「全体主義」とは、全体が優先される思想や国家体制という意味ですが、「ファシズム」や「独裁主義」と似ているようで違いがあります。
この記事では、全体主義の意味や起源についてわかりやすく解説して、ファシズム、独裁主義、集団主義、権威主義、社会主義との違いや、ロシアの全体主義についても説明します。
「全体主義」の意味と起源とは?
「全体主義」とは「全体が優先される思想や国家体制」
「全体主義」とは、国家や民族など全体が優先されて、個人はそれに属しているもの、または従事するものとしている思想や国家体制のことです。国家全体の利益が優先されるために、従属している個人は国家の利益のために協力します。時には、国家は従属している個人の生活を規制して支配するという側面も持ちます。その一方で、国民は国家の利益になるために働くことで、個人の利益も増えると考えられています。
全体主義は20世紀の初めに日本・ドイツ・イタリアで登場
全体主義は20世紀の初め、第一次大戦以後の1920年代から1940年代にかけて登場しました。特に日本、ドイツ、イタリアの3国では、全体主義を基礎とした政権が確立されます。日本の天皇制ファシズム、ドイツのナチズム、イタリアのファシズムによる独裁政権は、政府が国民の意思を統一して、国内経済が向上することと国外での領土拡大を目的とする政策が行われました。
全体主義は英語で「totalitarianism」
全体主義は英語で「totalitarianism」です。全体主義者のことは「totalitarian」、全体主義国家のことは「totalitarian state」または「totalitarian regime」と表現します。
「全体主義」と「ファシズム」「社会主義」との違い
全体主義とファシズムの違いは「独裁性の質」
全体主義とファシズムの違いは、全体主義では国家と国民の間で利害関係があるのに対して、ファシズムにはそのような利害関係はなく、国民を支配する独裁的な政治運動だということです。
全体主義的政権とファシズム政権の両方とも独裁的な政権ですが、全体主義政権下では国家に従属する国民は国家の利益のために活動して、それによって利益を増やせると考えられるので、国家と国民の間での利益上の関係が表向きにはあります。一方で、ファシズム政権では国民の意思は関係なく、国家が強制的に国民を支配することで成り立っている政権です。
全体主義と社会主義の違いは「国家と国民の関係」
全体主義社会と社会主義社会では、国家と国民の関係が違います。
「社会主義」とは、財産を共有して平等な社会を目指す思想や運動のことです。社会主義社会では、国民は自分の労働力に応じて必要なものを与えられるので、国民と国家は対等な関係です。一方、全体主義社会では国家は国民が従事することを強制しているので、国家と国民の力関係は対等とは言えません。
ただし、実際の社会主義社会では、財産を平等に国民に分配するため、国民は働くことを強制されることから、社会主義社会でも国家と国民は対等ではない、国民に自由はないという考え方もあります。
「全体主義」と「独裁主義」「集団主義」「権威主義」の違い
全体主義と独裁主義の違いは「国民の位置づけ」
全体主義と独裁主義では、国家と国民の関係が違います。
「独裁主義」とはひとりの政治権力者、または少数の人から成る政治権力を持ったグループによって国家を支配する政治思想のことです。
全体主義と独裁主義のどちらも政治権力者が政治を行います。しかし、全体主義では個人よりも国家を優先させますが、独裁主義では個人と国家の力関係を比べることなく、国家を主導する政治家または政治グループが権力を持ってその国を統制します。ただし、全体主義政権でも国家の力が強いため、全体主義と独裁主義が同義語として使われることもあります。
全体主義と集団主義の違いは「重視しているもの」が違う
全体主義と集団主義との違いは、重視しているものが違います。全体主義では重視していることは全体の利益で、集団主義では集団そのものに価値を置いています。
「集団主義」とは、個人よりも集団に価値があると考える思想のことで、対義語は個人主義です。つまり、全体主義と比べると、集団主義では集団そのものに価値があると考えられているのですが、全体主義では集団全体その物ではなく、その集団全体の利益を生むことに価値があります。
またもう一つの違いは、全体主義の「全体」とは、国家のような大きな集団を想像する傾向があるのに対して、集団主義では集団の規模はあまりとらわれず、少人数の小さな集団でも集団主義という言葉が使われることがあることです。
全体主義と権威主義の違いは「全体主義政権の方が国民への強制力が強いこと」
全体主義社会と権威主義社会では、全体主義政権の方が国民に服従させる力が強いことです。
「権威主義」とは、権威を持っている人や集団の主張が通り、権威のない人は権威のある人や集団に服従する行動様式のことです。権威のある人が権威のない人を服従させるという関係になっていますが、国家が絶対の権威を持っていない場合には、ほかの思想や運動も受け入れられます。
しかし全体主義社会では、国家が絶対的な権力を持っているので、国民は国家に服従しなくてはいけません。このように考えると全体主義と権威主義とは、権威主義を発展させて、より権力の度合いを強めた政権が全体主義的な政権だと言えるでしょう。
ロシアは全体主義国なの?
ロシアは全体主義ではなく資本主義経済の国
ロシア(正式名称ロシア連邦)は、社会主義国でも全体主義国家でもなく、ロシアは資本主義経済の国です。ただし、ロシアの旧国家であるソ連(正式名称)は社会主義国でした。
ソ連は全体主義ではなく社会主義国家
戦後の米ソの対立のなかで、ソ連(旧ロシア)は全体主義的な国家だと呼ばれたことがありました。なぜなら、米国のような資本主義国家では個人の資産の所有が認められて、個人の人権や自由も認められていたのですが、ソ連は社会主義国家のため、個人の資産の所有が認められないなど個人の人権や自由が認められていないと考えられていたからです。
しかし、このような首長での全体主義の意味は、本来の全体主義の意味とは違い、むしろ社会主義や共産主義の意味合いで使われていたと思われます。ソ連が全体主義国家と呼ばれたのは米国からの視点であり、正しくは、ソ連は全体主義国家ではなく社会主義国家と呼ばれるべきでしょう。
まとめ
「全体主義」とは「全体の利益を優先する思想や政治体制」のことです。かつての日本やドイツ、イタリアでは全体主義的なファシズム政権によって、国が統治されていたことがありました。現在では、全体主義の国家はないと考えられています。
“I think his idea dangerous, because it might be lead to totalitarianism.”
「彼の考えは全体主義につながる可能性があるので危険だと思う」