「渡りに船」の意味とは?由来・類語と使い方も解説(例文付き)

「渡りに船」は、渡し船に乗ることが少なくなった現在でもよく見聞きすることわざです。また、悪だくみがとんとん拍子に進むようなケースでの用法もみられます。この記事では「渡りに船」の意味をはじめ、ことわざの由来や類語のほか使い方についても解説し、例文の紹介も行っています。

「渡りに船」の意味とは?

「渡りに船」の意味は”都合がよいこと”

「渡りに船」の意味は、“都合がよいこと”です。困っているときの助けとなる人や状況などのように、欲しいと思っていたものが都合よく手に入ることを指したことわざです。

昔は橋のない川が多く、向こう岸へ渡る方法としては、渡し船に乗るほか川越し人足に肩車してもらったり、輩台(れんだい)に乗ったりする徒歩(かち)渡しがありました。

どの方法で渡ろうかと考えているとき、目の前に船が現れたら、とてもラッキーですね。ここから、タイミングよく欲しいものが得られることを「渡りに船」というようになったのです。

「渡りに船」の由来とは?

「渡りに船」の由来は仏教の『法華経』

「渡りに船」は、仏教の経典のひとつである『法華経(ほけきょう)』のなかに見られます。釈迦の教えを後世に伝えるために弟子たちが編纂した経典は全部で7,000巻以上あり、そのなかのひとつが『法華経』です。

『法華経』は、全ての人々の苦しみを取り去り願いを満たしてくれるお経といわれ、その具体例として「渡りに船」の由来となった「渡りに船を得たるが如く」という一文があります。

「渡りに船」は仏の慈悲

病気になったときの医者や暗いときの灯り、渡りのときの船のように、法華経は人々が困ったときに助けてくれるものであると説明されています。

したがって「渡りに船」は、すべての人々を苦しみから救う仏の慈悲のように貴重なものを指したことわざです。ところがだんだんと仏教的な意味合いが薄れ、悪事を働く人間にとって都合が良いというような場合にも「渡りに船」が使われるようになりました。

「渡りに船」の類語とは?

類語①「地獄で仏」はありがたい助けのこと

「地獄で仏」は、「地獄で仏に会ったよう」を縮めたことわざで、「地獄に仏」といわれることもあります。

「地獄で仏」に登場している「地獄」は困難や苦境のたとえ、「仏」は思いがけない助けのことで、「渡りに船」と同様の意味を持っていますが、単に都合がよいということではなく、苦しいときや困ったときのありがたい助けということを指していることわざです。

類語②「日照りに雨」は天からの恵み

「日照りに雨」も「渡りに船」の類語ですが、「地獄に仏」と同様に窮地を救ってくれるありがたいものを指しており、単に好都合という意味ではありません。

現在のような灌漑設備が開発される以前の農業において、生産高は降水量に大きく左右されていました。そのため、長期間雨が降らなければ農作物は枯れてしまい、飢饉に見舞われてしまうことになるのです。

現代人からしてみると、雨乞いなど迷信以外の何物でもないように思えますが、雨が降ってくれたら飢饉を免れることができ、人々は救われます。恵みの雨を神仏に祈ることは、当時の人々にとって自然なことだったのでしょう。

類語③「闇夜に提灯」は好都合という意味

「闇夜に提灯」は、困ってるときに都合よく問題を解決できるものや人に巡り合うことをたとえたことわざです。

24時間電灯がついている現在とは異なり、昔は月が出ていない闇夜は真っ暗で心細いものでした。そんなときに提灯を下げた人に出会ったり、提灯が灯されていたりすれば、その周囲は明るく照らされてよく見えたのです。

時代とともに提灯はランプ、ガス灯、電灯へと進化していきましたが、「闇夜の提灯」ということわざは都合よく欲しいものが手に入るという意味合いで、現在も使われています。

「渡りに船」の使い方や例文とは?

頑張って得られるものではない「渡りに船」

「渡りに船」でもたらされる幸運や援助は、自分自身の努力によって獲得できるものではありません。今まさに困っているというときに、向こうから来てくれる幸運です。したがって、「頑張って勉強すれば、渡りに船で合格できる」というような使い方は誤りです。

また、やって来た好機をとらえて発奮するという意味の「得手(えて)に帆を揚げる」と同じように使うこともできません。

「渡りに船」を使った例文

「渡りに船」を使った例文を紹介します。

  • 出先でにわか雨が降り出したが、ちょうど友人が車で通り掛かったので渡りに船と乗せてもらった。
  • プリンターが動かなくなったとき、渡りに船でメンテナンス業者が来訪したのでみてもらった。
  • 洋服を試着していたらちょうどタイムセールが始まったので、渡りに船とばかりに購入を決めた。

まとめ

「渡りに船」の意味と由来・類語のほか、使い方の解説や類語の紹介を行いました。「渡りに船」はいつどこで誰のもとにやって来るかは分かりませんが、決め手は、船が来たときに迷わず乗れるかどうかに掛かっています。

より好みしたり深追いしたりして船がどこかへ行ってしまわないうちに、しっかりと乗り込んでください。