「柳に風と受け流す」とは処世術のひとつ、生き方のヒントとしても使える慣用表現です。この「柳に風」の詳しい意味をはじめ、その使い方を例文とともに解説します。また「柳に風」の誤った使用例や間違えやすい慣用表現、似た意味を持つ類語についても紹介しましょう。
「柳に風」の意味や由来とは
「柳に風」とは「逆らわなければ災いを受けないこと」
「柳に風」とは「柳が風になびくように、逆らわずにいれば災いを受けないこと」を意味します。
柳はふわふわと風に揺れる細長い枝葉を持ち、風の吹くままにそよぐ姿が印象的です。この柳が風になびく様子に由来するのが「柳に風」で、「逆らわないこと、あらがわないこと」を表します。
「柳に風」には「うまくやり過ごす」という意味も
「逆らわなければ災いを受けないこと」という意味から派生し、「柳に風」は「うまくやり過ごすこと」という意味も持ちます。逆らうのではなく、うまくあしらう様を指しても「柳に風」と使うことができます。
「柳に雪折れなし」も同じ意味の慣用表現
「柳に風」と似た意味の慣用表現では「柳に雪折れなし」もあります。しなやかな柳は、雪が降ってもその重みで折れることがない様を例えとし、転じて「柔軟に受け流す」というニュアンスで用いられる表現です。
一方で硬い木の枝は雪の重みで枝折れすることと対比し、「一見すると固くて強そうなものよりも柔軟なものの方が強い」という例えとしても用いられます。
「柳に風」の用法と例文
「柳に風と受け流す」と使うことが多い
「柳に風」は「柳に風と受け流す」の言い回しで用いられることが多いです。たとえばどうでもいいような話には反論せず、適当にやり過ごす様が良い例です。
- あんな話は柳に風と受け流せばいいのに
- 柳に風と受け流した方が部長の小言も早く終わるもんだ
「柳に風」はポジティブな意味で用いる
「柳に風」は「逆らわない方が災いがない」ことの例えであり、受け流すことを良しとするポジティブな意味で用いられることが多いでしょう。
たとえば自分の耳に痛い言葉を聞き流す様ではなく、無駄に口うるさい人のどうでもいい話に対して寛容に対処するような様を指す表現として用いられるのが特徴です。同じ「受け流す、やり過ごす」というニュアンスでも、「柳に風」はこうした好意的な意味合いでの使用が目立ちます。
「人の意見に耳を貸さない」の意味では使わない
一方で「人の意見に耳を貸さない、話を聞いてくれなくて困る」というニュアンスで「柳に風」と使うのは少しニュアンスが異なります。たとえば「よほど自信があるのか、彼は周囲の助言には柳に風だ」といった使い方は一般的ではありません。
「柳に風」が強い風に吹かれてしなやかに揺れ動く様に由来するように、強い調子の相手をサラリとかわしてやり過ごす、というのが本来の意味です。そのため「小言を言う側」ではなく「耳にする側」の立場で使うことが多いでしょう。
「手応えがない」というニュアンスで使うのは誤り
「柳に風」は風に身を任せて揺れる柳の枝のイメージから「手応えがない」というニュアンスで使われることがありますが、これは誤りです。
たとえば、「手応えがなくて見込みが薄い」という意味で「一生懸命アピールしたが、柳に風で見込みは薄い」という使い方はしません。
「柳に風」は生き方のヒントにも
口うるさい相手についかっとなり、反論したくなることも多いでしょう。しかし、一言返すと余計に問い詰められ痛い思いをすることもあるものです。
相手の調子に巻き込まれることなくうまくかわす、やり過ごすという「柳に風」なふるまいはトラブルが少ない生き方、処世術の一つとしても参考になるでしょう。
「柳に風」と間違えやすいことわざ・四字熟語
「暖簾に腕押し」とは手応えがないさま
「暖簾に腕押し(のれんにうでおし)」とは、暖簾がひらひらと揺れる様に「手応えがないさま」を例えた表現です。たとえば「あいつには何を言っても暖簾に腕押しだ」は「手応えがなくて困る」といったニュアンスです。
「柳に風」は受け流す側の表現でしたが、「暖簾に腕押し」は主張する側の表現ともいうことができます。また、「暖簾に腕押し」には「柳に風」がもつ「うまくかわす、やり過ごす」という意味は含まれません。
「馬耳東風」は聞き流すことを表す
「他の人の意見を気に留めず、聞き流すこと」という意味の四字熟語では、「馬耳東風(ばじとうふう)」もあります。「東風」とは東から吹く春の心地よい風のことで、馬の耳には心地よい風も感じないことを例えとした表現です。
「柳に風」の反対語・対義語
「柳に風」の反対語は「売り言葉に買い言葉」
「柳に風」の反対語は「売り言葉に買い言葉」です。「売り言葉に買い言葉」とは、相手の暴言に対して同じような口調で言い返すこと、という意味です。相手の強い調子をサラリと受け流すという意味の「柳に風」とは真逆の意味の表現と言えるでしょう。
「出る杭は打たれる」も反対の意味の表現
「出る杭は打たれる」には「才能があると妬まれたり憎まれたりする」という意味もありますが、「余計なことをして非難される」という意味も持つ慣用句です。この後者の意味は「柳に風」とは対義的で、行動せずに受け流す「柳に風」に対し「余計なことをする」という行動に出る様を表すのが「出る杭は打たれる」です。
「柳に風」の英語訳
「柳に風」の英語訳は「No reply is best」
「柳に風」は英語では「No reply is best.」と表現できます。直訳すると「返事をしないのが一番良い」という意味で、相手に応じないというニュアンスが「柳に風」に通じるものがあります。
「treat」を使った英語訳も可能
「treat」は動詞で「扱う」という意味を持つ英単語で、「待遇する、取り扱う」など人にも物にも使える表現です。たとえば「to treat something well」と使うと「うまくあしらう」という意味に、「to treat someone lightheartedly」は「相手を軽くあしらう」というニュアンスになります。いずれも「柳に風」を意訳した表現として使うことができるでしょう。
まとめ
「柳に風」とは、柳が強い風に吹かれてもしなやかに揺れる様を例えとして使った表現です。「相手の強い調子にもうまくやり過ごす」「逆らわなければ災いは起きない」という意味で用いられます。口うるさい相手にも反論せず、スマートにかわす様が良い例です。「手応えがない」「耳を貸さない」というニュアンスで使わないよう注意しましょう。