「委嘱」は民間企業だけでなく行政機関でも用いられます。行政においては民間人やその機関に所属していない公務員を起用する場合に「委嘱」と表現します。例えば、政府の審議会や調査会に民間人が起用されることがありますが、それも「委嘱」の良い例です。
「委嘱」の読み方は「いしょく」
「委嘱」は「いしょく」と読みます。「委」の字には「ゆだねる、まかせる」という意味が、「嘱」の字には「たのむ、まかせる、ゆだねる」という意味があります。つまり「委嘱」は似た意味の字を2つ重ねた熟語ということができるでしょう。
「委嘱」の使い方と例文
「委嘱する」や「委嘱される」と使う
「委嘱」は「委嘱する」あるいは「委嘱される」という表現での使用が可能です。「委嘱」という語が専門性が高い仕事の依頼を意味するのが特徴であるため、たとえば「事務作業を委嘱する」というような使い方はしません。
- 会計全般を委嘱できるプロを探している。
- 式典の司会を委嘱する。
「委嘱状」や「委嘱書」は依頼文書のこと
「委嘱状」「委嘱書」とは、端的にいうと「委嘱する人に渡す書類、依頼書」のことです。業務内容のほか、契約期間などが記載されます。行政機関における「委嘱状」は、書類の名称としては「辞令書」に変わりますが、書面の内容や意味は同じです。
「委嘱」と「委託」「委任」「任命」の違い
「委嘱」と「委託」は専門性で使い分ける
「委託」とは「ゆだねまかせること」という意味で、自社ではできない業務を外部の人に依頼することを指します。「業務を委託する」「業務委託契約」などの表現でよく用いられます。
「委嘱」と「委託」は熟語の意味としては非常に似ていますが、「委託」は幅広い業務の依頼に、「委嘱」は専門性が高い業務の依頼に、と使い分けるのが一般的です。とはいえ、「委嘱」は「委託」の中に含まれるため、専門性が高い業務に対して「委託」と使っても問題はありません。
「委任」とは「問題の処理、決議などを人に任せること」
「委任」とは「問題の処理、審議、決議などをほかの人に任せること」という意味です。「委任状」というワードでよく見聞きしますが、「委任状」とは「本人が出向くことができない場合に第三者に依頼したことを示す書類」です。
なお、「委任」は個人が個人や組織・団体に任せる場合に使う表現で、団体が団体に任せる場合は「付託」という表現が用いられます。
「任命」は「委嘱」と似たニュアンス
「任命」とは「ある官職や役目につくように命じること」という意味です。特に、公務員の昇任や転任をさして「任命」と使うことが多く、「委嘱」として外部の人に公務員としての身分を与える際にも用いられます。
一方「委嘱」は行政や公務員に限らず民間企業でも用いられる語である点が相違点です。また「任命」の持つ「命じる」のニュアンスが権力関係を想起させることもあるため、「任命」ではなく「委嘱」の語を使う例もあるようです。
「委嘱契約」の意味と雇用形態とは?
「委嘱契約」は業務依頼の契約で雇用契約ではない
「委嘱契約」とは文字通り「委嘱」に関する契約をさします。「委嘱書」に書かれる内容のほか、仕事の依頼において様々な事柄に関する取り決めを行いますが、そもそも「委嘱契約」は「業務を依頼する」という契約であって「雇用契約」ではないため、企業との関係性が大きく異なります。
「雇用契約」では働く人は「労働者」であり、「雇用主」からの命令や指示には一定の拘束力が生まれます。一方、「委嘱契約」は一種の「業務委託契約」であり、雇用主と労働者という「使用従属性」が生まれません。2つの独立したもの同士の契約という認識です。
「委嘱契約」は「給与」ではなく「報酬」「謝金」
「委嘱契約」でもらえるお金は「給与」とは呼ばれないのも特徴です。「給与」は雇用契約の場合(命令によって働いた仕事に対する報酬)に用いられる表現で、「委嘱契約」や「委託契約」では「報酬」と呼ばれます。
また、行政から個人に対して「委嘱」した場合は、「謝金」の名目で報酬が支払われることもあります。依頼された内容はあくまでも「命令」ではなく、善意で受けてもらったもの、という認識から「謝礼金=謝金」という表現が用いられているようです。
「委嘱契約」には役職や役員の場合も
「委嘱」は専門性が高い仕事を依頼する際に用いられるため、「委嘱」される仕事に「監査役」などの役付きである場合も多いです。「委嘱契約」の場合、「雇用契約」とは異なり使用従属性がないことは先述しましたが、実際の業務においては指揮・命令とまではいかなくてもある程度の拘束性が生まれることもあります。
「委嘱」の反対語とは?
「委嘱」の反対語は「解嘱」
「委嘱」の対義語は「解嘱」です。「解嘱」とは「委嘱した依頼を解くこと」という意味です。「かいしょく」と読みます。たとえば「監査役から解職された」などの言い回しが可能です。
なお、「解職」も「かいしょく」と読みますが、「解職」は「仕事や役割をやめる」という意味の同音異義語です。主に辞めさせることを指して用いられるためややネガティブな印象を伴います。一方「解嘱」はネガティブな意味はなく、単に「委嘱を解く」というニュアンスです。
「受嘱」とは「委嘱を受けること」
「受嘱」とは「委嘱を受けること」という意味です。先に「委嘱された」という表現を紹介しましたが、「委嘱された=受嘱した」となります。「委嘱」を「業務を依頼すること」という意味にとると「受嘱」は対義的とも見ることができます。
「委嘱」の英語訳とは?
「委嘱」は英語で「commission」
「委嘱」は英語では「commission」を使用します。「commission」とは「委託、委任された仕事」という意味の語で「a commission work」は「委嘱作品」と和訳されます。また、「委嘱される」は「received commission」と表現することも可能です。
He received a commission from the ○○.(彼は○○からの委嘱を受けた)
「委嘱する」を「依頼する」の意味で英語訳する
「委嘱する」を英語訳する際には先述の「commission」を動詞として使用することも可能ですが、「依頼する」と意訳する例も見られます。
- She commissioned him to lecture.(彼女は彼に講義を依頼した)
- She requested him to lecture.
- She asked him to lecture.
まとめ
「委嘱」とは「一定の期間、特定の仕事や役割をほかの人に任せること」という意味です。「委嘱」は専門性の高い仕事を依頼する際に使用する点では、類語の「委託」とは区別されます。ただし、「委嘱」を「委託」と表現しても誤りではありませんが、経緯を払う意味で「委嘱」の語を使う例も多いようです。