「ダリ」の生涯と作品とは?フロイトの影響や時計の意味も解説

溶けた時計の絵や奇怪な風貌が印象的な「サルバドール・ダリ」とは、どのような人物だったのでしょうか?また、夢の世界のようなダリの絵は、どのように鑑賞すればよいのでしょうか?

この記事では、ダリの生涯とその作品の読み解き方を解説します。あわせて代表的な作品や、ダリの美術館も紹介します。



「サルバドール・ダリ」とその生涯とは?

「サルバドール・ダリ」
(出典:Wikimedia Commons User:Sysywjel)

「ダリ」はスペイン出身の「シュルレアリスム」を代表する画家

サルバドール・ダリ(Salvador Dalí 、1904年~1989年)は、スペイン・カタルーニャ州に位置する地中海沿いの町・フィゲラス出身の画家です。無意識の奇妙な世界を精密、写実的に描き、シュルレアリスムを代表する画家として有名です。絵画のほかにも、映画や舞台芸術など幅広く表現活動を行うなど多彩な才能を発揮しました。

「ダリ」のインスピレーションの源泉は「故郷の風景」と妻の「ガラ」

ダリは裕福な名家の家に生まれ、フィゲラスの近くの漁村カダケスにある、ダリ家が所有する別荘で多くの時間を過ごし、カダケスを一生を通じて愛し続けました。その光あふれる海岸と、浸食によって複雑に錯綜する入江の形態や奇怪な岩、洞窟などは、生涯にわたってダリのイメージの源泉となりました。

故郷の自然とともに、ダリのインスピレーションの源泉となったのは妻となったガラでした。ダリはガラをモデルとして多くの絵を描き、ガラは献身的なパートナーとしてダリを支えました。

「誇大妄想狂」「ナルシスト」として知られるダリ

中年以降のダリのポートレートからは、長い口髭と眼を見開く奇怪な風貌のイメージがありますが、幼少期のダリは大変な美少年で、家族にかわいがられて育ちました。恵まれた環境とカタルーニャの自然の中で、ダリは自分の持つ特別な感性に目覚めてゆきます。

16歳のとき、ダリは「ぼくは天才になる」と書き留めています。将来は画家になることを確信し、マドリードの美術アカデミーに入学します。この頃にはすでに独自のスタイルの絵を描いており、ふるまいや服装もエキセントリックで個性的でした。

ダリを形容する「ナルシスト」「誇大妄想狂」の片りんは、子供の頃から見られ、学生時代にはすでにその原型が形づくられていました。ダリの奇行や特異な風貌は、宣伝のために意識的に誇張して演出していたものだとも言われますが、誇張していた側面がありながらも、実際にナルシストで妄想が激しい性格であったことは事実のようです。

映画『アンダルシアの犬』の制作を機に「シュルレアリスム」に加わった

20代半ばとなったダリは、学生時代の友人でのちに映画監督となったルイス・ブニュエルとともに、反芸術的な大衆映画を制作しました。ブニュエルはシュルレアリスムに共感しており、ダリはそれまで描いていたモチーフが変化する様子を映画で表現したいと考えました。

1929年に公開された『アンダルシアの犬』は、二人が持つイメージである「目とかみそり」「アリが群がる手」「グランド・ピアノと腐ったロバ」などが登場します。とくにストーリー性はなく、シュルレアリスムが提唱する「自動記述」を対話形式に変化させて構成したものでした。

「自動記述」とは、あらかじめ準備せずに、スピードにまかせて次々に記述していく方法で、無意識を拾う目的でシュルレアリスムの手法として行われました。

映画は成功し、パリに出たダリは、シュルレアリスムの中心人物であるアンドレ・ブルトンに迎えられ、シュルレアリスムを代表する画家として活躍する時代を迎えました。

■参考記事
「シュルレアリスム」の意味とは?代表的な画家や文学も紹介

「ダリ」の作品の読み解き方とは?

カダケス(スペイン)

「フロイト」の精神分析論から影響を受けた絵

ダリはフロイトの『夢判断』をはじめとする著作を読み込んでおり、フロイトが示した事例などに、自身の性への不安などの独自の解釈を加えて、奇妙な夢のような絵画を制作しました。

フロイトは、意識の下に閉じ込められている無意識の欲望が、夢を通じて出現すると考えました。ダリの作品に書き込まれたさまざまな象徴については、精神分析的解釈が多岐に行われています。しかし専門的な知識による見方とは別に、その絵画から受けるインスピレーションをそのまま受け取り、何かを感じることが大切です。

「溶けた時計」は「時間の消滅」「死」の象徴

ダリの絵画のモチーフとしてたびたび登場し、代名詞ともいえるのが、ぐにゃりと「溶けた時計」です。ある時、ダリは皿の上に残ったカマンベールチーズを見て、「柔らかさ」について考え、頭に浮かんだイメージを瞬発的に描き、溶けた時計が生まれました。

ダリにとっての「時計」は、秩序や慣習に拘束された嫌悪すべき社会の象徴でした。柔らかく溶けた時計は、「時間の消滅」すなわち「死」を意味します。

思考を排除してインスピレーションのままイメージを描くこの手法は、シュルレアリスムで提唱する「自動記述」の手法です。最初に溶けた時計が描かれた作品『記憶の固執』についてはのちほど解説します。

「偏執症的批判活動」として「ダブル・イメージ」を用いた

ダリは自身の芸術へのアプローチ方法を「偏執症(パラノイア)的批判活動」と言い表し、シュルレアリスムの機関紙の中で、「偏執症的批判活動」の定義を、「現実の急激な転換を意味し、その力の源泉は無意識の欲望にある」と明らかにしました。そして偏執症的批判活動は、決して狂気ではなく、正当な倒錯であると主張しました。

「偏執症的批判活動」を現実化する手法として、ダリは「ダブル・イメージ(double image)」の技法を多く用いました。ダブル・イメージとは、二つのイメージを喚起する一つの図像のことで、例えば女性の髪と馬のたてがみがまざり合い、ライオンのイメージが喚起される図像などです。

ダリの絵を鑑賞するとき、そこに描かれたダブル・イメージを探したり、そこから喚起される自身のイメージを味わってみるというのも楽しみ方のひとつかもしれません。

「ダリ」の代表作品を紹介

カダケス(スペイン)

「柔らかい時計」と呼ばれる代表作『記憶の固執』(1931年)

ダリの代表作で、「柔らかい時計」とも呼ばれる作品が『記憶の固執』です。溶けかかった柔らかい時計が最初に描かれた作品で、遠景にカダケスの岬が配置されています。

三つの時計とともに、懐中時計が一つ描かれ、その上には蟻が群がっています。蟻もダリの作品に多く登場します。蟻は、幼い頃に見た、瀕死のコウモリに群がった蟻から、死に直結する概念となりました。

『記憶の固執』はニューヨーク近代美術館に所蔵されています。

「ダブル・イメージ」を利用した代表作『ナルシスの変貌』(1937年)

ギリシャ神話の美少年ナルシスをモチーフとした『ナルシスの変貌』は、ダリの傑作として評価が高い作品です。湖に姿を映してひざまづくナルシスの姿は溶解して塊のようになり、卵に変容した顔から花が咲いています。

溶解した姿はダリ自身であり、花の咲いた卵はガラであるとされます。ダリとガラが融合して新しいナルシスが誕生する、ダブル・イメージで描かれています。

ダリの重要なモチーフである「卵」は、「誕生」を意味し、ダリが晩年を過ごした家や、ダリ美術館には卵型のオブジェが装飾されています。

『ナルシスの変貌』はロンドンのテート・モダン美術館に収蔵されています。

まとめと「美術館」の紹介

「ダリ美術館」外観

ダリの生まれた、スペイン・カタルーニャ州のフィゲラスには、ダリがデザインしたテーマパークのような、世界最大のコレクションを持つダリ美術館があります。カタルーニャには、ダリ美術館のほかに、ダリの所有していた家が二つ、博物館として公開されています。

ダリは、カタルーニャを生涯にわたって愛し、芸術の源泉としました。スペインの青い海と強い日差しは、ダリが本質的に持っていた健全で強い光と、それに比例するように深い闇を象徴しているようにも思えます。

日本では、福島県の「諸橋近代美術館」が、ダリ作品を常設する美術館です。絵画や彫刻などを約340点収蔵しており、世界第4位の所蔵数です。そのほか、ダリの作品を数点所蔵する美術館として、「ポーラ美術館」や「横浜美術館」などがあります。

ダリ美術館公式サイト

諸橋近代美術館

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