エスタブリッシュメントとは?アメリカや英語圏と日本の違いも紹介

エスタブリッシュメントという言葉があります。直訳は「既存体制」ですが、文化的背景が異なるアメリカや英語圏と日本では、エスタブリッシュメントの概念や実態も違っています。

この記事では、エスタブリッシュメントの意味や語源をはじめ、アメリカや英語圏と日本におけるエスタブリッシュメントの事例を紹介しています。

「エスタブリッシュメント」の意味や語源とは?

意味は「強い権力を持った勢力が作り上げた社会秩序・体制」

「エスタブリッシュメント」の意味は、”既存の権力的勢力やその体制のこと”です。英語の「establishment」の音をそのままカタカナ表記したものです。

つまり国家や政府機関、富裕層などのような強い権力を持った特権階級・支配階級などの勢力、および彼らが作り上げた社会秩序・体制のことです。国や組織において、「エスタブリッシュメント」は意思決定や方針樹立などに強い影響力を持っています。

「エスタブリッシュメント」の語源は英語の”establishment”

「エスタブリッシュメント」の語源は”英語のestablishment”です。

英語のestablishmentを分解すると

  • e :outと同じく外側という意味
  • stablish : stand と同じく立っているという意味
  • ment:名詞を作る接尾辞

これら3つが合わさってestablishmentとなり、外側に立つ人という意味になります。つまり、多くの一般の人たちの外側にから体制を動かしている「影の勢力」というイメージの言葉です。

なお、establishには「設立する」という意味がありますが、これも内側で準備中だったものが外に立ち現れることから、「設立する」ということになったものです。

「エスタブリッシュメント」のアメリカにおける事例

トランプ大統領は反エスタブリッシュメントだった

アメリカにおける「エスタブリッシュメント」の事例として、2016年の大統領選挙戦をみてみます。民主党は8年間にわたり、オバマ大統領(当時)を中心とした社会的に強い権力を持つ「エスタブリッシュメント」でした。

そこへ登場した共和党のトランプ陣営は反エスタブリッシュメントであり、「エスタブリッシュメント」である民主党に不満を持っていた国民がこぞってトランプ氏に投票した結果、トランプ氏の勝利となりました。

ただし、富豪であるトランプ氏自身は「エスタブリッシュメント」でもあるため、反エスタブリッシュメント層が期待したような既存体制への変革が行われるかどうかは未知数です。

WASPやロックフェラー家も「エスタブリッシュメント」

イギリスのような階級制度がないと見られているアメリカですが、WASP(ホワイト・アングロサクソン・サバーバン(郊外居住者層)・プロテスタント)に区分される人々がいます。

彼らは郊外に住む裕福な白人で、歴代のアメリカ大統領のなかにはWASPが多くみられ、アメリカにおける「エスタブリッシュメント」の代表的な存在です。

また、アメリカ国内だけでなく世界的にも強権を持っているロックフェラー家は財団も保有しており、やはり「エスタブリッシュ」の代表です。

「エスタブリッシュメント」の英語圏における事例

イギリスでは王侯貴族が「エスタブリッシュメント」

「エスタブリッシュメント」は、英語圏でよく使われる言葉です。イギリスの場合は新興国であるアメリカとは異なり、現在でも王侯貴族という存在があり続けています。生まれながらに裕福な生活と高貴な身分を保障されている理不尽極まりない存在ですが、彼らがイギリスでは「エスタブリッシュメント」の代表です。

そのほか、政治家や上級弁護士、オックスフォードやケンブリッジなど名門大学の学者、ロスチャイルド家のような金融投資家なども「エスタブリッシュメント」と呼ばれています。

「エスタブリッシュメント」の日本における事例

日本の「エスタブリッシュメント」は小粒

日本では「一億総中流」といわれていた時代がありました。現在でも中流意識を持つ人が大多数で、富裕層といわれる人の数や保有財産は、欧米諸国に比べ少ないものです。

バブル崩壊後は格差が広がったといわれていますが、ビル・ゲイツと三木谷浩史を比較するまでもなく、外国に比べると日本における富裕層と庶民との差はまだまだ小さいものです。つまり日本の「エスタブリッシュメント」は、世界に比べると小粒といわざるをえません。

天皇陛下は権力なき「エスタブリッシュメント」

天皇陛下はイギリスの王侯貴族にあたるものといえます。しかし、権力どころか政治的発言力さえ天皇陛下は持っていないため、特権階級・支配階級オックスフォードやケンブリッジ「エスタブリッシュ」と呼べるかどうかは微妙です。

にもかかわらず日本の天皇陛下の階級は世界で唯一のエンペラーにあたり、エリザベス女王やローマ法王より高い権威を持っています。つまり日本の天皇陛下は、権力のない不思議な「エスタブリッシュメント」なのです。

政権交代に見られる「エスタブリッシュ」の移行

日本では、自民党が政治における「エスタブリッシュメント」とみなされていますが、過去に何度か政権交代がありました。

いずれも「エスタブリッシュメント」であった自民党に対する有権者の不満が高まったゆえの政権交代で、自民党に代わる政党は社会党であったり民主党であったりと、一定ではありませんでした。

野党が複数存在する日本では、二大政党制であるアメリカのようにふたつの政党の間で「エスタブリッシュ」と「反エスタブリッシュ」が交代するような形にはならないのです。

まとめ

「エスタブリッシュメント」の意味や、アメリカ・英語圏・日本での事例を紹介しました。文化的背景や政治的条件の違いが「エスタブリッシュメント」にも表れており、それぞれのお国柄が伺えます。

格差是正が叫ばれる昨今ですが、生まれで決まってしまう「エスタブリッシュメント」よりは、努力で勝ち取ることが可能な「エスタブリッシュメント」のほうがまだ公平なものといえます。