「アリストテレス」の名言や著書を紹介!思想や形而上学も解説

「アリストテレス」の名前は知っていても、その思想や著作についてはあまり馴染みがない人が多いかもしれません。ところが、私たちが普通に用いる「実体」や「倫理」といった概念の枠組みを作ったのが万学の祖といわれる「アリストテレス」なのです。

ここではアリストテレスについて、その思想や著作、さらに名言などもあわせてその概要を紹介します。

「アリストテレス」とは?

まずはじめに「アリストテレス(紀元前384~322年)」について概要を説明します。

アリストテレスは「万学の祖」

アリストテレスとは、学問の基礎を築いたことから「万学の祖」と呼ばれた人物です。たとえば、政治学、文学、倫理学、論理学、自然科学など広範囲な学問領域を対象として研究しました。現在の私たちが学問の区分としている「自然学」や「倫理学」「政治学」などはアリストテレスによって枠組みがなされました。

アリストテレスは「プラトン」の弟子

アリストテレスは17歳から20年近く、プラトンの学園アカデメイアで学びました。プラトンは、対話による問答法を哲学探求の方法論としましたが、アリストテレスは演繹的に真実を探求する分析論を重視しました。また、プラトンの観念的イデア論に対して、現実に即したイデア論を展開しました。

アリストテレスは「アレクサンドロス大王」の師

アリストテレスはアカデメイアを去ってから遍歴の時代ののち、マケドニアの王に招かれ、王子アレクサンドロスの家庭教師となります。アレクサンドロスが王位を継ぐとアテナイに戻り、リュケイオンという学園を設立します。

アリストテレスの学派は「ペリパトス派(逍遥学派)」と呼ばれた

学園リュケイオンはアレクサンドロス大王の支援もあって栄えました。アリストテレスは弟子たちときままに歩きながら議論するのを好んだため、そぞろ歩きをする意味の「ペリパトス派(逍遥学派)」と呼ばれました。

「アリストテレス」の思想とは?

次にアリストテレスの思想のポイントを紹介します。

中庸

アリストテレスは「徳」は極端ではだめで、中間をめざすのがよい、と『ニコマコス倫理学』で言っています。例えば、恐れと平静の中間は「勇敢」という徳であり、恐れが極端になると「無謀」となり、平静が極端になると「臆病」となるということです。あるいは「卑下」と「虚飾」の中庸は「真実」として示されます。

「中庸」は「中間にあること」という意味のギリシャ語「メソテース、Mesotes」を儒教用語の「中庸」に訳したもので、両者の意味はほぼ同じであると考えられます。

倫理学/政治学

「どのように生きるべきか」という問いを「倫理学」として最初に明確に示したのはアリストテレスです。アリストテレスの倫理学がまとまって示されているのは著書『ニコマコス倫理学』においてですが、アリストテレス自身はその倫理学を政治学とも呼んでいます。個人の善い生き方や幸福を国家のあり方としてつなげて考えるのはソクラテスやプラトンに見られる態度ですが、アリストテレスもそれを継承しています。

存在論

アリストテレスは、存在についての問いを初めて体系化した最初の哲学者です。アリストテレスはプラトンのイデア論を受け継ぎますが、プラトンのイデアが現実世界を超越したものであるとしたことを批判しました。アリストテレスはイデアを現実世界のものであるとして、イデアを形相(エイドス)と質料(ヒュレー)に分類し、存在は形相と質料の合成物であると考えました。

■参考記事
「プラトン」の「イデア」とは?『国家』や「洞窟の比喩」も紹介

形而上学

アリストテレスのイデアの考えは「存在とは何か」を問う存在論となり、「第一哲学」と呼ばれましたが、のちに「形而上学」と訳されました。その思想は著書『形而上学』に著されています。

「アリストテレス」の「著作」を紹介

最後にアリストテレスの主要な著作を紹介します。

『ニコマコス倫理学』

アリストテレスは『ニコマコス倫理学』によって、初めて倫理学を確立しました。人々の人生の究極の目的は「よく生きること」であり、人間の活動が目指すのは「善」であるとして、その概念を分析して明らかにし、西洋の思想に大きな影響を与えました。ニコマコスとは、息子の名前だとされています。

『形而上学』

『形而上学』の原題の『メタフュシカ』は「自然学(フュシカ)の後に(メタ)あるもの」という意味で、のちに編まれた論文集の配列に由来するタイトルでした。やがて自然学を超えるものとされるようになり、日本語訳では「有形の世界の奥にある究極的なもの」という意味の「形而上」があてられました。

『形而上学』は「すべての人間は、生まれながらにして知ることを求める」という命題から始まります。これはアリストテレスの根本命題であり、本書では人間が出会う自然的・感覚的な存在についての分析と、それを超えるものについての探求が著されています。

『政治学』

『政治学』では理想国家、現実国家、国家一般について論じられます。アリストテレスは、「人間はポリス的動物である」として、最高善を目的とする完全な共同体であるポリス(国家)と同じく、人間も善を目的とするため、人間にとってポリスは本質的なものだとしました。

また、立法者は富裕層と貧困層の中間的存在であるべきだという政治における中庸の重要性についても書かれています。この思想はニコマコス倫理学の道徳思想ともつながっています。

『詩学』

『詩学』は創作に関する著作で、特に悲劇の機能や構造について重点を置いて書かれており、文学理論の普遍的な古典として評価されており、創作論の起源ともされています。

『自然学』

『自然学』は自然哲学の研究書で、アリストテレスの主著の中でも重要な書です。アリストテレスは、さまざまな領域の研究を行った哲学者として知られていますが、優れた生物学者でもありました。本書は自然学の原理論(原因論や空間論など)と運動論から構成されています。

「アリストテレス」の名言

「ニコマコス倫理学」の中から名言を紹介

最後にアリストテレスの名言を『ニコマコス倫理学』の中から紹介します。

いかなる知識も選択もすべては何らかの善を希求している。

人々が名誉を追及するのは、自己が善き人間であることを信じたいからである。

幸福こそは、われわれの行うあらゆることがらの目的である。

節制も勇敢も超過と不足によって失われ、中庸によって保たれる。

正しい行為を行うことによって正しい人が生まれ、節制的な行為を行うことによって節制的な人が生まれる。

あらゆる場合においてわれわれの最も警戒しなくてはならないのは快と快楽である。

うるわしい行為の因は自分に帰して、醜悪な行為の因は快適な事物のせいにするというのは滑稽である。

すべて悪しきひとは、何をなすべきであり何をなすべきでないかを知らないひとである。

虚飾者とは、事実が彼に属しないにもかかわらず、または実際に属する以上に、彼に属していると見せかけるひとであるが、卑下するひととは、実際彼に属しているものを否定ないしは滅するのであり、これら両者の間の「中」にいるのは、自分のありのままといえるようなひと、すなわち彼に属しているものをそれ以上でもそれ以下でもなく、自己のものとして認めるような真実性の傾向のあるひとである。

まとめ

世界の根本や原理についてのみならず、人間の善についても探求したアリストテレスの哲学は、ヨーロッパ哲学の基礎を築いたとされており、日本人の私たちの思想にも大きな影響を与えています。

ルネサンスの画家ラファエロが描いた最も有名な絵画に「アテナイの学堂」があります。古代ギリシャの哲学者たちが大勢描かれており、その中央の中心的存在としてプラトンとアリストテレスが描かれています。

プラトンが指で天を指しているのに対して、アリストテレスは手のひらを地面に向けています。この表現は、プラトンの観念的な哲学に対し、アリストテレスの現実に即した哲学を象徴しているとされています。

哲学の書には二通りがあり、注釈や解説がなければ理解が難しい書と、解説などがなくても読み進められる書があります。アリストテレスの書は後者であるため、哲学の入門として、アリストテレスの思想が詰まった『ニコマコス倫理学』を読んでみることをおすすめします。