「叙情的」とは?「抒情的」とは違う?使い方や例文・対義語も

「叙情的作品」「叙情的な旋律」などの表現を目にしたり聞いたりしたことはありませんか。今回はこの「叙情的」がどのような意味を持つのか、また漢字表記が異なる「抒情的」についても説明します。さらに、場面別での使われ方や例文、類義語や対義語、英語表現も紹介していますので参考にしてみてください。

「叙情的」の意味とは

「叙情的」の意味は「感情や気持ちをありのまま表す様子」

「叙情的(じょじょうてき)」の意味は「感情や気持ちをありのままに表す・素直に表現している様子」です。名詞の「叙情」に接頭辞の「的」がついた形容動詞で、”叙情”とは「自分の感情を表す」という意味を指します。

また、「叙情的」には「感慨深い様子」や「切なさや哀愁からくる感動の表現」といった意味も持ち合わせており、感情が揺れ動き感動する様子をあらわす言葉としても用いられています。

「叙情的」は、使われる分野によってその意味が少し変わる場合がある言葉でもあります。分野ごとの「叙情的」の使われ方については、後の段落で紹介します。

「抒情的」とも書くが意味は同じ

「叙情的」は「抒情的(じょじょうてき)」とも書くことがあります。「抒情的」の「抒」は”述べる”という意味を持つ漢字ですが、常用外漢字です。そのため常用漢字で「抒」と同様に”述べる”の意味を持つ「叙」を用いて言い表されるようになりました。現在発行されている国語辞典の多くは、「叙情」の方を優先的に掲載しています。

「抒情的」も「叙情的」と意味に違いはなく、同じように使えます。

「叙情的」の使い方

文学では「自らの感情や気持ちが表れるようす」を表現する

文学の分野で「叙情的」が使われるのは、「自らの感情や気持ちが表れるようす」を表現しているものを指すときです。

とくに情緒があふれるさまや、切なさ、哀愁から心が揺さぶられるような文章表現を「叙情的な文章」と呼びます。

叙情的な文章表現は、読者の心を揺さぶるような場面に使われていることが多く、また季節のうつろぎや風景描写を感じられる場面でも使われます。

また、作者の主観的な思いや感情・内面を表現したものを「叙情詩」とよびます。

例文

  • 彼は叙情的な文章を書くことが得意だ。
  • 「万葉集」は日本の代表的な叙情詩集である。

音楽では強く感動的な様子・サウンドを表現する

音楽の分野における「叙情的」は、胸に訴えかけるような強く感動的な様子を表現するときに用いられます。文学における”切なさ、哀愁”よりもさらに強い印象を持っているといえます。

具体的な例として、クラシック音楽の美しく深みを感じられる旋律やプログレッシブ・ロックにおける緩急のついたサウンドがあげられます。

プログレッシブ・ロックとは、1960年代後半にイギリスで生まれた”革新的なロック”を意味する音楽ジャンルのひとつです。

例文

  • コンサートの終盤は叙情的な音楽で盛り上がりをみせた。
  • バイオリンの叙情的な旋律に胸が締め付けられるようだ。

絵画では主に抽象画のジャンルで用いる

絵画の世界における「叙情的」は、おもに「抽象画」に対して用いられます。抽象画とは風景や人物など具体的に存在するものを写実的に描くのではなく、存在しないものを点や線・形や色彩などを用いて表現する芸術のことです。

抽象画においては「何が描かれているか?」という「モノの存在について思いを巡らすこと」よりも、その作品に込められている”美しさや芸術性”を感じ取るものです。沸き起こる感情や気持ちの中から美しさを感じることが「叙情的」と例えられるゆえんです。

例文

  • 彼の描く絵は繊細で叙情的だ。
  • 叙情的な絵を見ていると、心の中に静かな喜びがわいてくるようです。

「叙情的」の類義語は

「叙情的」の類語は「情緒的」

「叙情的」の類義語にあたる言葉は「情緒的(じょうちょてき)」です。「情緒的」とは「人を感慨深くさせるような感情を誘う雰囲気や感情」という意味を持ちます。

「情緒」は、感情(特に感慨深くさせるような感情)を沸き起こさせる雰囲気や、何かの出来事に触れて起こるさまざまな感情を意味する言葉です。そこに「的」が組み合わさることで、”感情を起こさせる雰囲気、感情として捉える様子”の意味を持ちます。

「情緒的」は感情自体をあらわす言葉

「叙情的」と同じく「情緒的」も感情を表す言葉のため類語にあげられますが、ごくわずかな意味の違いがあるので注意が必要です。

  • 情緒的…感情を誘う雰囲気や感情そのもののこと
  • 叙情的…感情を表す・表現する様子のこと

たとえば「叙情的なピアノバラード」の場合、”感情を表現しているピアノ曲”を意味します。これを「情緒的なピアノバラード」とした場合、“感情を誘う・抱かせる雰囲気のピアノ曲”の意味となり、意味が異なってきます。

「叙情的」の対義語は

「叙情的」の対義語は「叙事的」

「叙情的」の対義語は「叙事的(じょじてき)」です。「叙事的」の意味は「事件や事実をありのまま・客観的に述べること」で、そこに批評や主観といった感情は入りません。

実際に起こったことや事実を、脚色や主観など入れずに記録して残すのが「叙事的」で、感情や気持ちを表現し訴えかける「叙情的」とは反対の意味を持ちます。

「叙情的」なものと「叙事的」なものの例

「叙情的」と「叙事的」の違いは、文学の場面をヒントにして考えるとよいでしょう。「叙情的」と「叙事的」は文字の並びが似ているため同じ意味と誤解しがちですが、正反対の意味を持っていることがよくわかります。

  • 叙情的なもの…詩や小説など、その作品のストーリーや世界観を楽しむもの
  • 叙事的なもの…ノンフィクションやビジネス書・実用書など、おもに情報を伝える役割のもの

「叙情的」の英語表現は

「叙情的」は英語で「lyrical」

「叙情的」を英語で表す際は「lyrical」を使います。「lyrical」とは”詩的な、個人の感情が吐露された”などの意味を持つ形容詞です。また、「叙情詩」の意味もあります。

「lyrical」の名詞形として「lyric」がありますが、その場合は「(おもにポピュラーソングにおける)歌詞」という意味になります。

「lyrical」を使った英文の例

  • She likes lyrical song.(彼女は感情をうたった歌を好みます。)
  • His performance was lyrical.(彼の演奏は叙情的だった。)

まとめ

「叙情的」は「感情や気持ちをありのままに表す・素直に表現している様子」「切なさや哀愁からくる感動の表現」という意味を持つ言葉ですが、文学や音楽、絵画など使われる分野によってその意味が変わる場合があります。それぞれでの使われ方を理解して、正しく使いこなしましょう。