「瓜田に履を納れず」の意味とは?類語と例文・故事の由来も解説

「瓜田に履を納れず」は現代でもよく見聞きする故事です。瓜畑でかがみこんで靴を履けばどういうことになるかは火を見るよりも明らかで、インパクトの強い故事でもありますが、用法が紛らわしい類語もあり注意が必要です。この記事では「瓜田に履を納れず」の意味および由来や類似語と例文を、分かりやすく紹介しました。

「瓜田に履を納れず」の意味と例文とは?

「瓜田に履を納れず」の意味は”疑わしいことはするなということ”

「瓜田に履を納れず」の意味は、“疑わしいことはするなということ”です。「かでんにくつをいれず」と読み、「瓜田之履」と短縮して四字熟語の形で用いられることもあります。人から疑いを持たれるような言動をしないようにと戒めた故事・ことわざです。

「瓜田」とは瓜畑のことを、「履を納れ」とは靴に足を入れることを指した言葉です。瓜畑のなかでかがみこみ靴を履き直していると、まるで瓜を取っているように見えます。

実際に悪いことはしていなくとも、疑いを招くような行動は最初からするべきではないということを教えたことわざが、「瓜田に履をいれず」です。

「瓜田に履を納れず」を使った例文

「瓜田に履を納れず」を使った例文をご紹介しましょう。

  • こんなに弁明に苦労するなら、今後は瓜田に履を納れずの教えを忘れないようにしたいと思う。
  • 瓜田に履を納れずというのに紛らわしいことをしてしまったのだから、疑われても仕方がない。
  • 瓜田に履を納れずというが、身動きの取れない満員電車のなかではどうにもならないだろう。

「瓜田に履を納れず」の由来とは?

「瓜田に履を納れず」の由来は”君子行”

「瓜田に履を納れず」の由来は「君子行」です。「君子行」は、中国の南北朝の時代に昭明太子(しょうめいたいし)が編纂した詩文集である「文選(もんぜん)・古楽府(こがふ)」のなかにあります。

その中の一文に、学識・人格ともに優れ徳も備わった人というものは、まだ起きていないうちに問題を防ぎ、疑われるようなところにはいないものだという説明の具体例として、「瓜田に履を納れず」が挙げられています。

「列女伝」にも見られる”瓜田に履を納れず”

「瓜田に履を納れず」は、「列女伝・斉威虞姫」にも見られます。「列女伝」は、前漢時代の中国でまとめられた女性の伝記で、賢母や烈婦などの逸話が収められた書物です。

このなかで虞姫という後宮の女性が王を諌めるために語ったと伝わる言葉として、「瓜田に履を納れず」が記述されています。

邪な家臣を退けるようと王を諌めたために、虞姫は幽閉の憂き目に遭うのですが、疑われるような行為をした自分の非を認めたうえで国の行く末を案じて訴えたことで、王が改心したというお話です。

「瓜田に履を納れず」の類語・同じ意味の言葉とは?

「瓜田に履を納れず」の類語は”李下に冠を正さず”

「瓜田に履を納れず」の類似語は“李下に冠を正さず”です。

「瓜田に履を納れず」の由来の章で紹介した「君子行」では、「瓜田に履を納れず」のあとに「李下に冠を正さず」と続いており、両者を合わせた「瓜田李下」という四字熟語もあります。また「列女伝・斉威虞姫」でも、「瓜田に履を納れず」のあとに続いて「李園過ぐる時は冠を整さず」と記されているのです。

「李」とはスモモの木のことで、スモモが実った木の下で冠に手をやればスモモを取っているようにみえてしまうことから、「瓜田に靴を納れず」と同様に、疑われるような行為をしてはいけないという戒めのことわざとされています。

最初から瓜畑に近寄らない「君子危うきに近寄らず」も同じ意味

「君子危うきに近寄らず」は、正しい人は危険なものに近づかないという意味のことわざで、疑われるようなことをしてはいけないという意味の「瓜田に履を納れず」とはニュアンスが異なっています。

したがって、「瓜田に履を納れずというのに、そんな危ないマネをしてはいけない」という用法は、適切ではありません。

しかし、人から疑われるような行為そのものが危険であることは事実で、「瓜田に履を納れずというのに、うっかり女性専用車両に乗り込んでしまった」を「君子危うきに近寄らず」と言い替えることができます。

「君子危うきに近寄らず」を「瓜田に履を納れず」の類語として用いる場合は、文章の内容をよく確認することが大切です。

反省を促す「火のないところに煙は立たぬ」

「火のないところに煙は立たぬ」とは、根拠がないところに噂は立たないということをたとえたことわざです。噂が立ったということは、なんらかの根拠があったはずだというコンセンサスに基づいたことわざでした。

しかし、ネット上の誹謗中傷などが真偽を確認する間もなく炎上にまで至る昨今、「火のないところに煙は立たぬ」どころではなくなっています。

まとめ

「瓜田に履を納れず」の意味および由来や類似語のほか、例文もあわせて紹介しました。疑った相手を責めるより、疑われるような行為をしてしまった自分を省みて、今後の戒めとしたほうが建設的です。

誤解を解く努力は必要ですが、保身と受け取られないように注意していただければと思います。