「密教」とは何か?その教えや顕教との違いもわかりやすく解説!

「密教」とは何か?梵字や曼荼羅、印や修行など、ばらばらなイメージが先行して、その思想や哲学などについてはよくわからないという人が多いのではないでしょうか。

その反面、真言密教の聖地である高野山には世界中から人々が大勢訪れ、高野山を開いた空海も高い人気を誇っています。人々をひきつける密教について、概要を解説します。



「密教」とは?

まず密教の大きな流れを説明します。

密教は古代インドでおこった大乗仏教の一派

「密教」は古代インドの釈迦(ゴータマ・シッダールタ)を開祖とする仏教の中から、大乗仏教の流れの中でおこった宗派です。七世紀から八世紀にインドで隆盛期を迎えました。

大乗仏教とは、釈迦の教えに従って悟りをひらき、「広く人々を救済する」という思想の仏教を指します。原始仏教では、出家して修行するのは「自分個人のみの解脱」を求めるのもであったため、それを批判して「大きな乗り物」という意味の言葉をあててつくられた概念です。

インドから中国を経て日本に伝わった真言密教

日本へは、インドから中国を経て伝わります。空海の真言密教として独自の発展を遂げ、現在も信仰が続いてきます。

インドからチベットに伝わったチベット密教

インドからヒマラヤ山脈を越えて直接チベットに渡り、その後チベットで発展したのがチベット仏教です。密教の影響が強いため、チベット密教ともいわれます。サンスクリット語の原典を直接翻訳するなど、インド直系の純粋な仏教であるとされ、日本の密教とならんでチベット密教も正統な仏教の宗派のひとつです。

しかしその教義内容は、もとは同じインド密教の流れでありながらも日本とチベットで独自の発展を遂げたため、著しく異なっています。

インド密教は消滅した

現在、信仰や研究が続いている密教は、日本とチベットだけとなっています。インドや中国、またそこから伝播した東南アジアなどでは密教の伝統は途絶えています。

密教の目標をわかりやすくいうと「悟ること」

密教の目標をわかりやすくいうなら、生まれた身をもったまま煩悩を脱し、悟りを開くことです。もとはサンスクリット語である「ブッダ」とは、「目覚めた者」という意味で、ブッダと同じ境地に至ることを目指します。

日本の「密教」とは?

次に日本で発展した密教の概要について説明します。

体系的な密教を日本に伝えたのは「空海」

日本においては、8世紀に密教の経典である『大日経』が伝わっており、それに触れた空海が密教を本格的に学ぶために唐に行くことを決意します。空海は804年に遣唐使船で唐に渡り、密教僧として名高い恵果に学び、大勢の弟子の中から恵果の後継者として指名されるまでになり、2年後に帰国します。

インドで起こった密教が、中国を経て空海に伝えられ、日本で独立した宗派として真言宗を開かれるまでに、八祖を経て伝えられたとする伝承を真言八祖(しんごんはっそ)といいます。空海の師である恵果はそのうちの第七祖で、空海は第八祖です。

空海は高野山に道場を開き、真言密教を広めた

空海は日本において京都の東寺を中心にして密教を定着させ、高野山には瞑想の道場を開きました。高野山は、大宇宙との対話をおこない、自然の中にみずからを融合させようとするインド密教の本来の姿を再現しようとしたものです。

「真言」の意味は「真理を表す秘密の言葉」

空海が体系化した密教は真言密教とよばれ、その教えを教義とする教団を「真言宗」といいます。「真言」とは、真理を表す秘密の言葉という意味です。

「密教」の教えとは?

ここからは空海が真言密教として体系化した密教の教えを具体的に説明します。

「顕教」に対して「密教」は「秘密の教え」

密教の性質は、「顕教(けんぎょう)」の概念と比較されます。釈迦や如来(真理に達した者の意味)が衆生救済のために説いた教え(顕わな教え)を顕教というのに対し、真理そのものの現れであるとされる大日如来が説いた秘密の教えを密教といいます。

秘密の教えとは、教義や作法に神秘的な要素が多く、段階を経ないと公開されない部分が多いことからそのようによばれます。

密教と顕教を隔てるのは「即身成仏」の思想

空海の思想で重要なものが「即身成仏(そくしんじょうぶつ)」です。これは修行を行うことによって悟りを開き、人が生きたまま仏になるという思想です。

顕教では、輪廻転生などを経て長い時間をかけなければ悟りを得られないとするのに対し、密教では生身のままで悟りが開けるとしています。正しい学びと実践によって、誰もが即身成仏できるとする思想はチベット密教にも共通しています。

また、「即身成仏」というと、修行僧などが生きたままミイラになることをイメージする人が多いようですが、実際は生身のまま悟りを開くという意味です。さらに、「成仏」とは、煩悩を解脱して悟りを開くというのが本来の意味です。そこから転じて、仏になるという意味や、単に死ぬことの意味にもなりました。

経典は『大日経(だいにちきょう)』と『金剛頂経(こんごうちょうぎょう)』

真言密教の基本とする経典に『大日経(だいにちきょう)』と『金剛頂経(こんごうちょうぎょう)』があります。この経典の教主は「大日如来」で、経典の内容は大日如来が修行の心と実践を説くものです。

この二つのセットは、大乗仏教の理論体系と、それに基づく実践方法を備えており、古来の呪術的な側面を脱し、密教の理論的な展開を目指したものです。

密教の「曼荼羅」は宇宙の本質を表すもの

密教の教えに欠かせない「曼荼羅」は、宇宙の本質や真理を画像表現によって伝えるものです。密教において図像は重要な位置を占めるもので、大日経と金剛頂経に基づく胎蔵界と金剛界を伝える両界曼荼羅を空海は唐から持ち帰りました。

また、空海は東寺の講堂に大日如来像や菩薩像など二十一体を配置し、立体曼荼羅の世界を創り上げました。これは現在でも拝観することができます。

密教の修行は「三密の行」

即身成仏に至るための修行を「三密の行」といいます。手に印を結ぶ「身密(しんみつ)」、陀羅尼(だらに)や真言を唱える「口密(くみつ)」、瞑想によって精神を統一する「意密(いみつ)」の行です。

「身密」で結ぶ「印」は左右の十本の指を組み合わせて作るさまざまな形のことをいいます。印は仏の悟りの境地を表すとされ、仏像はそれぞれの印を結んだ姿で表されています。

陀羅尼とは、サンスクリット語である梵語(ぼんご)の発音のまま唱える呪文のことです。梵語は梵字で表され、梵字は一文字で仏を表すことができるとされています。

空海は「十住心論」で仏教の全体像を示した

空海は伝統仏教の教えの全体像を「十住心論」で表しました。これは『般若心経』『法華経』『華厳経』などの伝統仏教の教えを、人間の心の10段階と相関する形で示し、その第十段階を真言密教の境地としたものです。

苦しみの真の原因は私たちの世界の捉え方であるとし、ものの捉え方を変える方法を教えるのが仏教だといいます。空海の「十住心論」によって仏教全体が理解できるといえます。

密教を英語で表現

最後に密教の英語表現を紹介します。

密教は英語で「esoteric Buddhism」と表され、直訳すると「秘伝の仏教」となります。

弘法大師空海はそのまま「Kobo Daishi Kukai」です。

まとめ

資本主義による競争社会の中でストレスをためながら働き続けることに疑問を感じ、心のよりどころを東洋の思想に求める欧米人や、日本の思想文化を見直そうという日本人が増えています。

東洋思想の中でも密教は、人間の理性を超えた範囲を認識の対象としていることから、全体像がわかりにくいといえます。しかしそれがゆえに、東洋の英知が凝縮されているものだともいえるでしょう。

密教の目的は即身に成仏すること、つまりこの身のまま「悟りに至ること」です。悟りに到達すると、のびのびとした自由な心で人生を愉しむことができるようなるといいます。「悟り」というと仰々しく感じますが、心を解放するメソッドとして、密教を捉え直してみることもできるかもしれません。

※今回は密教の概要をお伝えしましたが、より詳しく知りたい方は以下の2つの書籍もおすすめです。