「レヴィストロース」の構造の思想とは?『野生の思考』も解説

人類学者クロード・レヴィ=ストロース(1908年~2009年)は未開社会の構造を解き明かし、構造人類学を創造しました。主著『悲しき熱帯』『野生の思考』は世界的にベストセラーとなり、構造主義ブームが起こりました。この記事では、レヴィ=ストロースの思想や著書について紹介します。

「レヴィストロース」とは?

「レヴィストロース」とは社会人類学者・民族学者

レヴィストロースとは、社会人類学者、民族学者です。ベルギーのユダヤ系の家系に生まれたフランス人です。

フランスの大学で法学と哲学を学び、大学時代はマルクス主義の影響を受け、社会主義運動を行っていました。その後、民俗学に研究分野を移し、人類学者を目指してブラジルに赴き、先住民のフィールドワークに取り組みました。

レヴィストロースは、未開社会に秩序や構造をもった普遍的な「野生の思考」が働いていることを解き明かしました。これらの発見により、西洋中心主義の抜本的な見直しを提唱したことが、高く評価されています。

レヴィ=ストロースは「構造主義思想」ブームの火付け役

構造言語学の視点を取り入れてレヴィストロースによって書かれた『親族の基本構造』が、構造主義思想ブームの火付け役になりました。レヴィ=ストロースは構造主義思想の祖と呼ばれます。

構造主義思想は1960年代にフランスに広まり、60年代の終わりには日本でもブームとなり、多くの書籍が発売されたり雑誌で特集が組まれたりしました。

ジーンズのリーバイスとは無関係

レヴィストロース(Lévi-Strauss)は、ジーンズのメーカーであるリーバイ・ストラウス社の創業者ファミリーの一人、リーヴァイ・ストラウス(Levi Strauss)と同姓で親戚であるという誤解があるようです。レヴィストロースが姓で、ストラウスが姓であるリーヴァイ・ストラウスとは姓がそもそも違うため、両者は無関係です。両者がユダヤ系の家系であることは共通しています。

「レヴィストロース」の思想とは?

社会には見えない構造がある「構造主義」思想

レヴィストロースは、それまでのヨーロッパ近代の見方であった、自由な個人が集まって社会をつくり、主体的に歴史を作り進歩しているという世界観を批判し、社会の底には見えない構造があり、個人の考えはその構造によって決定されているという考え方を主張しました。

レヴィストロースの構造主義とは、見えない構造が人間の考えや行動を決定しているとする思想です。

「構造」とは、変換を行っても不変の属性を示すこと

レヴィストロースのいう「構造」の定義とは、変換を行ってもその前後において属性が同じ関係を保つことをいいます。デューラーの実験的な絵を例として自身が説明しています。人間の横顔のパーツの比率を変えて変換してゆくと顔は変形しますが、パーツの関係性は変わりません。このように変換をほどこしても不変の属性を保つものが「構造」です。

親族構造を研究して「インセスト・タブー」を解明した

レヴィストロースが最初に取り組んだのは「近親婚の禁止」と訳される「インセスト・タブー」の解明でした。レヴィ=ストロースは、近親の女性との結婚の禁止は、女性の他集団への移動を促進するための「女性の交換」のシステムを解明します。これによって親族間の開かれた交流を維持することができるという「構造」を見出し、人々を驚かせたのです。

このように、多様な現象から普遍的な構造や本質を見出すことを構造分析といいます。この手法は実証的な手法でしたが、流行の波にのって単なる主張のための方法として乱用されるようになり、「ポスト構造主義」により批判されることになります。

『野生の思考』においてサルトルを批判した

レヴィ=ストロースは著書『野生の思考』において、サルトルを傲慢だと批判しました。人間は見えない構造の中で動かされているという構造主義を、サルトルの、人間が主体的に歴史を作ってゆくという実存主義に対峙させ、サルトルを批判したのです。

サルトルは、西洋中心的な歴史観であるところの、人間の自由と主体性を重んじる実存主義者として当時注目を浴びていましたが、この批判によって社会的な影響力を失ってゆきました。これを契機として、実存主義にかわって構造主義が注目され始めました。

「レヴィ=ストロース」の著書を紹介

レヴィストロースの主著を紹介します。

『親族の基本構造』1947年

レヴィ=ストロースの最初のテーマとなった親族関係の分析に関する学位論文が『親族の基本構造』です。本書によって文化人類学者としてのレヴィ=ストロースの名が世界で注目され、構造主義思想が広まりました。

本著では、民俗学の二つの謎を解明しています。一つは先に紹介した近親婚の禁止(インセスト・タブー)の謎で、もう一つは「交叉いとこ婚」と呼ばれる制度の謎です。レヴィ=ストロースは独自の考察方法によって民俗学の謎を解明しますが、その方法が構造主義として注目されることになりました。

その方法とは、構造言語学派の言語学者ローマン・ヤコブソンとの出会いによって取り入れた構造言語学の視点と、フランスの数学者集団ブルバキ派の数学者、アンドレ・ヴェイユに依頼して取り入れた数学的に構造を解析する手法です。

『悲しき熱帯』1955年

『悲しき熱帯』は、1930年代にレヴィ=ストロースがブラジルで行った現地調査からなる四つの部族の分析と、自伝で構成されています。ヨーロッパ中心主義に対する批判の書でもある本書は、驚きとともに話題となり、世界的なベストセラーになりました。

「私は旅や冒険が嫌いだ。それなのに、いま私はこうして自分の探検調査のことを語ろうとしている」との言葉から始まり、「私はそこに、もう人間だけしか見いださなかった」の言葉で終わる本書は、フランス現代思想を代表する名著とされています。

文化人類学の分野の本でありながら、紀行文や哲学思想としても楽しめる本書は、レヴィ=ストロース入門としておすすめです。日本では中公クラシックスの新書で発売されています。

『構造人類学』1958年

『構造人類学』により、構造主義人類学という新しい人類学をレヴィ=ストロースは示しました。本書では、未開社会の社会や宗教、神話や芸術の研究を構造分析によって示し、人類学や歴史学教育のあるべき姿についても考察しています。

『野生の思考』1962年

『野生の思考』がフランスで出版されると、たちまち世界的に話題となりました。本書は戦後のヨーロッパ思想を変える転機となった書物です。

レヴィ=ストロースは本書においてヨーロッパ近代の歴史と進歩の世界観を批判し、未開社会においても一定の秩序と構造が見いだせることを示し、野生の思考こそが人類の普遍的な思考だと主張しました。

人類学を数学的で科学的な定式を用いて論じた本書は、その後のフランスの思想家の数学や科学への志向に影響を与えました。

まとめ

クロード・レヴィ=ストロースは構造主義思想を打ち立て、ヨーロッパ近代の歴史意識を批判し、それによって創り上げられた西欧人のアイデンティティを覆しました。専門分野は人類学ですが、思想家や哲学者にも大きな影響を与えました。

人間の普遍的な思考だとする「野生の思考」は、行き詰まりをみせる現代の共同体を考える上で、読み解くべき思想として改めて注目されています。