「七生報国」は戦中にスローガンとして用いられた四字熟語のひとつで、特攻隊の鉢巻に書かれた言葉としても知られています。この「七生報国」とはどう読み、またどう使うのが正しいのでしょう。「七生報国」の意味や読み方をはじめ、楠木正成や仏教などその由来についても解説しましょう。
「七生報国」の意味とは
七生報国とは「何度生まれ変わっても国に尽くすこと」
「七生報国」とは「何度生まれ変わっても国のために尽くす、国に受けた恩に報いる」という意味です。
「七回生まれ変わっても」という解釈をすることもできますが、回数を限定せず「この世に生まれ変われる限り永遠に国に報いる、幾度生まれ変わっても国のために尽くす」という意味を持ちます。
「七生報国」の読み方は「しちしょうほうこく」
「七生報国」は「しちしょうほうこく」と読みます。「七生」を「しちせい」や「ななせい」と読むのは誤りで、「しちしょう」と読むのが正しいです。
「七生報国」の由来とは
「七生報国」の由来は楠木正成の最期のことば
「七生報国」は、武将楠木正成のことばに由来するとされています。後醍醐天皇に仕えていた楠木正成は、足利尊氏に敗れ自害する際に「七度人として生まれ変わり、朝敵を倒し国に報いる」という主旨の言葉を残しています。
楠木正成の忠誠を誓う姿勢が「七度生き延びて国に報いよ」と解釈され、四字熟語として使用されたようです。
「七生」とは仏教用語でもある
一方で「七生」には仏教用語としての側面もあり、仏語としては「何度も生まれ変わること」という意味を持ちます。
仏教では「七生」以後の生はないとする考えがあり、「永遠」という意味でも「七生」と使うことがあります。ここから転じて「七生」は何度も生まれ変わること、という解釈もできるわけです。
「七生報国」の使い方や用例
「七生報国」は太平洋戦争のスローガンだった
「七生報国」は太平洋戦争時に軍事スローガンとして主に用いられた四字熟語です。天皇に最後まで仕えたという楠木正成のその生き方や姿勢は愛国精神の象徴として、当時は教育現場でも度々取り上げられていました。
「七生報国」は特攻隊の鉢巻でも知られる
「七生報国」は軍事スローガン、愛国スローガンとして用いられたことは先述の通りですが、国のために命を懸けた特攻隊員の鉢巻に書かれた言葉としてもよく知られています。
当時、国のために命をかけることは名誉とされていたこと、また多くの若者がそう教育されていたことから特攻の際にも「七生報国!」と叫んだという逸話もあります。
「七生報国」は三島由紀夫の鉢巻にも
「七生報国」の文字は特攻隊の鉢巻だけでなく、いわゆる「三島事件」の際に三島由紀夫本人が巻いていた鉢巻に書かれた四字熟語としても知られます。
1970年11月25日、三島由紀夫は市谷にて当時の陸上自衛隊総監を監禁し、自衛隊員に向けてクーデターを呼びかけます。その際に巻いていたのが「七生報国」の文字をあしらった鉢巻で、演説後総監室に戻った三島は割腹自殺を遂行し一大ニュースとして世間を騒がせました。
「七生報国」と「八紘一宇」は関連する四字熟語
「七生報国」と同様に戦中によく用いられた四字熟語に「八紘一宇」があります。「八紘一宇(はっこういちう)」とは「世界を一つの家にする」という意味です。
第二次世界大戦中に、日本の東南アジアや中国への侵略を正当化するために用いられていました。「七生報国」と意味は異なるものの、使われていた時期や意図が重なるため関連する四字熟語として目にすることが多いでしょう。
「七生報国」は日常生活やビジネスでは使わない
「七生報国」は戦争とかかわりが深い四字熟語であり、日常的に使うことはまずありません。現代では文学作品等で見かける他、目にすることはないでしょう。
一方、三島事件に代表されるように「七生報国」は強い政治思想を連想されることもあります。そのため、慎重に使ったほうがよいという意見もあります。
「七生報国」の類義語とは
「七生報国」の類義語は「一死報国」
「七生報国」と似た意味の四字熟語では「一死報国」が挙げられます。「一死報国(いっしほうこく)」とは「命をかけて国の恩に報いること、死を覚悟して国のために尽くすこと」という意味です。「一死」は命を捨てることを意味します。
「一死報国」は命をかけてでもというニュアンスが、「七生報国」は命を落としたとしてもさらに生まれ変わってというニュアンスが特徴的ですが、いずれも国に忠誠を誓うという意味で共通しています。
「尽忠報国」も類義語として使える四字熟語
「尽忠報国(じんちゅうほうこく)」とは「忠義を尽くし国の恩に報いること」という意味です。「尽忠」は国家や君主に真心を尽くして仕えること、という意味があります。
まとめ
「七生報国」とは「何度生まれ変わっても国に尽くす」という意味です。天皇に最後まで忠誠を貫いた武将、楠木正成が最期に語った言葉に由来します。また「七生」という語には仏教用語としての背景もあり、「永遠」を意味して用いられることもあります。
「七生報国」は日常で使うことはまずありません。特定の政治思想を思わせることから公に使うのは避けたほうが良いという声もありますが、日本の戦争を語る上では欠かせない四字熟語と言えるでしょう。