刑罰のひとつ「禁固刑(禁錮刑)」とはどういった刑なのでしょうか。本記事では「禁固刑」の意味をはじめ、「懲役刑」との違いについてもわかりやすく解説します。
あわせて「禁固刑となるのはどういった犯罪なのか?」「禁固刑の刑務所での生活とは?」についても紹介しましょう。
「禁固刑」とは?
禁固刑とは「身柄を刑事施設に拘置する刑」
「禁固刑」とは、受刑者の身柄を刑事施設に拘置する刑のことです。「禁固刑」は「自由刑(身体の自由を拘束する刑)」のひとつで、受刑者は刑務所で身柄を拘禁されることになります。ただし「禁固刑」では、刑務作業の強制がないのが特徴です。
「身柄の拘束」という意味では逮捕や勾留も似た意味を持ちますが、「禁固刑」は“刑罰”という点が異なります。逮捕や勾留は刑事手続を維持するためのもので、懲罰の意味はありません。
禁固とは「室内に閉じ込めること」を意味する
「禁固」とは「室内に閉じ込めること、閉じ込めて外に出るのを許さないこと」という意味です。そのため「禁固刑」も「監獄に閉じ込めて外に出さない」ことになります。
なお、法律用語としての「禁固」は「禁錮」が正しい表記です。そのため「禁固刑」も「禁錮刑」と表記するのが正しいのですが、本記事では便宜上「禁固」の表記を使用します。
禁固刑は「有期で最長30年」または「無期」
「禁固刑」には、期限のある「有期禁固」と期限のない「無期禁固」があります。「有期禁固」の場合は、1月以上20年以下と定められている一方で、最長では30年まで延長が可能です。また、期限に定めのない「無期禁固」も存在します。
「禁固刑」と「懲役刑」の違いとは?
わかりやすく言うと「刑務作業義務の有無」
ニュースなどでよく耳にする刑罰に「懲役刑」があります。「懲役刑」とは、受刑者を刑事施設内に拘置し、所定の刑務作業に従事させる刑のことです。
「禁固刑」と「懲役刑」、どちらも刑罰の種類としては同じ「自由刑」に該当します。違いをわかりやすくいうと、刑務作業の義務があるかないかです。「懲役刑」は刑務作業の義務がありますが、「禁固刑」は労働を強制されることはありません。
「禁固刑」より「懲役刑」が重い
刑法によると、刑の序列は重い順に、死刑・懲役・禁固・罰金…と続きます。つまり、「禁固刑」よりも「懲役刑」が重い刑罰ということになります。
ただし、「無期禁固」の場合は懲役刑よりも「禁固刑」の方が重いとされています。また、有期の場合でもその期間が懲役刑の二倍を超える場合は「禁固刑」の方が重いとみなされるなど、刑の序列が変わる場合もあります。
「禁固刑」でも執行猶予の可能性はある
「禁固刑」と「懲役刑」は、いずれも執行猶予の可能性があります。「執行猶予」とは、一定期間に限り刑罰の執行を猶予する制度です。
執行猶予の期間中は社会生活を送りながら更生を目指し、執行猶予の期間を問題なく満了すれば刑の効力は消滅します。
「禁固刑」と「懲役刑」は一本化される
2022年3月、兼ねてから検討されていた刑法の改正案が閣議決定されました。これにより、現行法の「禁固刑」と「懲役刑」は一本化され、「拘禁刑」が創設されることになりました。
「禁固刑」となる犯罪の事例については後述しますが、現状の日本では犯罪の大半が「懲役刑」となっていることも法改正の理由のひとつで、「拘禁刑」の導入で懲役刑の受刑者の更生など柔軟な処遇が可能となると見られています。
「禁固刑」になる犯罪とは?
日本では政治犯に「禁固刑」を課すことが多い
「禁固刑」はいわゆる政治犯と呼ばれるような犯罪に課されます。たとえば内乱罪、内乱予備・陰謀などの内乱に関する罪は、「禁固刑」のみと規定されています。また公務執行妨害罪や公務員職権濫用罪なども「禁固刑」となる可能性がある犯罪です。
また名誉棄損罪も「禁固刑」の対象です。近年ネット中傷などが後を絶たないこともあり、名誉棄損罪の厳罰化を求める声が多く、これもまた先述の「拘禁刑」創設の理由のひとつです。
交通事故で「禁固刑」となる例も
「禁固刑」となる犯罪では交通事故も挙げられます。いわゆる過失運転致死傷罪では、被告人自身に悪意がなかった場合「禁固刑」が言い渡される可能性があります。
なお、過失運転致死傷罪で「禁固刑」となった場合の多くは執行猶予付き判決で、実際に禁固受刑者は多くないようです。
「禁固刑」の一日の生活とは?
「禁固刑」は独房で監視を受ける生活
「禁固刑」は、独房で監視を受ける生活となります。就寝時を除き、常に看守の監視のもとに置かれます。決して自由に過ごせるわけではありません。
寝るのはNG、刑務作業時間は正座かあぐら
「禁固刑」は刑務作業の義務があるわけではありませんが、基本的には懲役刑の受刑者と同じ生活サイクルを過ごすようです。懲役刑の受刑者が刑務作業を行う時間は居室にて正座やあぐらにて過ごします。寝そべってくつろいだり、昼寝をしたりすることはありません。
読書に没頭する人や資格勉強をする人も
「禁固刑」の場合、許可された時間内では本を読む人が多いようです。独学にはなりますが、資格取得の勉強をする人もいて、図書の貸し出しを受けることもできます。
「暇」「楽」という意見もあるが精神的な負担も
「禁固刑」は刑務作業がない分、「暇」「楽」というイメージがあるようです。しかし、常に監視される生活は精神的な負担が大きく、常に同じ居室で一人きりで過ごすことに限界を感じる受刑者もいます。そのため、「禁固刑」受刑者の多くは自ら刑務作業を願い出て、何らかの作業に従事する人が多いようです。
「禁固刑」の英語訳
「禁固刑」は英語で「imprisonment」
「禁固刑」の英語訳では「imprisonment」という語を使用します。「imprisonment」は「投獄、拘禁、禁固、幽閉、束縛」という意味です。
「penalty of imprisonment」というフレーズで使うこともできます。また、単に「in prison(刑務所に入っている)」という言い回しで、「禁固刑」を表現する例もあります。
「禁固刑」の英語文例
- I was sentenced to 3 years’ imprisonment.(私は3年の禁固刑を宣告された)
- I was sentenced to 3 years in prison.(私は禁固3年を宣告された)
まとめ
「禁固刑」とは受刑者の身柄を刑事施設に拘置する刑のことです。「禁固」には「室内に閉じ込めること」という意味があるように、「禁固刑」では刑務所内で監視のもと制限された生活を送ることになります。
なお、2022年3月に「禁固刑」と「懲役刑」を一本化し、「拘禁刑」を創設するという刑法改正案が閣議決定されています。