「朝三暮四」という言葉は耳にするより、活字で目にする機会の方が多いのではないでしょうか。そして文脈から意味を判断できるため、「朝三暮四」そのものの意味はあいまいなままになっているかもしれません。この記事では、「朝三暮四」の意味や読み方と故事の由来に加え、例文や実例なども紹介しています。
「朝三暮四」の読み方と意味
「朝三暮四」の読み方は「ちょうさんぼし」意味は「目先のものにとらわれること」
「朝三暮四」は「ちょうさんぼし」と読み、「暮四朝三」ともいうことがある言葉です。以下に挙げる4つの意味がありますが、一般的に1と2の意味でよく用いられています。
- 表面的な違いや目先の利害にとらわれて、結果や本質が同じであることに気が付かないこと
- うまい言葉で言いくるめて他人をだますこと。
- 生計
- 変わりやすくあてにならないもののたとえ
「朝三暮四」と間違えやすい「朝令暮改」
「朝三暮四」と字面が似ていて間違えやすい言葉として、「朝令暮改(ちょうれいぼかい)」があります。「朝改暮変(ちょうかいぼへん)」ともいい、朝に出した命令を夕方に改めることから、方針などが定まらないことをたとえた故事です。
先に挙げた「朝三暮四」の4番目に近い意味がありますが、一般的には別の意味の言葉として扱い、「朝三暮四」の同義語としては用いられていません。
「朝三暮四」の由来
「朝三暮四」の由来は『列子』
「朝三暮四」は『列子(れっし)』の「黄帝」が由来となっています。『烈子』は中国・戦国時代の思想家である列禦寇(れつぎょこう)の著書です。故事・寓言・神話が多く記された道教の教典で、『沖虚真経(ちゅうきょしんけい)』とも呼ばれています。
春秋時代の宋、狙公(そこう・猿回しのこと)が貧しくなったため、飼っていた猿に与える餌を減らすことにしました。けれども猿がなつかなくなると困るので、狙公はうまい言い方を考えました。
「今日から朝の餌を3個に減らす」と言うと、案の定猿が怒ったので、「それでは夜の餌を3個に減らす」と言ったところ、猿は納得したのです。
狙公の詐術にうまく言いくるめられてしまう猿の浅知恵を笑っている故事であり、意味合いとしては先に挙げた2番目の「うまい言葉で言いくるめて他人をだますこと」となります。
『荘子』にも「朝三暮四」が登場
『荘子(そうし・そうじ)』の「斉物論(せいぶつろん)」にも「朝三暮四」が登場しています。『荘子』は中国・戦国時代の思想家で、道教の始祖の一人とされる荘子が著した道家の文献です。
話の内容は『列子』とほぼ同じで、宋の狙公が飼っている猿に与えるトチの実を「朝に3つ、暮れに4つ」やると言うと猿が怒ったので「朝に4つ、暮れに3つ」やると言うと喜んだと記されています。
『荘子』では、本質に変わりはないにもかかわらず区別を設ける狙公と、その区別にこだわった猿の両方の浅薄さを良しとしておらず、意味合いとしては先に挙げた1番目の、「表面的な違いや目先の利害にとらわれて、結果や本質が同じであることに気が付かないこと」となります。
「朝三暮四」を使った例文
「朝三暮四」を使った例文を紹介します。
- 第一次補正予算で凍結した財源を第二次補正に回すなどというバカな話は、まさしく「朝三暮四」だ。
- 面倒なことを先送りすることは「朝三暮四」だと分かっているが、なかなか改めることができない。
- 彼はいつも目先のことしか考えていないから、「朝三暮四」と陰口を叩かれて当然だ。
- ダイエット中に甘いものを先に食べるかどうかで悩んでいるが、結局は「朝三暮四」だろう。
- 投資詐欺で客を最初に儲けさせる手口は、「朝三暮四」をしっかり踏襲したものといえる。
「朝三暮四」の実例
政治でよく見られる「朝三暮四」の実例
「朝三暮四」の実例は、残念ながら政治においてよく見られます。例文であげた「第一次補正予算で凍結した財源を第二次補正に回す」という件は、2010年の衆院予算委員会における鳩山首相への質問を元にしています。これは先のものをあとに回すということで、「朝三暮四」の誹りを受けて当然といえるでしょう。
新しいところでは、消費税率を10%に上げるために「あらゆる施策を総動員し、経済に影響を及ぼさないよう全力で対応する」として「プレミアム商品券」が検討されていますが、「取ってバラまく」というやり方は「朝三暮四」的にみえます。
「ものは言いよう」とも受け取れる「朝三暮四」
「コップ半分の水」は、言い方次第でネガティブにもポジティブにも受け取れる表現となります。本質は全く同じものでも、言い方次第で正反対の印象を与えることができるということです。
しかし、「まだ水は半分も残っている」という表現が励ましの言葉となるのか、あるいはごまかしの言葉となるのかは、受け手にどのような結果がもたらされるかによって決まります。
まとめ
「朝三暮四」の意味や読み方と故事の由来、および例文や実例を紹介しました。年々ビジネス環境の変化は早まっており、たとえ同じものであっても実施や提供が行われるタイミングやスピードが重視されるようになっています。
したがって、「朝三暮四」は必ずしも本来の意味どおりに大局観がないことを指すとは限らず、確かなビジョンに基づいた判断といえる場合もあるのです。