「SES契約」とは?派遣契約との違いや問題点についても解説

SES契約はエンジニアの労働時間に対して対価を支払うものです。人材の活用や人件費の節減などのメリットがある反面、管理や運用を間違えると違法と認定されてしまうリスクもあります。

この記事では、適切なSES契約を行うために役立つ、SES契約と派遣契約の違いのほか、問題点や違法になる点などについて解説しています。

SES契約とは?

「SES契約」とは委託契約の一種

「SES契約」とは、”IT業界における委託契約の一種”です。正式名はシステムエンジニアリングサービス契約といい、システムエンジニアが行うシステム開発・保守・運用などに関わる労働が、契約の対象となります。

エンジニアは発注元である会社へ常駐し、発注元はエンジニアの作業時間に対して賃金を支払うという雇用形態です。エンジニアが発注元の依頼でシステムを作成して納品し、納品物に対して発注元が対価を支払う場合は請負契約となり、SES契約とは異なるものです。

「SES契約」は準委任契約

SES契約は、実際には準委任契約にあたるものです。準委任契約では報酬は労働に対して支払われ、成果物を完成させる責任については問われません。

つまり、SES契約で支払われる賃金は技術者の作業時間に対して支払われるものであり、システムの完成などは支払い対象とはならないため、業務の完遂を求められることはないのです。

「SES契約」と「派遣契約」の違いとは?

「SES契約」と「派遣契約」との違いは指揮命令系統

SES契約と派遣契約は似ているように見えますが、労働管理や指揮命令系統に大きな違いがあります。SES契約は業務請負の一種とみなされるもので、労務管理や指揮命令を発注元企業が行うことはできません。

つまり、SES契約では発注元企業とエンジニアに雇用関係がないため、エンジニアに対して発注元が指示を出すことはできないのです。発注元との労務管理や指揮命令に従って業務を行う派遣契約とは、この点で大きく異なります。

エンジニアが常駐できるのは「SES契約」

派遣法の改正により、労働者が派遣先に常駐する勤務形態(特定派遣)は2018年9月29日付けで廃止されました。したがって、労働者が発注元の現場に常駐できる勤務形態はSES契約のみとなります。

働き方が多様化するにつれ労働にかかわる法律も複雑化しているため、契約内容をよく確認して不利益を被らないように注意する必要性が高くなりました。

「SES契約」の問題点とは?

「SES契約」の問題点は派遣契約と混同されやすいこと

SES契約は委託契約です。ところが発注元が派遣契約や請負契約とSES契約の違いをよく理解できないまま契約していることで、さまざまな問題が生じています。

発注元がSES契約を派遣契約と混同している場合、しばしばエンジニアに対して直接指揮命令を下してしまうことがあります。請負契約と混同している場合なら、業務の完遂を指示されることも起こりがちです。

名前だけSES契約ということも

実際の雇用形態は派遣契約や請負契約と同様であるにもかかわらず、形式的にSES契約を結んでいるというケースもあります。

この場合、発注元はSES契約と派遣契約や請負契約の違いを知りながらSES契約を結んだことになり、故意に労働者派遣法や職業安定法に違反しているのです。

また、受注側が派遣業の許可を得ないままSES契約により雇用したエンジニアに、派遣契約や請負契約に当たる業務を行わせることもあります。

SES契約では一人ではなく二人以上の常駐が必要

SES契約では、業務に必要な指揮命令をエンジニアに与えることができるのは受注側のみです。したがって発注元には、エンジニアとエンジニアに指揮命令を与える人員の最低2人が常駐する必要があります。

SES契約の目的のひとつとして人件費の軽減があるため、意図的に人員を1人に抑えることも行われがちです。この点もSES契約の問題点となっています。

SES契約で違法になる点とは?

SES契約で違法となるのは違法派遣と偽装請負

SES契約で違法になる場合として挙げられるものは、違法派遣と偽装請負の2点です。これらを回避するためのポイントとしては、指揮命令を受注側が行うことが大前提で、契約書の中に「エンジニアは、発注元から直接指示を受けない」と明示しておきます。

そのうえで、常駐人員を最低2名とすることが必要です。法的に正式な契約書を交わし適切に運用することで、違法派遣や偽造請負と認定されるリスクを避けることができます。

SES契約の違法認定で課せられるペナルティ

SES契約で違法と認定された場合、受注側には以下のペナルティが課せられます。

  • 社名の公表
  • 最大1年の懲役または100万円の罰金

発注元に対する直接のペナルティはありませんが、費用を回収できなかったり逸失利益が生じたりするなどの被害が生じる可能性があります。

特に受注側については「違法だとは知らなかった」「違法したつもりはなかった」ではすまされないため、厳重な注意が必要です。

まとめ

SES契約と派遣契約の違いと、問題点や違法になる点について解説しました。派遣契約や請負契約と紛らわしい点が多いため、運用を間違えてしまったり意図的に悪用したりするケースがよくあります。

本来、SES契約はエンジニア・受注側・発注元の3者にとって、それぞれにメリットがあるものです。SES契約を正しく認識して、安全な運用を心掛けましょう。