「一衣帯水」の意味とは?由来や「衣帯一江」など類語・例文も解説

「一衣帯水」という四字熟語は、中国の書物に由来する言葉です。河川にかかわる表現で、関係性をあらわすたとえとしても使われています。

この記事では「一衣帯水」の意味や由来、類語や例文も紹介します。

「一衣帯水」の意味とは?

「一衣帯水」の意味は”細長い河川”

四字熟語「一衣帯水」の意味は、”一筋の帯のような幅が狭くて長い河川のこと・幅が狭い海峡のこと”です。読み方は、「いちいたいすい」です。「衣帯」は衣服の帯のことを意味する言葉で、帯のように細くて長いということを表し、「水」は海や川のことを指しています。

「一衣帯水」は密接な関係のたとえでもある

幅の狭い河川や海峡のことを表すことから転じて、「一衣帯水」は狭い隔たりを持ちながら近しく隣接していることや、関係が密接であることを指す言葉として用いられています。

たとえば、アフリカの国々のように人為的に切り分けられたものでない場合、国境は河川で区切られていることが一般的です。狭い河川を隔てて隣り合った国同士のありようは「一衣帯水」の意味がよく分かる具体的な事例となっています。

「一衣帯水」の由来とは?

「一衣帯水」の由来は中国の書物

「一衣帯水」の由来は、李延寿が著した『南史・陳後主紀』にある「我為百姓父母、豈可限一衣帯水、不拯之乎」という一文です。

読み方は「我、百姓の父母たるに、あに一衣帯水を限り、これを拯(すく)わざるべけんや」で、現代の日本語に直すと「私は民衆の親の立場にある、あのような細い川で隔てられているからといって、その民を救わずにいられようか」となります。

中国の南北朝時代、南朝の陳は第5代皇帝・後主の圧政により民衆が困窮していました。それを見かねた北朝の髄の皇帝である文帝が、南下して陳に攻め入ることを決意した際に語ったとされる言葉が「一衣帯水」の由来となっています。

隣国同士の関係を示す「一衣帯水」

隣り合った国同士は関係性の良し悪しにかかわらず、離れることができません。由来の一文から分かるように、結局は両国間で戦争が起きたわけですが、北朝の後主が善政を敷いていれば戦争は避けられたかもしれません。

実際に隣国で困窮している民を放置していると、自国に難民が押し寄せてくることも想定され、賢帝として知られる文帝は、人道上だけでなく自国の安全のためもあって出兵したと見られます。

本来は土地の形状を表す言葉であった「一衣帯水」ですが、文帝の言葉からは隣り合った国同士の密接な関係も示していることが読み取れます。

「一衣帯水」の類語とは?

「一衣帯水」の類語は”衣帯一江・衣帯之水”

「衣帯一江」は「いたいいっこう」と読み、「一衣帯水」と同じ意味を持つ四字熟語です。「江」とは川のことを指しており、「衣帯一江」で帯のような一筋の川のことを表しています。

また「衣帯之水」という四字熟語もあり、「一衣帯水」と同じ意味を持っています。読み方は「いたいのみず」で意味は帯のような水、つまり細い川や海のことを表す言葉です。

「一牛吼地」は近い距離のことを指す類語

「一牛吼地」は「いちぎゅうこうち」と読みます。「牛吼」とは牛の鳴き声のことで、牛の鳴き声が聞こえるくらい近い距離のことを指す四字熟語です。

「吼」という漢字は「声」「鳴き声」という意味がありますが、あまり使用されない文字であるため、より分かりやすい「鳴」という文字に置き換えた「一牛鳴地(いちぎゅうめいち)」のほうが一般的です。

なお「一牛吼地」と「一牛鳴地」には、のどかな田舎や田園風景という「一衣帯水」とは異なる意味もあります。

「一帯一路」は中国の国家戦略

「一帯一路」は「一衣帯水」と似ていますが新しい言葉で、中国の習近平国家主席が推進している国家戦略を指しています。

英語では「One Belt, One Road(OBOR)」となり、中国を起点とする陸路の「一帯」と海路の「一路」によって、アジア~中東~アフリカ東岸~ヨーロッパを一大経済圏としていく構想のことです。したがって「一衣帯水」とは意味が全く異なっており、混同しないように注意する必要があります。

「一衣帯水」の使い方

「一衣帯水」を使った例文

「一衣帯水」を使った例文をご紹介しましょう。

  • 大陸においてそれぞれの国は「一衣帯水」の関係から逃れられない。
  • 「一衣帯水」の間柄にある近隣諸国とは、仲良くできるにこしたことはない。
  • 「一衣帯水」の両国は近しい関係にあるが、親しい関係を維持することは難しい。

まとめ

「一衣帯水」の意味と由来をはじめ、類語や例文を紹介しました。「一衣帯水」は日頃接する機会が少なく、使用頻度も低い四字熟語ですが、由来や類語を含めて理解すれば覚えやすくなります。

なお、報道でよく接するうえ似ている言葉もある「一帯一路」は、「一衣帯水」と全く意味が異なるため、誤用しないようにご注意ください。