近年、自然災害の増加や新型コロナウイルス感染症の影響などによって社会経済環境が大きく変化しています。生活困窮に陥り生活保護を受給する人や、住居を失ってホームレスになる人の増加も予測されます。
この記事では、住所のないホームレスの人と生活保護の関係について、法的な根拠や申請方法を解説します。
ホームレスは「生活保護」を申請できる?
居住地がないホームレスであっても生活保護は申請できる
「生活保護」は、資産や能力等を活用しても、最低限度の生活を維持できない国民全てが利用できる制度です。申請するにあたり、住所を有することとする要件はないため、ホームレスであっても保護の要件に欠けることはありません。
住民登録が無かったり税金を払っていなくても申請可能
住民登録をしていなかったり、税金を払っていなくても生活保護の申請をすることができます。
路上生活などを余儀なくされている人は、住民登録が無かったり、また住所がないことから税金を支払っていない人がほとんどです。そのことを根拠に生活保護を受けられないということはありません。
生活保護において、住民登録の有無は適用の要件となっていないことに加え、そもそも税金を支払えないほどに困窮している場合は生活保護の対象となります。
ホームレスに「生活保護」が適用される法的根拠とは?
憲法に国民の「生存権」が保障されている
「生活保護」は、国民の生存権を国が最終的に保障する制度です。そのことから「最後のセーフティネット」「最後の受け皿」と呼ばれます。最低限度の生活ができないほどに困窮した場合、日本人であれば誰もが生活保護によって必要な給付を受けることができます。
その根拠として、国は国民に、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を憲法第25条で保障しています。これは「生存権」と呼ばれ、国民の基本的人権のひとつです。
日本国憲法 第25条
第1項 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
「生活保護法」により「最低限度の生活」が保障されている
憲法によって保障される生存権を具現化する制度が「生活保護法」です。基本原理の一つに、最低生活保障の原理があります。国家責任により、困窮する全ての国民にその困窮の程度に応じ必要な保護を行い、最低限度の生活を保障することが定められています。
最低限度の生活を保障することとともに、自立を助長することも目的とされており、住居のないホームレスに対しては、居住環境への支援も行われます。
生活保護法(この法律の目的)
第一条 この法律は、日本国憲法第二十五条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。生活保護法(最低生活)
第三条 この法律により保障される最低限度の生活は、健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならない。
「無差別平等」に保護を受ける権利も保障されている
生活保護は、生活が困窮する状態にあり、法の定める要件を満たす限り無差別平等に受けることができると規定されています。生活保護を請求する権利は国民に平等に保障されています。
生活保護法(無差別平等)
第二条 すべて国民は、この法律の定める要件を満たす限り、この法律による保護(以下「保護」という。)を、無差別平等に受けることができる。
ホームレスが「生活保護」を受けるには?
住居がない場合でも「現在地主義」により申請できる
定まった住居がなく、ネットカフェや公園などを拠点としている人や路上生活をする人は、近くの福祉事務所や市町村役場内の福祉窓口に保護の申請をすることができます。
また、緊急の事態等により保護された場合には、その地域を管理する福祉事務所あるいは市町村を「現在地」として申請できます。これらの対応を「現在地主義」といいます。
つまり、当該自治体への住民登録や居住の実態は保護の申請において問われることはありません。
生活保護の申請手順
生活保護には「申請保護の原則」があり、要保護者、その扶養義務者又はその他の同居の親族の申請に基づく申請主義をとっています。つまり、自ら申請しなければ、保護を受けることはできません。
ただし、要保護者が急迫した状態のときには、申請がなくても必要な保護を行うことができると法に定められています。保護申請の手順は以下の記事にまとめています。
生活保護の申請手順とは?申請後の条件調査や必要書類・問題点も
生活保護の他にもある「ホームレス」に対する国の支援
居住場所等を確保する支援を行う「生活困窮者自立支援法」
生活保護を受給している人以外の、生活に困窮する人を包括的に援助するための法律「生活困窮者自立支援法(略して困窮者支援法)」が平成25年に施行されました。ホームレスやホームレスとなることを余儀なくされる恐れのある人も対象です。
この法律に基づき、生活困窮者のための「自立支援相談事業」や、「住宅確保給付金」の給付、「一時生活支援事業」等が実施されています。「自立支援事業」と「住宅確保給付金」の支給は、福祉事務所を設置する全ての自治体が必ず実施することとされています。
ホームレスの人に対しては、生活保護が必要となる場合は確実に生活保護につなげ、保護費の受給や住居が確保できるまでの間、困窮者支援法による早期の支援を行うものとされています。
つまり「生活困窮者自立支援法」と「生活保護法」に基づく事業は密接に連携し、切れ目のない支援を提供することを目指しています。
「生活困窮者一時宿泊施設」で一時的な宿泊場所を提供する支援
困窮者支援法における「一時生活支援事業」により、ホームレスに対して緊急一時的な宿泊場所を提供する支援施設「生活困窮者一時宿泊施設」の運営が行われています。緊急一時的な宿泊施設は「シェルター」の呼称で呼ばれます。
平成30年4月時点で、19の自治体がシェルター施設を設置し、216自治体がアパートなどを借り上げる方式でシェルターを運営しています。
まとめ
ホームレスと生活保護の関係について解説しました。社会経済環境が大きく変化する現在、自分や身近な人やホームレスや生活保護に直面する可能性は無いとは言えません。
生活保護は国民の誰もが利用できる最後のセーフティネットです。また、生活保護を受給する前の生活困窮者に対しても、生活困窮者自立支援法に基づくさまざまな支援事業が福祉事務所において実施されています。
社会保障・福祉に関する法律や施策は常に変化しているため、日頃から積極的に情報収集してゆくことが大切です。