「デモクリトス」の思想「原子(アトム)論」とは?名言も紹介

「デモクリトス」は「原子(アトム/アトモン)論」を説いた古代ギリシャの哲学者です。近代の物理学にも影響を与えたデモクリトスの思想とはどのようなものなのでしょうか?ここではデモクリトスについての概要と、その思想について解説するとともに、名言も紹介します。

「デモクリトス」とは?

まずはじめにデモクリトス(紀元前460年頃~370年頃)について紹介します。

デモクリトスは「ソクラテス以前」の哲学者

デモクリトスとは、古代ギリシャの哲学者です。エーゲ海北岸に位置するイオニア人の植民地アブデラに生まれました。ソクラテスと同時代に生きましたが、ソクラテスからの影響は受けていないため、その慣例としてソクラテス以前の哲学者に分類されます。

デモクリトスは「笑う哲学者」とも呼ばれ、彼の快活な性格と倫理観を反映しているとされ、ほぼ同時代に活躍したヘラクレイトス(紀元前540年頃~480年頃)が「暗い人」「闇の人」と呼ばれたのとは対照的です。

デモクリトスは倫理学、自然学、数学などさまざまな分野で著作を残したとされますが、完全なまま伝わるものはなく、3百ほどの断片が残るのみです。その残った断片のほとんどは倫理学に関するものとなっています。デモクリトスの言葉は、のちほど紹介します。

「プラトン」がデモクリトスを無視するのは謎

プラトンの対話篇にはソクラテスをはじめとする同時代の哲学者が多数登場し、議論を行いますが、デモクリトスは一度も登場しません。デモクリトスは、後代のエピクロス派や近世の物理学にも大きな影響を与え、古代ギリシャにおいての唯物論を原子論によって完成させるなど、影響力の大きな哲学者であるため、謎の一つとなっています。

そのことから、プラトンはデモクリトスをライバル視していて、著書を全て焼き払ったという逸話まで伝わっていますが、真偽のほどは不明です。

「デモクリトス」の思想とは?

次にデモクリトスの思想について紹介します。

デモクリトスは「原子(アトム)論」を完成させた

デモクリトスは師であるレウキッポスの原子論を完成させたとされています。原子論とは、目には見えず、それ以上分割できない「原子(アトム/アトモン)」が、無限の「空虚(ケノン)」の中に運動しながら、世界が成り立つとする説です。

デモクリトスはエレア派の「あるものはどこまでもあり、あらぬものはどこまでもあらぬ」とする探求から出発しますが、「あるもの」として実体のみならず、「空虚」もあるものとして考えました。

「あらぬものは、あるものにすこしも劣らずある」とデモクリトスは述べています。

また、原子論では、感覚や意識は単なる原子の配列であるとしてその実在を認めませんでした。魂もまた原子によってできていると考え、万物を意味のない必然である原子が支配する法則であるとした唯物論的原子論は、それまでのギリシャ思想において新しい視点でした。

デモクリトスは「エピクロス」に影響を与えた

デモクリトスの、物体は原子から成り、物体は原子の運動や分離などにより変化するとした原子論は、エピクロス派を打ち立てたエピクロス(紀元前341年~270年)に受け継がれました。

また、魂(原子)の安定した状態を保つことが人生における幸福であり、目的であるとしたデモクリトスの倫理観は、エピクロス派の「平静な心(アタラクシア)」への探求につながってゆきました。エピクロス派は、快楽こそが善であり、人生の目的だとする快楽主義を提起した学派です。

なお、カール・マルクスは学位論文として「デモクリトスの自然哲学とエピクロスの自然哲学の差異」を執筆しており、その論文は筑摩書房の『マルクス・コレクションⅠ』に収められて刊行されています。

■参考記事

「エピクロス」の思想とは?「死」についての名言や言葉も紹介

デモクリトスは「自然哲学」に分類される

「自然哲学」とは、西洋哲学の起源とされるタレスが「万物の根源とは何か」という問いを立てて以来の、自然の体系や原理を探求する哲学のことをいいます。タレスのミレトス学派に始まり、デモクリトスまでの「ソクラテス以前」の哲学者と、ソクラテス以後のストア派やエピクロス派が自然哲学に一般的に分類されます。

タレスは「万物の根源は水である」と言い、アナクシマンドロスは「万物の起源は無限なものである」と言い、アナクシメネスは「万物の根源は空気である」と説きました。

哲学は万物の根源を考えることから始まり、デモクリトスは「万物は原子の結合と分離によって生成・変化・消滅する」と説いたのです。

「デモクリトス」の名言とは?

デモクリトスの名言を断片から紹介

デモクリトスの名言や言葉を断片から紹介します。

快と不快こそ、有益なものと無益なものを分ける境界線である。

医術は身体の病を癒し、知恵は魂をもろもろの煩悩から解放する。

人は、善き人であるか、善き人を見倣うか、そのいずれかでなければならない。

人々が幸福であるのは、身体によるものでも、財産によるものでもない。むしろ心の正しさと思慮深さによる。

下らぬ連中が非難しても、優れた人は意に介さない。

嫉妬深い人は、自分自身を、敵でもあるかのように苦しめる。

多くの人は、素質によってよりも、練習によって善きものとなる。

人の慣わしで甘さ、辛さ、温かさ、冷たさ、色。しかし真実にはアトムと空虚。

まとめ

デモクリトスの「原子論」とは、目には見えず、それ以上分割できない「原子(アトム/アトモン)」が、無限の「空虚(ケノン)」の中に運動しながら、世界が成り立つとする説です。古代ギリシャの、とりわけソクラテス以前の哲学者たちは、「~とは何か」を探求しました。

デモクリトスは、その原子論を倫理についても発展させ、魂や生き方についても深い探求を行い、エピクロスの自然思想につながるなど大きな影響を与えました。