「ヘラクレイトス」の思想とは?名言「万物は流転する」の意味も

「万物は流転する」の名言で知られる「ヘラクレイトス」とは、どのような人物なのでしょうか?ここではニーチェも高く評価していたヘラクレイトスの哲学を、わかりやすく解説します。ヘラクレイトスの言葉も紹介しています。



「ヘラクレイトス」とは?

まずはじめにヘラクレイトスについて紹介します。

ヘラクレイトスは「イオニアの自然哲学者」

ヘラクレイトス(紀元前540年頃~480年頃)は、古代ギリシャの自然哲学者で、「万物は流転する」の言葉でよく知られています。

ソクラテス(紀元前469年~399年)とすれ違いに生き、「ソクラテス以前の哲学者」と呼ばれます。ソクラテスはギリシャのアテナイにいましたが、ヘラクレイトスはギリシャではなく、現在のトルコの南西部に位置する「イオニア地方」で活躍しました。イオニアは古代ギリシャ人が植民した地方で、多くの都市国家が栄えていました。

ソクラテス以前の哲学はギリシャ本土ではなく、イオニア地方で花開いたのです。「万物の源は水である」と言い、「哲学の父」と呼ばれるタレス(紀元前624年頃~546年頃)もイオニア地方の哲学者です。

タレスやヘラクレイトスなどのイオニアの哲学者は「自然哲学者」と呼ばれ、自然界をテーマに探求を深めていました。

■参考記事
「タレス」の名言「万物の根源は水である」の意味と考え方を解説

ヘラクレイトスの「死の逸話」は作り話

ヘラクレイトスは貴族階級の生れだったようですが、世間を嫌い、人を避けて孤独な生活を送りました。さらにその強い個性と、箴言(しんげん)めいた文体などから、紀元前3世紀の初め頃から「闇の人」あるいは「謎をかける人」といった評価が定着していました。

ヘラクレイトスにはたくさんの逸話や伝説が伝えられていますが、そのほとんどは、ヘラクレイトスを快く思わない人の作り話だとされています。特に、病気を患いそれを自分で治そうと牛糞にまみれて死亡した、という逸話は創作の可能性が高いでしょう。

「ニーチェ」はヘラクレイトスを高く評価した

ニーチェ(1844年~1900年)はギリシャ哲学の研究者でもあり、ソクラテス以前のギリシャ哲学を高く評価していました。ニーチェは、現にここで生きている人間、その人間自身の探求を行い、ヘラクレイトスの「私は、自分自身を探求した」という言葉を大切にしていました。ニーチェの、世界は何度も繰り返すという「永劫回帰」の思想は、ヘラクレイトスら、ソクラテス以前のギリシャ哲学への回帰を意味していました。

また、ハイデガーやショーペンハウアーなどもヘラクレイトスを尊敬していたことで知られています。

「ヘラクレイトス」の思想とは?

次にヘラクレイトスの思想について紹介します。

ヘラクレイトスの「万物流転説」:世界は絶えず変化し続けている

「万物は流転する」という有名な言葉は、「世界はたえず変化し続けていている」という意味で、「変化」を問題にしている思想です。例えば人間は時間とともに細胞が入れ替わり、変化していますが、同じ「私」であることに変わりはありません。

「人は同じ川には足を2度入れることはできない」「同じ川にわれわれは入っていくのでもあり、入って行かないのでもある。われわれは、存在するとともに、また存在しないのである」というヘラクレイトスの言葉があります。セネカは「ものが変化すると言っている間に、当の私自身も変化しているのであって、それがヘラクレイトスのあの言葉の意味なのです」と述べています。

ヘラクレイトス以前の哲学者は「万物の根源とは何か」を探求しましたが、「世界とは何か」に彼の問いは発展していきました。ヘラクレイトスは世界は「在る」ものではなく、世界は対立するものの調和によって「変化しながら成る」ものだといい、その学説は万物流転説と呼ばれます。運動こそが万物の真相であるとしたのです。

ヘラクレイトスは変化する世界を「火」として把握した

ヘラクレイトスは、絶えず変化しながらも同じ姿を保ち続ける「火」として世界を把握しました。ヘラクレイトスにとっての世界とは「永久に生きる火」そのものであり、次のように述べています。

万人にとって同一のものたるこの宇宙秩序は、いかなる神も、人も造ったものではない。それは常にあったし、今もあり、これからもあるだろう。それはとこわに生きる火であり、一定の分だけ燃え、一定の分だけ消える。

ヘラクレイトスの考え方は「弁証法」の出発点となった

ヘラクレイトスは闘争を万物の父とし、矛盾対立や対立こそが真実であると主張しました。例えば戦争があるからこそ平和があると考えたのです。この考え方はのちにヘーゲルが確立した「弁証法」の出発点ともなりました。

ヘーゲルの弁証法とは、矛盾から新しい考え方を生み出すプロセスのことで、「正⇒反⇒合」または「肯定⇒否定⇒否定の否定」と説明されます。問題を解決する際に対立する2つの事柄について両者を切り捨てることなく、より良い解決方法を見つけ出す思考方法です。

「パルメニデス」は世界を不動と捉え「ヘラクレイトス」を批判した

紀元前515年頃に南イタリアに生まれたパルメニデスは世界を「存在」するものだと捉え、世界を「変化」するものであり「われわれは存在するとともに、また存在しない」としたヘラクレイトスを批判しました。

パルメニデスは「有るものはあくまでも有り、無いものはあくまでも無い」と言い、存在するものは変化してもしなくても存在し続けると主張しました。変化や消滅とは、存在するものが存在しなくなり、ある存在が他の存在になることであるため、パルメニデスによればヘラクレイトスの論理は不可能なことだったのです。

例えば、ヘラクレイトスは、川は常に新しい水が流れ、たえず変化してゆくものと考えますが、パルメニデスは、川は川であり、水が流れていても川は川として変わらず存在しているという主張です。

パルメニデスのように「存在」という概念で世界を探求した哲学者たちを「エレア学派」と呼びます。また、ヘラクレイトスとパルメニデスの対立は、弁証法と反弁証法の対立ともいわれます。

ソクラテス以前の哲学者の思想は「断片集」にまとめられている

ソクラテス以前の哲学者とは、紀元前6世紀から紀元前4世紀の哲学者のことをいいます。その時代の哲学者についてのまとまった著作は現存せず、断片のみが伝わっていました。ドイツの古典学者ディールスがそれらの断片をまとめ、『ソクラテス以前の哲学者』を刊行して研究の土台を作りました。のちにクランツがこの作業を継承したため、ディールス・クランツの断片集と呼ばれることもあります。

「ヘラクレイトスの言葉」を断片集から紹介

最後に断片集からヘラクレイトスの言葉を紹介します。なお、ヘラクレイトスは「万物は流転する」と直接は述べておらず、その思想を表した言葉が伝わっています。

魂にとって、水となることは死である。また水にとって、土となることは死である。しかし土からは水が生じ、水からは魂が生ずる。

火は土の死を生き、空気は火の死を生き、水は空気の死を生き、土は水の死を生きる。

道は上りも下りも同じ一つのものだ。

太陽は日々に新しい。

反対するものが協調する、そして異なる音から最も美しい音調が生じ、万物は争いによって生まれる。

デルフォイに神託所をもつ主なる神は、あらわに語ることも、またかくすこともせずに、ただしるしを見せる。

ひとを笑わせるのもよいが、自分自身が笑われるようになるのはいけない。

よく思われるには、よくなるのが一番だ。

智を愛し求める人は、実に実に多くのことを探求しなければならない。

まとめ

「万物は流転する」とヘラクレイトスが直接述べたのではありませんが、世界は絶えず変化し続けているというヘラクレイトスの万物流転説は、自然界をテーマとした自然哲学と呼ばれています。

古代ギリシャの自然哲学者たちは、人間も自然の一員であると認識していました。ニーチェは、自然の一員としての自分自身を探求するソクラテス以前の哲学に強く憧れていました。