「シビリアンコントロール」とは政府と軍のあり方を表す用語のひとつです。民主主義の基本原則とも呼ばれますが、具体的にはどういった姿勢・方針を表すのでしょうか。
「シビリアンコントロール」の詳しい意味、重要性やメリット・デメリットについて詳しく解説します。また「シビリアンコントロール」の対義語も紹介しましょう。
「シビリアンコントロール」の意味とは
シビリアンコントロールとは「文民統制」の意味
シビリアンコントロールとは、「文民統制」つまり「文民が軍隊、軍事力を統制すること」という意味です。「文民」とは「軍人ではない人」を指します。
簡単にいうと「軍隊の指揮を政治家が行うこと」
もう少しわかりやすくいうと「シビリアンコントロール」は、「軍隊の指揮を政治家が行うこと」を意味します。
文民である政治家が軍隊を統制する、という国の原則を指して「文民統制」と言います。「軍事に対する政治の優先」と表現されることもあります。
「シビリアンコントロール」は民主主義の基本原則
「シビリアンコントロール」は、国民が選出した国民の代表である政治家、政府が軍隊を統制することから民主主義の基本原則とされています。「シビリアンコントロール」の主体は、国会や議会にあり、究極的には国民となります。
「文官が偉い」という考え方は誤解
「文民統制」では、「文民」である政治家が軍を統制します。ただし、軍人よりも「文官(いわゆる防衛省事務次官などの官僚)」が偉いという解釈は誤解です。
「文官」と呼ばれる事務方が優位とされていた時代もありましたが、法改正を経て現代は自衛隊の現場と事務方が対等に補佐できる体制となっています。
「シビリアンコントロール」のメリット・デメリットとは
メリットは「軍の暴走を防げること」
「シビリアンコントロール」の一番のメリットは、軍部の暴走を防げる点にあります。「シビリアンコントロール」では、軍が政府や議会の承認・決定によって動きます。言い方を変えると、文民が軍を統制することで、軍による勝手な動きは不可能ということです。
デメリットは「政治家によっては軍が暴走する」
「シビリアンコントロール」は軍部の暴走を防ぐ役割を担いますが、政府や政治家によって悪い方向に進むというデメリットも否定できません。わかりやすくいうと、政治家の考えひとつで戦争が起こるという可能性です。
たとえば、独裁者として知られるドイツのヒトラーは、シビリアンコントロール下で暴走した人物のひとりとして知られています。
「シビリアンコントロール」の日本と諸外国の例
「シビリアンコントロール」は自衛隊法および憲法に記載
日本は「シビリアンコントロール」を採用する国のひとつです。日本の場合、自衛隊法の第7条および憲法第66条がその根拠とされます。
なお、憲法第9条で「戦力を保持しない」としているため、厳密にいうと自衛隊は軍隊ではありません。
日本では内閣総理大臣が自衛隊を統制
日本では自衛隊の最高指揮官は内閣総理大臣です(自衛隊法第7条)。つまり、自衛隊を統制しているのは、内閣総理大臣という「文民」となります。最高指揮官である内閣総理大臣の下で、自衛隊を統督しているのが「防衛大臣」です。
日本では「内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない(憲法第66条)」と定めがあり、防衛大臣も軍人ではない「シビリアンコントロール」の国ということになります。
アメリカでは大統領が軍の最高指揮官
アメリカもまた「シビリアンコントロール」の国の一例で、アメリカの場合は大統領が軍の最高指揮官です。大統領は国民によって選ばれているため、アメリカの場合も民主主義の原則にのっとったものということができます。
ミャンマーは2021年のクーデータにより軍政に
ミャンマーは、長い歴史の中で軍事政権と民政が何度も入れ替わっている国です。2011年には文民政権が発足しましたが、実際は軍が大きな影響力を持ち続けたという事実があります。
2021年のミャンマー国軍によるクーデター以降、「シビリアンコントロール」が転覆し軍政の国となっています。
「シビリアンコントロール」の対義語とは
「軍事政権」とは軍人が政治権力を持つ形態のこと
「シビリアンコントロール」の対義語は「軍事政権」です。「軍事政権」とは、軍人が政治権力を持ち支配するという政府の形態を表し、「軍政」ともいいます。
北朝鮮では「先軍政治」といわれる
北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)は軍事政権の代表的な例ですが、北朝鮮では「先軍政治」という表現が用いられます。
すべてにおいて軍を優先し、軍を国家建設の主力とみなす政治思想です。「先軍政治」は、北朝鮮の公式イデオロギーとして憲法にも明記されています。
戦前の日本では「軍部大臣現役武官制」とも
「軍部大臣現役武官制」とは、戦前の日本の政治形態です。軍部大臣(陸軍大臣、海軍大臣)には現役武官のみが就任資格を持つとする制度。
当時の日本では、文官はもちろん退役後の武官にも軍部大臣の就任資格はなく、現役の軍人のみに軍部大臣としての資格が与えられていました。
まとめ
「シビリアンコントロール」は「文民統制」とも言われ、端的にいうと軍の指揮統制を軍人以外の政治家が行うこと、行う体制を意味します。民主主義で選ばれた政治家が軍を統率するという形は民主主義の原則とも言われます。
日本は戦後「シビリアンコントロール」をとるようになりました。厳密にいうと自衛隊は軍隊ではないことが憲法において明らかにされているため、「シビリアンコントロール」という語を使うことには矛盾を指摘する声もあるようです。