「エドワード・ホッパー」は20世紀アメリカ絵画を代表する画家です。物語性を感じる孤独なアメリカン・シーンを描き、独特なリアリズムが人気です。この記事では、ホッパーとはどのような画家なのかを時代背景を交えて解説します。あわせて『ナイトホークス』などの代表作品も紹介します。
「エドワード・ホッパー」とは?
ホッパーのポートレート
(出典:Wikimedia Commons User:Den1980-)
「エドワード・ホッパー」とは20世紀アメリカを代表する画家
エドワード・ホッパー(Edward Hopper、1882年~1967年)とは、20世紀アメリカを代表する画家の一人です。映画の一場面を切り取ったような物語性のある作風で知られ、アメリカの市民生活の情景をメランコリックに描きました。
ホッパーは1920年代から歴史としてのアメリカを記録しはじめ、生涯にわたって20年代および30年代のアメリカの面影を写し取ることに専心しました。アメリカの家、オフィス、レストラン、ガソリンスタンド、そして都会の中で静かに絶望しているアメリカ人などを描き、「アメリカン・シーン(※後述)」の画家と呼ばれました。
20世紀モダニズム・アートシーンで活躍した「ロバート・ヘンリー」に師事
ホッパーは1882年、ニューヨーク州ナイアックに生まれました。ニューヨークの美術学校でイラストレーションを学び、その後ニューヨーク美術学校でロバート・ヘンリー(1865年~1929年)に教えを受け、影響を受けました。
ロバート・ヘンリーはパリで学び、マネやドガなどから影響を受け、近代的なモチーフである都市の情景や市民生活に密着したリアアリズム絵画の旗手です。
1923年に刊行した芸術指南書『アート・スピリット』は、アメリカをはじめとする世界の芸術家に読み継がれたロング・セラーで、デイヴィッド・リンチやキース・へリングも大きな影響を受けました。
「エドワード・ホッパー」の作品に通ずる時代背景
大恐慌時代のアメリカを背景としたリアリズムを追求
1929年のニューヨーク株式市場の株価大暴落を発端としてアメリカは大恐慌となり、30年代を通じて経済は沈滞しました。ホッパーはその時代のアメリカに独自のシーンを発見し、他に真似のできないリアリズムのスタイルを構築しました。
ホッパーの絵画には時間が止まったかのような静けさと、孤独感や郷愁感が満ちています。その作風の背景には、アメリカの暗い時代の影が反映されていました。
経済的不況の中で生まれた「アメリカン・シーン」
ヘンリー・ジェームズのエッセイ集『アメリカン・シーン』(1907年)にちなむとされる「アメリカン・シーン」という言葉は、絵画においては大恐慌と不況時代を背景にした情景を描くスタイルを指します。かつてない経済的な不況の中で、祖国アメリカの日常のリアリズムを見つめる動きが生まれ、一つの形式となりました。
「アメリカン・シーン」を描く代表的な画家としてホッパーが挙げられ、他にレジナルド・マーシュやラファエル・ソイヤー、そしてホッパーと同じくロバート・ヘンリーに学んだ日本人画家の国吉康雄がいます。
「エドワード・ホッパー」の作品を紹介
アメリカの歴史を主題にし始めた初期の作品『線路脇の家』(1925年)
『線路わきの家』は、ホッパーが歴史としてのアメリカを絵に記録しはじめた最初の頃の作品です。画面の前面にまっすぐな線路が描かれ、その奥に当時流行していたヨーロッパスタイルの瀟洒な館がそびえています。置き去りにされたような建物にかかる影と無機質な線路が、不安とメランコリーを感じさせます。
『線路わきの家』は、ヒッチコック監督のサスペンス映画の傑作『サイコ』に登場する家のモデルとなったことでも知られています。
物語が始まりそうな『日曜日の早朝』(1930年)
『日曜日の早朝』(1930年)は、何かの物語が始まりそうな予感を感じさせる絵です。1階が店舗で2階が住居となる連続した建物の正面を描いていますが、建物の前に描かれた消火栓と理髪店のサインポールから伸びる長い影が、朝の光を感じさせています。人の不在と、サインポールの傾きが、孤独と不安を呼び起こすようです。
都会の孤独を描いた『ナイトホークス』(1942年)
(出典:Wikimedia Commons User:Canoe1967)
ホッパーは自らの絵について語ることはあまりありませんでしたが、『ナイトホークス(夜更かしの人々)』については創作の意図を語っています。この作品はグリニッジ街のレストランから着想を得て、夜の街路についての情景を描いたもので、無意識に大都会の孤独を描いたものだといいます。
外にもれる光のゆらめきや、お互いに会話のない男女や離れたところに座る男の距離感などから、日常的な光景でありながら、都会の孤独と疎外感が感じられます。
『ナイトホークス』は映画や文学などアメリカの文化に数々の影響を与え、パロディ作品やポスターなどの複製品も多く作られてきました。
まとめ
エドワード・ホッパーは、アメリカの工業化が進んだ時代に都市に出現した孤独のリアリズムを追求し、独自のアメリカン・シーンを切り取りました。まるで映画の一場面のような物語性のある作風で知られ、現代においても人気の画家です。
アメリカの短編小説集『短編画廊 絵から生まれた17の物語』は、ホッパーの絵から紡いだ物語の短編集です。作家ローレンス・ブロックが、「ホッパーの作品は物語が語られるのを待っている」と考え、スティーヴン・キングなどのそうそうたる小説家たちに呼びかけ企画したものです。ホッパーの絵画18点が挿入されています。