「巧遅は拙速に如かず」という言葉は、スピードが重視されるビジネスの現場で今もよく使われています。しかし、何でも早ければそれでいいという単純な解釈はすまされません。この記事では、「巧遅は拙速に如かず」の意味について、孫子との関係や由来のほか反対語や例文なども紹介しています。
「巧遅は拙速に如かず」の意味とは?
「巧遅は拙速に如かず」の意味は”速さ優先”
「巧遅は拙速に如かず」の意味は、“速さ優先”です。「こうちはせっそくにしかず」と読み、”巧遅は拙速に勝る”あるいは”巧遅拙速”と四字熟語の形で用いられることもあることわざです。
「巧遅」とは出来栄えは良いが完成するまで時間が掛かるということを、逆に「拙速」とは出来栄えは拙いがすぐに完成することを指します。
「如かず」は、及ばないという意味があり、全体で出来がよくて遅いものは、下手だが速いものに及ばないということを表しています。
「巧遅は拙速に如かず」の本当の意味
「巧遅は拙速に如かず」をとにかく遅いより速いほうが良いのだと解釈して、「なんでもいいから早く終わらせよう」と考えると失敗します。
たしかに多くの場合、仕事には期日というものがあるため、約束した期日に間に合わなければアウトです。とはいえいい加減なものを提出してしまうと、二度と仕事をさせてもらえなくなることもありえます。
しかし事業から撤退するようなケースでは、とにかく早くやり終えることが最優先となるかもしれません。
つまり「巧遅は拙速に如かず」の本当の意味を考えるうえで大切なことは「拙速」の内容で、求められる品質とそのレベルに達したらそこで完了させる2つの判断によって、巧遅に勝る拙速となるのです。
「巧遅は拙速に如かず」と孫子との関係とは?
孫子の言葉といわれる「巧遅は拙速に如かず」
「巧遅は拙速に如かず」は現代のビジネスマンの間でもよく使われていて、中国の兵法書として有名な『孫子』が出典であるといわれています。
『孫子』のなかの「作戦」には、戦とは戦術がよくなくてもすばやく終結させるもので、巧みな戦術を用いて長引かせるようなものではないと記されています。このため、『孫子』が「巧遅は拙速に如かず」の出典であるという説が広まっているようです。
しかし、原典に「巧遅に如かず」という言葉は見当たりません。『孫子』においては、戦いが長引けば国が疲弊し中立諸侯に付け入る隙を与えることにもなるため、戦は拙くても速やかに進めたという話はあるが、長引かせるような事例はないということが語られているだけです。
したがって『孫子』を持ち出して、「くずくず考えていないで、まず先に動いたほうがよい」という意見を補強することはできません。
「巧遅は拙速に如かず」の由来とは?
「文章軌範」が”巧遅は拙速に如かず”の出典
「巧遅は拙速に如かず」の由来となった本当の出典は、中国南宋の謝枋得(しゃぼうとく)が編纂した、科挙受験のための参考書である『文章軌範』の「有字集小序」です。
このなかで、模範的な簡潔な文章を書くためのアドバイスとして「巧遅は拙速に如かず」と記されています。
「巧遅は拙速に如かず」は、試験に合格するための文章作成法というシンプルな目的のために説かれたものであるため、そのままビジネスに当てはめることには無理があるでしょう。
「巧遅は拙速に如かず」の反対語とは?
「急がば回れ」は遅さのすすめではなく方法論
「巧遅は拙速に如かず」の反対語としては、「急がば回れ」が挙げられます。「急がば回れ」は、危険な近道ではなく安全確実な遠回りを選択したほうが、かえって早く目的を達成できるという意味です。
つまり、「急がば回れ」はひとつの方法論としてのことわざであって、ただゆっくりやればいいという意味ではありません。
後戻りややり直しが発生しない確実な方法を組み立てる堅実さと、急ぐあまり手順を端折るようなことがない丁寧さが求められているのです。
「急いては事を仕損じる」は冷静沈着さのすすめ
「急いては事を仕損じる」も、「巧遅は拙速に如かず」の反対語として挙げられます。「急いては事を仕損じる」は、急いで物事を行えば冷静な判断ができなくなるため、気持ちを落ち着けて対処しなければならないという戒めです。
「急いては事を仕損じる」には「急がば回れ」のような方法論についての言及はなく、血気にはやる若者に対して年長者が、「焦って周りが見えなくなるようなことではいけない」と諌めるようなときに用いられる、精神論を説いたことわざといえます。
「巧遅は拙速に如かず」の使い方とは?
「巧遅は拙速に如かず」を使った例文
「巧遅は拙速に如かず」を使った例文を紹介します。
- 「巧遅は拙速に如かず」を雑な仕事の言い訳に使っているような彼には、大切な仕事を任せられない。
- 完璧主義の彼女には常々「巧遅は拙速に如かず」と伝えているが、なかなか理解してもらえない。
- 超絶技巧を凝らした彼の作品を見ると、「巧遅は拙速に如かず」という言葉はかすんでしまう。
まとめ
「巧遅は拙速に如かず」の意味のほか、孫子との関係や反対語・例文などを紹介しました。スピード重視の現代社会では多くの場合に拙速が歓迎されますが、速さだけで勝負していてはいずれ機械に負けてしまうでしょう。
「巧遅」と「拙速」の中庸や止揚を探り、より高次元な仕事に取り組めるようになりたいものです。