「逆説的」という言葉を耳にする機会はよくあります。しかし「逆説的」は哲学的な意味を持っているため、一言で説明することは難しいものです。また、意味がひととおりでないため、誤解を生じやすい言葉でもあります。この記事では、「逆説的」の意味のほか類語や対義語なども含め、例文つきでわかりやすく紹介しています。
「逆説的」とは?
「逆説的」の意味は”間違っているようだが正しいこと”
「逆説的」の意味は、“間違っているようだが正しいこと”です。真理に背いているように見えながら実は真理を言い表していることを指す言葉です。この意味合いをわかりやすく示すことができる事例として、親鸞の「悪人正機説」があります。
善人より悪人の方が救済されるという、一見すると「そんなバカな」と思える説ですが、悪人ほど神仏にすがる心が強いため救済されると説明されると、「確かに一理ある」と納得できそうです。
また、ことわざにも「逆説的」なストーリーを持つものが多く、「損して得取れ」「急がば回れ」「負けるが勝ち」など、Aが結論となるBと矛盾しているにもかかわらず、B以上にBとなることを表しています。
「逆説的」には逆方向から思考するという意味も
「逆説的」には、通常とは反対の方向から考えを進めていくという意味もあります。この意味合いを分かりやすく示している事例として、相場格言が挙げられます。「もうはまだなり まだはもうなり」「人の行く裏に道あり花の山」が代表的で、いわゆる逆張りの考え方です。
逆説的な考え方は心理学でも採用されており、不安感を取り除いたり無視したりするのではなく、逆にじっくり不安と向き合うことで対処できるという手法です。
「逆説」+「的」では片付かない”逆説的”
一般的には、熟語に「的」をつけて、その熟語が示している内容のようなことや関係していることを表します。しかし「逆説的」は、単純に「逆説」に「的」を続けたものではありませんでした。
「逆説」には道理に合っていないように見えながら、じつは道理に合っているという意味のほかに、正しいようでありながら結論において矛盾をはらんでいる説という意味や、事実に反しているがそれに反対する論拠が見出せないような説というような、「逆説的」には含まれていない意味も持っています。
「逆説的」の意味が分かりにくかったりする原因は、「逆説」が持っている逆転した二つの意味によるものです。
また「逆説」にだけあって「逆説的」には元々なかった、正しく導かれるはずだった結論が矛盾してしまうことや、反対できない誤りという意味合いで「逆説的」が用いられることが多くなっており、より「逆説的」の意味が複雑になっています。
「逆説的」の類語とは?
逆説的の類語①「パラドックス」
「逆説的」の類語として、「パラドックス」が挙げられます。「パラドックス(paradox)」は、反対のという意味の「para」と意見・通念という意味の「doxa」からなるギリシャ語で、正しそうに見えるが正しいとは受け入れ難いこと、あるいは誤っているように見えるが実は正しいことを指しています。
つまり見掛けの真偽と実際の真偽が一致しないということを表しており、誤っているように見えるが実は正しいことを指している「逆説的」とは反対の意味も併せ持っていますが、「逆説的」と同じ意味で使われることが多い言葉です。
逆説的の類語②「逆理的」
「逆理的」とは一つの判断とそれを否定する判断の両方が、論理的に正しにもかかわらず両立できない関係にあるようなことを指し、「二律背反」とも呼ばれていています。
ギリシャ神話の英雄・アキレウスが、亀を追いかけても追いつくことはできないのは、亀が走り始めた地点に、追いかけるアキレウスが亀より先に到着することはできないからという「ゼノンの背理」がよく知られた事例です。
「逆説的」の対義語とは?
「逆説的」の対義語は”真説的”
「真説的」とは、正しい学説や意見のことです。もっともらしいさまざまな学説や意見のほか、事実と目される事象などがあるが、それらとは次元が違う批判や誤解の余地がない真実という意味合いがあります。
「真説的」という言葉が用いられる例はあまり多くありませんが、「真説・◯◯(人名や事件)」と題された書籍はしばしば出版されています。
「逆説的」の例文とは?
「逆説的」を使った例文
「逆説的」を使った例文をご紹介しましょう。
- 本来は移民国家であったアメリカで、ナショナリズムのトランプ政権が誕生したことは、逆説的な結果といえる。
- デフレ下でありながら人手不足に陥っている現代の日本は、経済学における逆説的な存在となっている。
- 行き詰ったときの打開策として、これまでの思い込みからいったん離れる「逆説的」な考え方は有効だ。
まとめ
「逆説的」の意味のほか、類語や対義語などを例文つきで解説しました。「逆説的」の本来の意味には数学の証明問題をほうふつとさせる難解さがつきまといますが、トリッキーな見方や逆張り的な手法に対しても使われることが増えています。
「逆説的」な意見で相手を煙に巻くようなことは控えたいものですが、頭の柔軟体操として「逆説的」な考え方をしてみることはおすすめです。