「象徴主義」の特徴をわかりやすく解説!文学・絵画の作品も紹介

19世紀後半のフランスに起こった芸術の潮流「象徴主義」は、文学ではボードレール、絵画ではモローが代表に挙げられます。目には見えない人間の心理や観念を表現しようとした象徴派の芸術とはどのようなものなのでしょうか?

この記事では象徴主義とは何かについてと、代表的な文学や象徴詩、画家と絵画について解説します。

「象徴主義」とは?

「象徴主義」とは”内面的な世界を象徴的に表現”する芸術の潮流

「象徴主義」とは、19世紀後半のヨーロッパに台頭した芸術の潮流です。フランス語の「 symbolisme(サンボリスム)」が語源で、目には見えない人間の内面や観念などを象徴的に表現することを目指しました。

「象徴主義」は詩人ジャン・モレアスが提唱した”文学運動”から

象徴主義は文学の運動から始まり、詩人のジャン・モレアスが、「象徴主義宣言(Le Symbolisme )」(1886年)をフィガロ紙に掲載したことが始まりです。詩の暗示的・隠喩的な表現や、音楽性の重視を提案し、近代詩に影響を与えました。

美術においては、写実主義への反動として総合主義を確立した後期印象派のゴーギャンや、文学的な主題を好んだギュスターヴ・モローやルドンなどが展開しました。象徴主義の傾向は19世紀末のアール・ヌーボーなど、世紀末文化にも引き継がれました。

なお、象徴主義者を総称して「象徴派(仏: symbolistes)」と呼びます。

象徴主義の時代背景と特徴

19世紀後半は科学が急速に発達し、科学に対する信頼が増大して科学万能主義が台頭しました。同時に、人間の内面を解き明かそうとしたフロイトやユングが現れ、精神世界への関心が高まりました。

象徴主義はこのような背景の中、写実主義への反動と、目には見えない人間の内面への強い関心から生まれました。

象徴主義の特徴は、目には見えない精神的な世界を表現しようとしたことです。しかしその様式や主張に統一する定義はなく、象徴的な美学の態度を象徴主義と称します。

「象徴主義」の文学とは?

「ボードレール」の『悪の華』が象徴主義文学の起源

フランスの詩人シャルル=ピエール・ボードレール(1821年~1867年)の『悪の華』(1857年)は、象徴主義運動の起源とされ、フランスをはじめとする各国の詩人に大きな影響を与えました。また、ボードレールによるエドガー・アラン・ポーの作品のフランス語翻訳も象徴派の文学世界観の形成に大きく寄与しました。

『悪の華』で開かれた退廃的、耽美的、背教的な美学は、1860年代~70年代にはマラルメとヴェルレーヌ、ランボーによって広がりをみせました。

■参考記事
「ボードレール」の生涯と詩集『悪の華』とは?名言も紹介

象徴派を代表する詩人「マラルメ」と「ランボー」

ステファヌ・マラルメ(1842年~1898年)と、アルチュール・ランボー(1854年~1891年)は、19世紀のフランス象徴派の代表的詩人です。

マラルメの詩や散文はフランス文法から乖離した詩的なリズムを重視した難解さで知られています。ランボーは20代前半に詩作を放棄し、青春期のみずみずしい文体が20世紀の詩人に影響を与えました。

日本では「上田敏」が象徴詩の勃興に貢献

詩人の上田敏(うえだびん)(1874年~1916年)は、ボードレールら象徴派の詩を美しい日本語に訳して紹介し、日本の詩壇に改革をもたらしました。特に訳詩集『海潮音』(1905年(明治38年))が知られています。

上田敏の訳は北原白秋や萩原朔太郎に影響を与え、日本に象徴詩の潮流が生まれました。

「象徴主義」の画家と代表作品とは?

「ギュスターヴ・モロー」『サロメ』

モロー『サロメ』(1876年)
(出典:Wikimedia Commons User:Miniwark)

ギュスターヴ・モロー(1826年~1898年)はフランス象徴主義の代表的な画家です。神話や聖書、伝説から喚起される精神性をテーマにとった幻想的な作風が特徴です。

モローは、象徴主義芸術のヒロインである「サロメ」を繰り返し描きました。サロメは、舞踏の褒美として洗礼者ヨハネの首を求めた女性として伝えられています。象徴派の芸術家は、男性を破滅に追いやる危険な女性の象徴として文学や絵画の主題としてサロメを扱いました。

モローの幻想的な絵画は、世紀末の芸術家たちに大きな影響を与えました。

「オディロン・ルドン」の石版画

ルドン『眼=気球』(1878年)
(出典:Wikimedia Commons User:Cacophony)

オディロン・ルドン(1840年~1916年)は印象派と同時代の画家でしたが、印象派の色彩や日常的なテーマに背を向け、モノクロームの幻想的な石版画を制作しました。ルドンは心に浮かぶ幻想を現実のものとして描き出すことに没頭し、眼球や浮遊する頭部などを繰り返し描きました。

「ゴーギャン」の総合主義の絵画

ゴーギャンが確立した総合主義の絵画は、クロワゾン(輪郭線)を用いた単純化された形態・色彩と、現実の世界と内なる世界を統合させた様式で、象徴主義の中に位置づけられます。ゴーギャンはルドンとも親しく、ルドンの幻想的な世界に惹かれ、影響も受けていました。

■参考記事
「ゴーギャン」とは?ゴッホとの関係やタヒチを描いた代表作品も

まとめ

「象徴主義」は、19世紀後半のヨーロッパに起こった芸術の潮流です。目には見えない人間の心理や観念を象徴的に表現することを目指しました。

「ボードレール」の『悪の華』が象徴主義文学の起源とされ、絵画では幻想的な絵を描いたモローやルドンが象徴派の代表です。

象徴主義は写実主義(レアリスム)や印象主義の流れに対する反動や、科学を万能だとする当時の社会に対する批判から生まれました。

象徴主義はフランスに始まり、ドイツ、ベルギー、オランダなどヨーロッパ全体に広がりました。日本においては、上田敏の翻訳によって明治時代に象徴詩が勃興しました。