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「ストア派」の哲学とは?禁欲やロゴスの意味と名言を紹介

ゼノン(紀元前335年~紀元前263年)が創始した「ストア派」の哲学は、西洋人の考え方や思想に大きな影響を与えました。ここでは禁欲主義ともいわれるストア派の思想やその背景について紹介します。あわせて仏教との共通点や名言も紹介します。

「ストア派」とは?

まずはじめに、ストア派哲学の創始者や思想など、概要を紹介します。

ストア派の創始者は「ゼノン」

ストア派とは、ゼノンが創始した哲学の学派です。ゼノンはアテネで哲学を学び、アゴラにあったストア(柱廊)で講義を行いました。ストア派の名はこの建築物の名前からきています。

ゼノンはアリストテレス哲学など、古代ギリシャで生まれたさまざまな哲学を学び、それらを集大成する形で独自の哲学を打ち立てました。ストア派は当時の地中海世界を代表する哲学派となり、その後も長く影響力を持ちます。

ゼノンが生きた時代はアレクサンドロス大王の帝国が誕生したヘレニズム時代であり、この時、都市国家ポリスの自治権が失われました。ポリスを失ったギリシャ人は新たな哲学を模索します。そのため、この時代のギリシャ哲学は自分自身を見つめなおす人生論的な傾向が強くありました。

ゼノンの自然法:「自然に従って生きよ」

ゼノンは「自然に従って生きよ」と主張しました。ストア派の哲学者は、財産や地位などの人為的に作りだされたものの価値を否定し、自然や宇宙を価値あるものだとしてそれに従おうとしました。

また、ゼノンは人間の自然本性は宇宙の自然本性と連続しているため、宇宙の法則にしたがうことが正しいことだとする自然論を論じました。

ストア派の哲学は「アパテイア」へ至る「禁欲主義」を提唱した

ゼノンは情念(パトス)や情動を克服して「アパテイア」(無情念)へと至る道を説きました。ストア派の哲学者にとって目指すべき理想は、快楽や欲求の衝動に打ち勝ち、理性が与える正しい命令に従って生きることだったのです。

アパテイア(無情念)の状態に至ることを理想とするストア派の哲学は「禁欲主義」と呼ばれました。禁欲的生き方を「ストイシズム」といい、ストイシズムは「ストア派主義」という意味でも使われます。

■参考記事

「ゼノン」の哲学とは?パラドックスの意味とストア派も紹介

「ストイック」はストア派が起源の言葉

「禁欲的」という意味の「ストイック」もストア派が起源の言葉です。しかしストア派の「禁欲主義」は現在の「ストイック」という言葉から連想する禁欲とはニュアンスが違います。欲望を禁ずるのではなく、欲望からの脱却を目指したのです。ストア的な教養を身につけ、不動心の域に達した人を理想の賢者だとして、その理想的な人物をソクラテスと考えていました。

ストア派の根幹概念は「ロゴス」

ストア派の哲学者は世界を定める神的な論理を「ロゴス」と呼び、神と同一視しました。ロゴスはストア派の根幹となる概念で、「自然」(ピュシス:本性)や「運命」(テュケー)とも表現されます。

ストア派は、自然や宇宙はロゴスという理性的な力によって定められた有機的な存在であり、人間も魂の中にロゴスを有しており、それゆえロゴスに従うことが人間の正しい生き方だとしました。

ストア派後期の代表は「セネカ」

ストア派は前期、中期、後期に分けられ、後期を代表する思想家にローマ帝国の政治家でもあった「セネカ」(紀元前1年頃~紀元後65年)がいます。 セネカの生きた1世紀のローマは、初代ローマ皇帝アウグストゥス(紀元前63年~14年、在位:紀元前27年~14年)なきあとは、ネロなどの悪名高い皇帝による悪政で不安定な時代でした。セネカはネロの補佐役として政治を支えますが、のちに謀反の嫌疑をかけられ、自ら命を絶ちます。

セネカはストア派の教えに従い、困難な政治生活に耐え、人生哲学について論じました。

■参考記事

「セネカ」の思想とは?『人生の短さについて』と名言も紹介

「アウレリアス」の「自然」と「名言」

第16代ローマ皇帝のマルクス・アウレリウス・アントニヌス(121年~180年、在位:161年~180年)も後期ストア派を代表する思想家です。アウレリアスはストア派哲学を学び、教えに即した生活を送り、『自省録』という内面の思索を綴った著書を残しました。アウレリアスは「自然」という言葉を頻繁に用いました。宇宙の自然と自分の本性を結び付け、自然に従って生きるということがストア派の教えです。

古代ギリシャで生まれたストア派の哲学は、その中心がローマに移ってからも大きな影響を与え続けましたが、その前期の著書は失われており、アウレリアスなどの後期ストア派の著書によってのちに大きな影響を与え続けることになります。

アウレリアスの著書『自省録』から、ストア派の思想が表れた名言を紹介します。

主観的判断を取りのけよ。そのとき、私が害されたという思いは消えてしまう。すれば、害そのものが消えてしまう。

死すべき者の避くべくもない運命(死)は間近に迫っている。命あるかぎり、善き者たることの可能であるうちに、善き者となれ。

おのが外に心を向けてさまようのをやめよ。内に、なにかなさんとする衝動を覚えたら、つねに正義にかなったことを顕現し、怠ることなく理知の能力を最良の状態に保て。

理性的動物にあっては、自然に適うも理性(ロゴス)に適うも、ともに同じ一つの行為であり、別個のものではない。

想念を消失せよ。繰り人形よろしく外から繰り動かされることをやめよ。ひとの犯した過ちはそれの生じた場所にそのままにしておけ。

天より与えられた事物には、みずからを調和せよ。また、宿命によりともに生きるべく定められた人々には愛情を寄せよ。ただし真正の愛情を。

「ストア派」の反対の哲学派とは?

次に、ストア派と同時代に、ともに哲学の二大潮流となったエピクロス派について紹介します。

ストア派の反対は「快楽主義」のエピクロス派

「エピクロス」(紀元前336年~264年)は快楽に幸福を求めるエピクロス派の哲学を打ち立てました。エピクロス派は快楽主義やの快楽の哲学と呼ばれます。

エピクロス派は「アタラクシア」を幸福と定義した

エピクロスは、人間の幸福は快楽であるとしました。その快楽とは欲望のままに流される快楽ではなく、肉体的な苦痛がなく、精神的に平静(アタラクシア)であることを快楽かつ幸福と定義したものです。

エピクロス派が魂の平安を求めたのに対し、ストア派は感情に任せるのは理性に背く生き方だとして、快楽主義とは反対の立場を取りました。また、エピクロスが幸福を人生の目的としたのに対して、ストア派は幸福は結果にすぎないとしました。

■参考記事

「エピクロス」の思想とは?「死」についての名言や言葉も紹介

「ストア派」と「仏教」の共通点とは?

ストア派の哲学は、仏教の教えに共通点があるとしばしば論じられます。具体的にはどのような考え方が共通しているのでしょうか。

「欲望からの脱却」が共通点

ストア派が提唱する、欲望を克服して無情念の生き方へ達する道は、仏教における解脱への道と同じ概念であると考える人もいます。どちらも欲望からの脱却を目指しているということにおいて共通しているといえるでしょう。

まとめ

ストア派の哲学は西洋人の考え方の指針や人間形成における力となり、現代まで大きな影響を与えています。ストア派は、唯一絶対の神をキリストとするキリスト教とは強く対立しますが、キリスト教の中にストア派の概念がとりこまれている部分もあります。

ストア派のアパテイアという無情念の理想や、マルクス・アウレリアスの著書などストア派の著作はキリスト教徒にも高く評価されています。