「大乗仏教」とは?菩薩との関係や「上座部仏教」との違いも解説

日本の主な仏教の宗派は「大乗仏教」であるとよく説明されますが、その大乗仏教とはどのようなものなのでしょうか?ここでは大乗仏教の概要とその思想、菩薩との関係や主な経典を紹介します。あわせて上座部仏教についても説明しています。

「大乗仏教」とは?

「大乗仏教」とは伝統的仏教を批判して成立した仏教の一派

「大乗仏教」とは、紀元前後から1世紀に成立したと考えられる仏教の一派です。仏教は紀元前5世紀頃にゴータマ・ブッダを始祖として始まりますが、ブッダの死後はインドのアショーカ王の保護を受けて大教団に発展します。紀元前後になると教団は大地主の資本家になり、民衆のことを考えず寺院にこもって些末な教理の研究に没頭するようになります。

民衆の中に現れた仏教指導者たちは、大教団となった独善的な仏教を「小乗」と呼んで批判し、自らの仏教を「大乗」と称して別の道を歩みます。「大乗」とは大きな乗り物の意味で、乗り物とは仏教の教義を指します。従来の仏教の利己的態度に対して、自らは利他行を強調しました。

なお、「小乗仏教」という呼び名は中立的でないため、現在では使われていません。

「大乗仏教」の基本思想は”空観”

初期の大乗仏教の思想を体系化したのは「龍樹(りゅうじゅ)」(150~250年頃)です。龍樹の思想の中心は「空(くう)」で「空観(くうがん)」と呼ばれます。「空」とは、一切の事物、事象を言語概念によって把握することの否定であり、真理はどのような言語概念によっても把握されないという意味を持ちます。

大乗思想の根本思想は「空」であり、大乗仏教の歴史は「空」をいかに理解するかの歴史でもあるといえます。

■参考記事
「龍樹」の「空」の思想とは?『中論』と『般若心経』も解説

大乗仏教は「菩薩」を重視する

伝統的保守的仏教の徒は修行の末に煩悩を滅して解脱に至ることを目指しており、他人のこと、つまり利他は考えません。大乗仏教はこれに反対し、生きとし生ける衆生全てを苦から救うことを目指します。大乗仏教ではこのような利他行を実践する人を「菩薩」といい、慈悲にもとづく実践を「菩薩行」といいます。

また大乗仏教ではブッダは超人的な存在として信仰の対象となるとともに、ブッダとは別の無数の諸仏の観念が生み出されました。西方の阿弥陀仏や弥勒仏、薬師如来などが信仰され、やがて菩薩も信仰の対象となり、観世音菩薩や文殊菩薩など諸菩薩の救済が説かれました。

「大乗仏教」の「経典」とは?

大乗仏教の経典の成立過程を紹介します。

「原始経典」が成立したあとに”大乗経典”が成立した

釈迦(ブッダ)の没後、すぐに原始経典と呼ばれる仏典の編さんが開始されました。釈迦自身は、経典を著すことはしなかったため、ブッダの教えが滅んでしまうと考えた弟子たちが集まって会議を開き、ブッダの教えを確認してまとめ、一群の原始経典が成立したと伝えられています。

「大乗経典」は1世紀から10世紀頃にかけて成立した

大乗仏教の経典は1世紀から10世紀頃にかけての長い間、多岐にわたる内容で、かつ膨大な数が著わされました。原始経典は一つの体系のもとで作られているのに対し、大乗仏典は
仏典それぞれの思想ごとにグループに分かれて相互の関係がなく作られていったことが特徴的です。

仏典の成立は初期、中期、後期に分けられます。

■初期大乗仏典
紀元2世紀頃までの、龍樹以前に成立したと考えられる仏典で、大乗仏教の骨格をなす経典がこの頃に成立しました。「般若経典」「浄土経典」『法華経』『華厳経』などがあります。

■中期大乗仏典
4世紀~5世紀に成立したと考えられる仏典で、『勝鬘経(しょうまんぎょう)』『涅槃経(ねはんぎょう)』など如来像や仏性を説く仏典がこの頃成立しました。

■後期大乗仏典
6世紀以降に成立した仏典で、密教経典の『大日経(だいにちきょう)』『金剛頂経(こんごうちょうきょう)』が成立しました。

日本に伝わった代表的な「大乗仏教」の経典

日本に伝わった代表的な大乗仏教の経典について説明します。

「般若経典」

「般若経典(はんにゃきょうてん)」は、「般若波羅蜜」を説く大乗仏教経典群の総称です。大乗仏教の経典として最初に成立した経典です。あらゆる事物が空である「一切皆空」と、「六波羅蜜(ろくはらみつ)」という六つの徳の完成を説くのが特徴です。六波羅蜜のうち、智慧の完成を「般若波羅蜜(はんにゃはらみつ)」といいます。

『般若心経』

『般若心経(はんにゃしんぎょう)』は正しい名称を『般若波羅蜜多心経(はんにゃはらみったしんぎょう)』といい、般若経典の一つです。経典の中で最も有名な経典で、浄土真宗以外の宗派で正典とされています。「般若」とは智慧の意味で、「波羅蜜多」とは完成の意味です。つまり、智慧によって人生の目的を完成させ、彼岸に達することを意味します。サンスクリット語を音写して漢訳した言葉であるため、あてられた漢字そのものにに意味はありません。

般若心経は、仏教の根本思想である「空」の理法と内容について膨大な般若経典群の思想をまとめたもので、すべての大乗経典の基礎とされています。「色即是空」という一句がよく知られています。

「浄土経典」

「浄土経典」とは、阿弥陀仏の浄土を述べた経典のことで、多くの経典があります。「浄土経典」は次に説明する『法華経』とともに、日本人の仏教観に最も大きな影響を与えた経典です。阿弥陀仏の浄土を主題とした主要な経典に「浄土三部経」と呼ばれる『仏説無量寿経』『仏説観無量寿経』『阿弥陀教』があります。

日本の浄土真宗で説かれる阿弥陀信仰は浄土経典に由来しています。

■参考記事
「親鸞」の思想や教えとは?その生涯や名言も解説

『法華経』

『法華経(ほけきょう)』は日本の仏教に最も大きな影響を与えた仏典です。聖徳太子は『法華経義疏(ほけきょうぎしょ)』を著し、最澄は『法華経』を根本経典とする天台宗を発展させました。日蓮は『法華経』を絶対視した日蓮宗を興しました。

■参考記事

「最澄」とは?「空海」との違いを比較!天台宗や思想も説明

「日蓮」の教えと「法華経」とは何か?日蓮の生涯や日蓮宗も解説

『金剛経』

『金剛経(こんごうきょう)』は『般若心経』『法華経』とともに多くの人に読誦されました。インド、中国、チベット、朝鮮など仏教が伝播した国の全てに伝えられ、日本においては栄西や道元の広めた禅宗で重視されました。

「大乗仏教」と比較される「上座部仏教」とは何か?

大乗仏教と対比して語られることの多い上座部仏教について説明します。

「上座部仏教」は大乗仏教が分派する前の部派仏教のこと

大乗仏教が現れる初期仏教の時代を部派仏教ともいいます。教団は複数に分派し、大きくは上座部と大衆部に分かれました。それぞれがさらに分かれて20部派ほどがあったとされています。上座とは長老の意味があります。

上座部は保守的な長老派であり、大衆部は長老とは意見が異なるより進歩的な考え方をする人々の集まりでした。のちに大乗の思想を生んだのは大衆部からの系統だと考えられています。上座部系統からの思想は保守的な小乗仏教の思想と呼ばれましたが、現在は上座部仏教と呼ばれています。

上座部仏教はスリランカ、ミャンマー、カンボジア、タイなど東南アジアに広まり、日本を含む東アジアやチベットに伝わった大乗仏教とは異なる歴史を辿りました。上座部仏教は、初期のブッダの教えを純粋な形で保持している唯一の仏教集団とされています。

まとめ

大乗仏教とは、古代インドに形成された伝統的保守的仏教を批判して生れた仏教の一派のことをいいます。原始経典とは別の流れで大乗経典が次々と表され、その最初のものが日本で最も有名な経典と考えられる『般若経』です。続いて『法華経』や『華厳経』などの浄土を説く経典類も成立し、日本人の思想や世界観に大きな影響を与えています。

これらの経典を著し、編さんしたのはブッダの言葉や精神を追及した多くの無名の宗教者です。大乗仏典は「仏説」と呼ばれ、その時の仏とはゴータマ・ブッダを超えた宇宙的存在として捉えられています。

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