生活保護の申請手順とは?申請後の条件調査や必要書類・問題点も

「生活保護」はいつもの日常からは遠い存在に感じますが、いざというときには誰もが利用できる大切な公的扶助です。数ある社会保障制度の中でも、救済を目的とする最後のセーフティネットです。

この記事では、生活保護を受給するために行う申請の手順やその流れについて解説します。公的制度の基礎知識を蓄えておきましょう。

「生活保護」の申請手順は?

①福祉事務所に事前相談する

生活保護を受けたいと思ったら、福祉事務所の窓口に相談に行くことが初めの一歩です。窓口では、ケースワーカーが生活保護制度の説明や、生活保護のほかにも利用することが可能な各種社会保障などについて検討を行ってくれます。

生活保護は、相談、申請、調査、決定の流れで進められます。自分で必要書類を用意して、いきなり申請に訪れるというわけではなく、事前相談が必要です。

生活保護の運営事務は、福祉事務所が国から委託されて行っています。生活保護についての相談や申請の窓口は、居住している地域を管轄する福祉事務所の生活保護担当窓口となります。福祉事務所を設置していない町村については町村役場の福祉担当課が窓口です。

②保護の申請手続きを行う

生活保護を受ける権利は、すべての国民(一部外国人も適用)に無差別平等に与えられた権利です。また、申請する権利も国が保障しています。つまり、日本国民であれば誰もが生活保護の申請を行うことができます。

住民票の登録住所に関係なく、居住している地域の福祉事務所や役場で申請することができます。住民票のないホームレスの人も同様です。

ただし、前に説明したとおり、明らかに受給の要件を欠くことが明確な場合は、合理的見地から申請が受け付けられないことが一般的です。

③保護の「条件」を満たすかどうかの調査が行われる

窓口で生活保護の申請を行うと、保護を決定するためにケースワーカーが調査を行います。調査は、「その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる」と定めた生活保護法に基づいて行われます。

具体的な調査の内容は次の通りです。

調査の内容
  • 生活状況等を把握するための実地調査(家庭訪問等)
  • 預貯金、保険、不動産等の資産調査
  • 扶養義務者による扶養(仕送り等の援助)の可否の調査
  • 年金等の社会保障給付、就労収入等の調査
  • 就労の可能性の調査

(厚生労働省資料より抜粋)

上記のとおり、生活保護は、利用できる資産や能力、その他あらゆるものを活用しても、それでも最低限度の生活が維持できない状態であるときに保護が必要と判断され、その不足分を補う額が給付される仕組みです。

■生活保護受給の条件について詳しくは以下の記事をご覧ください。
「生活保護受給」の条件とは?申請時の条件や打ち切りについても

④調査後、保護費が毎月前払いで支給される

調査の結果、保護が決定されると保護費が毎月前払いで支給されます。原則として毎月5日にその月の保護費が指定した金融機関に振り込まれます。

保護費は、厚生労働大臣が定める基準に基づいて計算される最低生活費から世帯の収入を引いた金額です。就労によって得た給与や年金、各種手当などが収入にあたります。生活保護受給中は毎月の収入を福祉事務所に申告し、変動があった場合は見直しが行われます。

また、被保護世帯の状況を把握するため、福祉事務所のケースワーカーが定期的に訪問調査を行います。被保護者は生活状況を報告する義務があります。

さらに、生活保護は生活困窮者の困窮の程度に応じて必要な保護を行い、健康で文化的な最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長するための制度であるため、自立・就労に向けてのアドバイスも行われます。

■生活保護費の金額について詳しくは以下の記事をご覧ください。
「生活保護費」の金額はいくら?計算方法や内訳・加算金も解説

扶養義務者と同居の親族による「代理申請」も可能

本人が何らかの事情により保護の申請に出向くことができない場合は、その扶養義務者、その他同居の親族が代理申請を行うことができます。

原則として上記以外の人は申請することができませんが、保護を必要とする人が差し迫った状態にある場合、例えばホームレス状態にあって急迫に保護が必要な場合等は、申請がなくても職権保護がなされます。

また、身寄りのない高齢者で自力での申請が困難な人等は、弁護士に申請の援助を依頼することができます。しかしあくまでも申請は本人が行い、保護の開始時や開始後の変更などの申請について援助を依頼するものです。また、福祉活動を行っているNPO法人などに申請時に付き添ってもらうこともできます。

生活保護申請時に必要な書類は?

必要な書類は申請時に渡される

生活保護の申請には、事前相談が必要です。相談の結果、生活保護を受給しなければ最低限度の生活が維持できないと判断されると、申請に必要な書類が手渡されます。

書類は、保護申請書のほかに収入申告書、資産申告書等があります。申請書と申告書等を記入して申請を行います。申請時には自ら用意する書類は必要ありませんが、申請後の調査において、通帳の写しや給与明細などの提出が求められる場合があります。

また、相談時に必須ではありませんが、前に説明した「調査の内容(世帯全体の預貯金、保険、不動産等の資産や収入等)」についてや、困っている状況について、できる範囲でまとめて持参すると相談がスムーズに行えます。

申請をしてから受給決定までの「期間(日数)」は?

申請した日から14日以内に通知される

生活保護の申請を行うと生活状況や資産等の調査が行われます。生活保護を受給できるか、もしくはできないかについては、申請した日から原則14日以内に決定し、通知することが生活保護法で定められています。

ただし、調査に時間を要する特別な理由が生じた場合は回答日が延長されますが、最長で30日以内であり、あくまでも特例です。

保護の申請をしてから受給開始までの生活費がないなど生活が成り立たない場合は、生活困窮者自立支援制度による生活支援や、福祉事務所における緊急払い、社会福祉協議会のつなぎ資金の貸付等が利用できます。

生活保護申請における留意点

生活保護の申請については、さまざまな問題点や整理が難しい問題等があります。そのうちのいくつかを紹介します。

水際作戦の問題

生活保護費は、国が3/4、地方自治体が1/4を負担しています。そのため、自治体にとっては生活保護受給者が増えると財政に影響を与えることから、被保護者は増やしたくないのが本音です。

そこで問題となるのがいわゆる「水際作戦」と呼ばれるもので、申請をさせない、あるいは申請書を受理しないといったことが起こる場合があります。前に説明したとおり、生活保護申請は誰でも行うことができる国民の権利であるため、水際作戦は違法となります。

しかし、明らかに保護の要件を満たしていない場合は申請を拒否されることも手続きの流れ上、妥当であるともいえます。窓口で相談を行う際には、相談者も生活保護制度について理解していることが無用なトラブルを避けるためにも必要だといえます。

扶養義務者による扶養の義務の問題

生活保護は、扶養義務者による扶養が保護に優先されます。扶養義務者とは、民法で定められた3親等以内の親族(3親等内の親族:夫婦・親・子・兄弟姉妹・祖父母・孫等)を指します。

つまり、扶養義務のある親族がいる場合は、まず援助や仕送りを受けることが求められるため、ケースワーカーは扶養義務者に対して連絡を行います。しかし親族に連絡されることを嫌がり、保護の申請を断念する人も多いようです。

ただし、扶養能力のある親族がいれば保護を受けられないということではありません。福祉事務所や本人から支援を求めても、親族が断った場合はその結果が受理されます。扶養はあくまでも義務であるため、強制することはできないからです。

親族からの扶養の要件は、親族間の人間関係に踏み込むことになるため、整理が難しい問題であるといえます。

不正受給の問題

生活保護は、最後のセーフティネットと呼ばれるように、生活に困窮し、保護を必要とする人を最後に受け止める公的扶助です。

どのくらい生活に困窮しているかは、ケースワーカーが調査を行いますが、保護を必要とするかのように偽って不正受給しようとする人もいます。

不正受給を行って発覚すると、受給額を返還する際に上乗せがされることもあり、また刑罰を受ける可能性もあります。不正受給防止のため、福祉事務所の調査権限が拡大されたり、罰則が強化されるなどの改正も行われています。

まとめ

生活保護は、申請を行わなければ受給することはできません。何らかの事情で生活に困窮する状況となった場合は、まず保護を受けたいと自らが行動を起こすことが必要です。

生活保護制度は、国が国民を救済するための公的扶助であり、すべての国民に平等に権利が与えられています。申請の際や申請後に資力調査等が行われますが、貧困に至った理由が問われることはありません。