2021年1月核兵器禁止条約の発効を受け、日本が当条約に「批准」を認めないことが大きく報道されました。この条約における「批准」とは具体的にどうすることを意味するのでしょう。その使い方をはじめ、「締結」や「署名」「加入」など条約にまつわるその他の単語との違いについて解説します。
「批准」とは?
「批准」の意味は”条約への最終確認・同意”
「批准」の意味は、“すでに内容が確定している条約に対し、国が条約を最終確認し、承認・同意すること”です。端的に言うと「その条約に我が国も同意し、条約の規定を守ります」と意思表示をするのが「批准」です。
日本における「批准」は内閣が行う
条約の「批准」は、日本では国会の承認と天皇の認証を受け、内閣が行うきまりです。「全権委員(政府を代表して条約に署名・調印する権限を持つ者)」が署名した条約を持ち帰り、国内での承認・批准が行われます。
なお、すべての条約に「批准」が必要というわけではなく、政治的な重要性や国内の法律との関係性によって「批准」のプロセスが用いられるかどうかは変わってきます。
「批准」の読み方は”ひじゅん”、漢字にも注意
「批准」の読み方は“ひじゅん”です。「批准」の「批」には”主権者が承認する”という意味が、「准」には”ゆるす”という意味があります。この「ジュン」の字を「準」と書く例がありますが、それは誤りです。漢字にも気を付けましょう。
「批准」の使い方と例文とは?
国家の条約確認に対して「批准する」「批准した」と使う
「批准」は国家が条約を確認し、最終的に同意を示した場合に「批准する(した)」、同意に至らなかった場合に「批准しない(しなかった)」の表現で用いられます。条約に特化した表現であるため、日常生活で用いるというよりはニュースというで見聞きすることが多いでしょう。
- 今日、日本も正式に批准するとの報道があった。
- 日本も批准すべきだとの声が多数あがっている。
- A国はその条約には批准していないはずだ。
- 最終的に批准しなかったらしい。
「批准書交換」によって条約の効力が生じる
「批准」に際しては、「批准書交換」が行われます。この「批准書」とは、「批准」を証明するための外交文書で条約の記載など一定の形式があります。2国間における条約の場合は、相手国と「批准書」を交換することで条約は効力を発効されますが、多国間の場合は会議開催国の政府あるいは国際機関などの寄託者に「批准書」を寄託することで条約が発効します。
「批准」と「署名・締結・加入」との違いとは?
「署名」とは”氏名を自著すること”を意味する
「署名」とは”自分の氏名を自分で書くこと”という意味です。条約に限らず、日常生活でも記載内容に同意したことを示す場合に「署名」が求めらることもあります。また、Eメール送信時に自分の所属や連絡先等を末尾に記すこと(記したもの)も「署名」と呼ばれます。
条約における「署名」は、その内容が確定した際に作成にかかわった当事国の代表(全権委員)が記名することを指します。「調印」や「記名」とも同義です。この「署名」を行った後は内容の修正はできないため、一般には「条約の内容に賛成した」という意志表示とみなされます。
これに対し、「批准」は全権員が持ち帰った条約を国家が確認し、国家として正式に条約に同意することを意味します。この「批准」によってはじめて、その条約は国内でも発動されることになるのです。
「加入」とは”条約を受け入れること”を意味する
「加入」とは”条約を受け入れること”を意味します。「批准」と同様に、”条約に書かれた内容を守ります”と正式に宣言する行為です。この「加入」と「批准」の違いは、”署名の有無”です。「加入」の場合、条約への「署名」手続きは省略される点が「批准」との相違点です。
「加入」と「批准」のいずれもその効力は同じです。しかし、実際に条約参加までには国内での法整備など時間がかかることが懸念される場合には「署名・批准」のプロセスを経ることが多いでしょう。条約の効力を発生させる前に「署名」という形で賛成の意思表示ができるからです。条約に対する意思表示を早くするための2段階手続きともいうことができます。
「締結」は”条約を取り決めること、条約参加を確定させること”
「締結」とは、”契約または条約を取り決めること”という意味です。ビジネスシーンにおける契約でも「締結」というワードは用いられるため、身近に感じる人も多いでしょう。条約においては、”条約を取り決めること、条約への参加を確定させること”を指して「締結」といいます。
「批准」など他のワードとの違いは、「締結」はすべての手続きをまとめた単語である点です。「署名・批准」などの工程をすべて済ませた状態が「締結」です。
「批准」の類語・対義語とは?
似た意味の表現は「調印・承認」
「批准」と似た意味を持つ表現では「調印」や「承認」が挙げられます。
条約に関して「調印」という場合、内容が確定した後に代表者が署名することを意味します。また「承認」とは”正当な事実であること、内容が正当であることを認める”という意味です。
「批准」と反対の意味の言葉とは
「批准」には明確な対義語はなく、「批准」と反対の意味を表現したい場合には「批准しない・批准していない」とすることが多いでしょう。また、同様のニュアンスでは「批准を見送る・批准は認めない」などの言い回しで表現されることもあります。
- 日本はいまだ、条約を批准していない。
- 今国会では批准を見送った。
- A国は批准を認めなかった。
「批准」の英語表現とは?
「批准」は英語では”ratification”
「批准」は英語では“ratification”の単語が用いられます。「ratification」には”批准”のほか”承認、裁可”などの意味があります。動詞は「ratify」です。
- ratification of a treaty(条約の批准)
- ratification of a peace treaty(平和条約の批准)
- ratification of the nuclear non-proliferation treaty(核拡散防止条約の批准)
まとめ
「批准」とは、内容が確定した条約を国家が確認・同意し、正式に参加の意思表明を行うことを意味します。「署名」によって条約の内容を確定・賛同し、「批准」によって正式に参加が決定する、という2段階のプロセスを経る場合に用いる表現で、この場合、「批准」をもって条約が効力を発動します。ただし、すべての条約に「批准」の手続きが取られるわけではなく、政治的重要性などから判断されます。