インド哲学のおすすめ本4選!インド哲学や釈迦についても解説

「インド哲学」は難解ですが、入門するにはヴェーダ思想の『ウパニシャッド』とヒンズー叙事詩の『バガヴァッド・ギーター』から始めるのをおすすめします。ここではその思想の背景と、インド哲学に含まれる原始仏教やその始祖「釈迦」についての概要を解説します。

「インド哲学」とは?

「インド哲学」は古代インドを起源とした哲学・思想のこと

インド哲学とは、古代インドを起源とし、インドを中心に発達した哲学や思想のことです。狭義では、「釈迦」の思想や、原始仏教の展開も含めます。

※原始仏教(初期仏教)とは、後に展開した大乗仏教に対して、初期の仏教のことをいいます。
※大乗仏教とは、自分のみの悟りのためではなく、人々を理想世界に運ぶ大きな乗物という意味で、みずからの立場を大乗仏教と呼ぶものです。従来の釈迦の言行の伝承を中心とした原始仏教を小乗仏教と貶称しましたが、現在は上座部仏教、部派仏教と改められています。

「ヴェーダ思想」がインド哲学の始まり

紀元前1500年ごろ、インド西方に侵入したアーリア人が『ヴェーダ』と総称される古代インド最古の文献を編さんしました。ヴェーダとは「知識」の意味があり、バラモン教の聖典でもあります。この「ヴェーダ思想」からインド哲学が発展してゆきました。

※「バラモン」とは指導者の地位を占める支配階級のことです。バラモンは神々と通じる特別な力を持ち、「人間である神」として尊敬される存在でした。

インド哲学の基となったのは「ヴェーダ思想」

「ウパニシャッド」からインド哲学が発展する

ヴェーダの文献は次の4部で構成されます。

  • サンヒター(本集):祭式のためのマントラ(讃歌、祭詞、呪詞)集。
  • ブラーフマナ(祭儀書):祭式の手順や神話と結びつけた意味を説明した書。
  • アーラニヤカ(森林書):人里離れた森林で説かれる秘技とされ、祭式の哲学的な説明書。
  • ウパニシャッド(奥義書):神秘思想を集めた奥義書。

このうちの神秘思想を集めた「ウパニシャッド」からインド哲学が発展してゆきます。

ちなみに、日本でもポピュラーなインドの伝統医学「アーユルヴェーダ」は「ウパニシャッド」から発展したものです。

『リグ・ヴェーダ』がインド・ヨーロッパ人の持つ最古の文献

上述した「サンヒター」の本集は4種類あり、狭義のヴェーダとして呼ばれます。『リグ・ヴェーダ(賛歌)』、『サーマ・ヴェーダ(賛歌の旋律)』、『ヤジュル・ヴェーダ(祭詩)』、『アタルヴァ・ヴェーダ(呪句)』です。

そのうち、『リグ・ヴェーダ』はインド・ヨーロッパ人の持つ最古の文献で、アーリヤ人の神々への賛歌が集められたものです。

リグ・ヴェーダでもっとも多く崇拝された神は「インドラ神」という武勇神です。やがてこの神は仏教に取り入れられ「帝釈天(たいしゃくてん)」となり、仏法守護の神として日本でも拝まれています。

また、「女神サラスヴァティー」も仏教を通じて日本に来て「弁才天(べんざいてん)」となりました。この神は湖沼の神であるため、弁才天の社は水辺にあるのだということです。

ヴェーダ思想の特徴は「梵我一如」

ヴェーダの究極の悟りとされるのが「梵我一如(ぼんがいちにょ)」です。「梵(ブラフマン)」とは宇宙を支配する原理のことで、「我(アートマン)」とは個人を支配する原理のことです。この両者が同一であるとする思想のことを「梵我一如」といいます。

そして、その真理を知ることによって、全ての苦悩から逃れて「解脱」に達することができるとされます。それはすなわち輪廻の業(ごう)が終わることを意味します。この輪廻と業の死生観は、バラモン教に対抗する二つの宗教として、次の時代に仏教を誕生させることになります。

ヴェーダ思想の「バラモン教」が「ヒンズー教」に発展する

紀元前6世紀ごろから、ヴェーダ思想のバラモン教と対立して仏教が生まれます。その中でバラモン教は、ヒンズー教へと展開してゆきます。ヒンズー教はバラモン教の教えを受け継ぎながら土着の神々などを徐々に吸収しながら、形成されていった多神教です。

ヒンズー教はヴェーダ思想のバラモン教が発展した思想のことをいいます。ヒンズー教の最高神はシヴァとヴィシュヌで、聖典には『マハーバーラタ』『ラーマーヤナ』『プラーナ』などがあります。また、ヒンズー教の目的は輪廻からの解脱です。

日本の「吉祥天女」は、ヒンズー教の女神であるラクシュミーが仏教に取り入れられ、日本に伝わったものです。

「釈迦」とは?

「釈迦」が生まれ、「原始仏教」が出現する

紀元前500年ごろ、ネパールの奥地にあった釈迦族の住む小国の王子として「ゴータマ・シッダールタ」が生まれます。釈迦族の王子であったことから「釈迦(しゃか)」と呼ばれます。のちに「真理を悟った人」の意味で「仏陀(ブッダ)」と呼ばれるようになります。

シッダールタは恵まれた世俗の生活を捨てて出家し、修行の道に入ります。苦行の末に菩提樹の下で悟りを開き、諸国を周遊しながら説法を行い、80年の生涯を閉じます。

シッダールタ自身は書物を残しませんでしたが、弟子たちがのちにシッダールタの言行をまとめ、これらが仏教の経典となり、中国を経て日本に伝わったのです。

釈迦はヴェーダ聖典から離れ、人の生きる道を説いた

釈迦は当時の人々が信仰していたヴェーダ聖典やヒンズー教、そしてそれらの神々の意義を認めず、形而上学的な議論には加わらない立場でした。釈迦はこの世を苦しみの世界として、そこからいかに脱するかを説きました。

釈迦は人間のあらゆる苦しみを8つに分類します。「生(しょう)」「老」「病」「死」の四苦に、「愛別離苦」「怨憎会(おんぞうえ)苦」「求不得(ぐふとく)苦」「五陰盛(ごおんじょう)苦」の四苦です。これは「四苦八苦」の語源となっています。

人間の内面の深い問題から出発し、自由な思索を行ったのが釈迦で、そのような修行者を「沙門(しゃもん)」(サンスクリット語でシュラマナを音写した言葉)といいます。

釈迦の死後に原始仏教経典が成立する

釈迦の死後、弟子たちによってその教えがインド全体およびアジア諸国に広がります。その過程でさまざまな経典が作られました。

聖典には大きく分けて「経・律・論」の3種類があり、「経」は釈迦の言葉を記したもの、「律」は教団の規定を記したもの、「論」は教えを整理分類したものです。これらをまとめて「三蔵」といい、日本でもなじみのある言葉「三蔵法師」とは、三蔵に通じている高僧のことを指す言葉です。

「経」の中では『スッタニパータ』が最も古い経典です。その第四章が漢訳の『大蔵経』に収められています。また「経」の『ダンマパダ』は漢訳の『法句経』に相当します。

大学や大学院などで使える!「インド哲学」の入門としておすすめの本

古代インド哲学の入門書

インド古典で最も読まれているのが『バガヴァッド・ギーター』です。「神の歌」という意味で、人間のあるべき姿や生き方が説かれています。ヒンズー教の叙事詩『マハーバーラタ』の一部として収められています。

『ウパニシャッド』とは、古代インド哲学書の総称です。宇宙の根本原理や輪廻転生などインドの精神文化の源泉が著されています。インド哲学を知る上での基本となる書です。

(講談社学術文庫)

原始仏教経典の入門書

原始仏教の入門書としておすすめなのが『ブッダのことば―スッタニパータ 』です。

『スッタニパータ』は仏教経典のうちでもっとも古いものです。人間として生きる道を釈迦と弟子の対話形式で表されています。

『ブッダの真理のことば・感興のことば』には『ダンマパダ』と『ウダーナヴァルガ』が収められています。『ダンマパダ』は「真理のことば」という意味で、漢訳では『法句経』として知られています。人のあるべき姿について釈迦の言葉が簡潔な句で表されています。

まとめ

「インド哲学」はバラモン教としてくくられる「ヴェーダ思想」が源となって発展しました。そこからヒンズー教が興り、ヴェーダ思想やヒンズー思想が人々に浸透している中で、「釈迦」の説いた原始仏教の教えがインド全体に広まり、やがてアジア諸国へ、そして日本にも伝わってゆきます。

それらの古代インド哲学がもととなって仏教が発展してゆき、日本人の思想にも大きな影響を与えています。日本人の思想の源泉を探ろうとするとき、古代インド哲学の中にそのヒントをみつけることができます。入門にはまず原典の翻訳に触れてみることをおすすめします。