「デカルト」の哲学や思想とは?「方法序説」の意味や名言も解説

「我思う故に我あり」の命題で知られる「デカルト」は、近代哲学の祖とされ、真実を探求するための近代の合理的な哲学の基礎を築きました。近代哲学を理解する上で欠かせないデカルトについて、ここではその生涯と哲学、さらにデカルトの思想を表す名言について紹介します。

「デカルト」とは?

はじめに、ルネ・デカルト(1596年~1650年)について説明します。

デカルトは近代哲学の祖

デカルトとは、近代哲学および合理主義哲学の祖です。デカルトの生きた17世紀初頭のヨーロッパは急速に科学が発達した時代でした。デカルトは中世の神学から哲学を引き離し、懐疑的な立場に立つことが真の科学的で合理的な立場だとして哲学を展開しました。このことが、デカルトから近代哲学が始まったとされるゆえんです。

デカルトの生涯は「書物の学問」と「世界という書物の学問」から始まる

デカルトの生涯を辿ってみましょう。デカルトはフランスのトゥレーヌ州の医師の家系に生まれました。10歳の時イエズス会が運営したラ・フレーシュ学院に入り、この学院の哲学科クラスでアリストテレスの学問体系による論理学と自然学、および形而上学を学びます。

デカルトはその後、ポワティエ大学で法学を学びますが、卒業後は軍隊に志願し、22歳の時にオランダにあった軍事学校に入ります。そのときのことを著書『方法序説』でデカルトはこのように書いています。

「私は書物の学問をまったく放棄し」そして「世界という大きな書物の内にみいだされうる学問のほかは、もはやいかなる学問も求めまいと決心して」デカルトは実践的な判断力の習得に乗り出しました。

さらに「私の行動においてはっきりと見、確信をもってこの世を歩むために、真なるものを偽なるものから分かつ術を心得たいという極度の熱意をつねにもった」と、デカルトは学問に対する精神を述べています。

デカルトは「驚くべき学問の基礎」の夢をみて哲学探究の確信を得る

オランダでは自然学者のイサーク・べークマンに出会い、共同研究を行うようになります。このとき「数学の効用」を知ることになり、後のデカルトに影響を与えました。

そして、オランダで軍人としての訓練を受けたり、べークマンとの共同研究に没頭したのち、デカルトはオランダを離れドイツに向かいます。その途中、冬を越すために滞在した村でデカルトは「驚くべき学問の基礎」を見出す夢をみました。

その夢とはべークマンとの研究で見出された「数学の統一」という思想のもと、自分ひとりの手によって、諸学問の連鎖を体系的に構築することができるという確信を得たものだとされています。

デカルトはオランダで隠遁し著作を執筆

軍隊を離れたデカルトは、イタリアやパリなどを遍歴します。1628年にはオランダに居を移し、その後の生涯のほとんどをオランダで過ごします。オランダの時代に本格的な哲学を打ち立て、著書を執筆します。晩年にスウェーデンに招かれ、そこで肺炎で亡くなりました。

「デカルト」の思想とは?

次にデカルトの思想について説明します。

デカルトは「二元論」を提示した

デカルトは、精神と身体の両者を、区別される2つの実体でありながら、相互作用が可能な関係にあるとする「心身二元論」を打ち立てました。

この二元論は、「心身問題」として2つの問題を提起することになります。精神を物質からの独立の存在としてどのように認めるのかという問題と、非物体である精神が、どのように物体である身体を動かすのかという問題です。

のちの合理主義者であるスピノザやマルブランシュ、ライプニッツは、それぞれが二元論の独自の哲学体系を展開してゆきます。

デカルトは「方法的懐疑」によって真理を探究した

デカルトは真理の探究方法として、「方法的懐疑」を用いました。デカルトは当時において抽象的だった哲学に対して、確実な真理を発見するためにあらゆることを疑い、少しでも疑われることは推論から外し、疑いのない確実な真理を論理的に展開しようとしたのです。

この方法的懐疑から、デカルトは「我思う故に我あり」の命題に辿り着きました。「我思う故に我あり」についてはのちほど詳しく説明します。

認識に達するための「方法の規則」を提示した

デカルトは『方法序説』において、「自分の精神が受け入れうるあらゆる事柄の認識に達するための真の方法を探求する」ための「方法の4つの規則」を提示しました。

  • 「注意深く独断と偏見を避けること」
  • 「問題を解くために要求されるだけの小部分に分割すること」
  • 「認識しやすい対象から複雑な対象へと、順序に従って進むこと」
  • 「何も見落としていないと確信できるよう全体の通覧をいたるところで行うこと」

デカルトの道徳指針「3つの格率」を提示した

デカルトは、学生時代に学んだ道徳は認識論的根拠が明確でないと考え、生き方の方針として次のような「3つの格率」を提示します。「格率」とは、規則という意味を持ちます。

  • 「政治・宗教的な立場は保守主義をとり、そのほかの事柄は中庸の意見に従う」
  • 「自分の意見には決然とした態度で迷わずに従う」
  • 「自己に打ち勝つことに努め、世界の秩序よりも自己の欲望を変えることに努める」

デカルトは、自らに課した方法に従って自分の全生涯を真理の認識にあてることを決意し、哲学に没頭してゆきました。

「デカルト座標」を発見した

デカルトは著書『幾何学』において、解析幾何学の基礎概念である「座標」の概念を初めて示しました。解析幾何学とは、座標を用いることにより、図形のもつ性質を特徴づけたり、数式として図形を扱ったりすることができる数学のことです。座標の発見により、デカルトは解析幾何学の創始者とされ、この概念は「デカルト座標」と呼ばれます。

「デカルト」の『方法序説』が意味するものとは?

デカルトの主著に『方法序論』『省察』『哲学の原理』『人間論』などがあります。中でも『方法序論』はデカルト哲学が網羅される代表作で日本でもよく読まれています。

『方法序説』は「真理を探究するための方法にかんする序説」

1637年にデカルトは、『三つの試論』(『屈折光学』『気象学』『幾何学』)とそれについての序文の役割である『方法序説』を公刊しました。『方法序説』の正式なタイトルは「理性を正しく導き、もろもろの科学における真理を探究するための方法にかんする序説」です。

この序説においてデカルトは、形而上学や物理学など、これから自分が書く論文はここに書かれた方法によるということを説明しています。またその他にも『方法序説』には自伝や学問に対する考え方についても書かれており、デカルト哲学の全体像を知ることができます。

『方法序説』は次のような内容の全6部で構成されています。

第1部:自伝を含めた学問に対する考察
第2部:「方法の4つの規則」とそれに至る経緯
第3部:「3つの格率」からなる「道徳の法則」
第4部:神と霊魂の存在を証明する形而上学
第5部:自然学や医学についての問題の解明
第6部:本書を執筆した経緯

『方法序説』は近代思想の古典

『方法序説』第一部は「良識はこの世でもっとも公平に分配されているものである。」という言葉で始まります。良識の平等を説いたあと、「健全な精神をもっているというだけでは十分ではなく、大切なことはそれを正しく適用することだからである。」と、自己責任を説きます。

さらに、当時の書物はラテン語で書かれることが一般的だったのに対し、『方法序説』は教育を受けていない人でも読めるように当時は俗語とされていたフランス語で書かれました。「古い書物だけしか信じない人たちよりも、もっとよく私の意見を判断してくれるだろう」とデカルトはフランス語で書いた理由を述べています。

このように、平等と自己責任を示した『方法序説』は近代思想の古典と位置付けられています。

「我思う、故に我あり(コギトエルゴスム)」の命題が示される

『方法序説』第4部で、デカルトの形而上学を示す「私は考える、だから私は存在する」という命題が書かれます。日本では「我思う、故に我あり」という文句でよく知られています。

この言葉は著書『省察』や『哲学の原理』でも類似の表現が使われており、またラテン語の表現もさまざまで、意味の解釈については諸説があります。ラテン語の「cogito」が「我思う」の意味であるため、「我思う、故に我あり」は「コギト命題」とも呼ばれます。

一般的には、考える理性としての「私」と、「私」が考える世界のみが絶対確実な原理である、とデカルトが定義づけたとされます。

デカルトの、理性を絶体的な存在とする考え方は、後にイマヌエル・カントが『純粋理性批判』で反論することになります。

デカルトの「名言」

「精神指導の規則」の中から紹介

最後にデカルトの名言を、著書『精神指導の規則』から紹介します。

ものを研究することの目的は、知能を指導して、それが出会うすべての事柄につき、しっかりした真なる判断を下せるようにすることである。

事物の真理を探究するには方法が必要である。

知識を完全なものにするためには、企てに関するすべてのものを中断されない思考によって辿ってゆき、そしてそれらを秩序正しい枚挙によって総括しなければならない。

極めて些細で容易な事物に対しても、知能の全力を向けて真理を明瞭に直観することに慣れなければならない。

知能が明敏になるためには、すでに他の人々によって見出された事柄を、自分で探求する練習をしなければならない。

知性や想像力や感覚や記憶による助力は、すべて用いるようにすべきである。要するに、人間として活用できるいかなるものも無視しないようにしなければならない。

まとめ

デカルトは、「少なくとも人生において一度は、あらゆる事物を疑ってみる必要がある」とも言い、それら思考の探究方法を明確に示しました。デカルトの最も偉大な特徴は、思考の厳格さと、権威へ依拠しない態度だとされます。

近代哲学の理解はデカルトから始まります。中でも『方法序説』(『方法序論』)は、一般の人に向けてわかりやすく書かれたデカルト哲学の解説書でもあるため、哲学入門の最初の1冊としておすすめします。