「ダビデ」とは?聖書の物語やミケランジェロのダビデ像も解説

ミケランジェロの「ダビデ像」や、ゴリアテの首とともに描かれる「ダビデ」は、西洋美術で人気のあるモチーフです。「ダビデ」は『聖書』に登場する人物ですが、どのような物語が書かれているのでしょうか?

この記事では、「ダビデ」について書かれた『聖書』の内容や、ソロモン王との関係、ダビデをモチーフとした有名な作品などについて解説します。

「ダビデ」とは?

「ダビデ」とは2代目イスラエル王

ダビデとは、イスラエル王国の2代目の王です。成長し王になったダビデはイスラエルを繁栄させます。聖地エルサレムに首都を定めたのはダビデです。旧約・新約聖書では国民的英雄としてたたえられています。

ダビデが王になったのは紀元前11世紀末で、ダビデの跡を継ぐ知恵の王ソロモンの時代にイスラエル王国はもっとも繁栄しました。ソロモンは「ソロモンの審判」などが絵画のテーマとなっています。

巨人ゴリアテに「投石を命中させて勝利する」エピソードが有名

敵国ペリシテ軍の怪力を持つ巨人ゴリアテが一騎打ちを仕掛けてきたときには、ダビデは自ら名乗り出て戦いに挑みます。ダビデは投石の道具を使って石をゴリアテの額に命中させ、倒れたゴリアテの首を即座に切り落とします。

か弱い少年ダビデが、巨人ゴリアテに対してひるまずに挑み、勝利を収める場面が、絵画のモチーフとして人気を集めました。

「ダビデ」は神と契約を結び、イエス・キリストによって成就される

神は、ダビデの家系から救世主が出るという契約をダビデと結びます。ダビデがベツレヘム出身のユダ族であったたことから、イスラエルの救世主も同じ部族の同じ地域から出現されるとされました。

『新約聖書』では、イエス・キリストによってその契約が成就されることになります。

「ダビデ」の物語とは?

『旧約聖書』に登場する少年ダビデが、のちのイスラエル王となる

『旧約聖書』に収められた歴史書の「サムエル記」に「少年ダビデ」が登場します。のちにダビデはイスラエル王となりますが、その物語は「サムエル記」に続く「列王記」に記されます。

『旧約聖書』は、「創世記」などが記された「モーセ五書」、「サムエル記」「列王記」などが記された「歴史書」、さらに「文学書」と「預言書」で構成されています。

「ダビデ」は、モーセの時代が終わったあとに続く、イスラエル王の歴史を描いた歴史書に登場する人物です。

羊飼いの息子だった「ダビデ」は初代イスラエル王に仕えた

物語の中で、羊飼いの息子であった少年ダビデは、初代イスラエルの王となったサウルに見いだされます。竪琴の名手であるダビデは、琴を弾いて歌い、王に仕えました。

「ダビデ」をモチーフとした有名な作品とは?

「ドナテッロ」のブロンズ像『ダビデ』(1440年頃)

ドナテッロ『ダビデ』 バルジェロ美術館(フィレンツェ)
(出典:Wikimedia Commons User:Tetraktys)

ドナテッロ(1386年頃~1466年)がブロンズで制作した『ダビデ像』も、ミケランジェロの作品と並んでルネサンスを代表する彫刻です。ミケランジェロの彫刻よりも60年ほど早い時期に作られた彫像で、古代ギリシャ・ローマ以降に作られた、初めての裸体立像とされます。

公的なモニュメントとして作られたミケランジェロのダビデと違って、ドナテッロのダビデはメディチ家の私的な注文によって作られ、邸宅内に飾られていました。

「ヴェロッキオ」のブロンズ像『ダビデ』(1470年代初頭)

ヴェロッキオ『ダビデ』 バルジェロ美術館(フィレンツェ)
(出典:Wikimedia Commons User:Sailko)

アンドレア・デル・ヴェロッキオ(1435年頃~1488年)の制作した『ダビデ像』は、ドナテッロのダビデ像に関心を持ったピエロ・デ・メディチの発注によって作られました。

美しい美少年の姿の『ダビデ像』は、弟子だったレオナルド・ダ・ヴィンチがモデルとなったと言われています。レオナルドは実際に美しい姿をしていました。

「ミケランジェロ」の大理石像『ダビデ』(1501年~1504年)

ミケランジェロ『ダビデ』 アカデミア美術館(フィレンツェ)
(出典:Adobe Stock)

フィレンツェの市庁舎前に1504年に設置された、5メートルを超えるミケランジェロの彫刻『ダビデ像』は、ミケランジェロの代表作であるとともに、ルネサンス期を代表する卓越した大理石の彫刻です。現在はフィレンツェのアカデミア美術館に収蔵されています。

ダビデは左手に投石の道具を、右手に石を握り、ゴリアテを倒そうと狙いを定める一瞬を表現しています。ダビデはたくましい筋肉を持つ青年の姿で表現され、ミケランジェロの好んだ裸体美の傑作です。巨人に立ち向かうダビデは、フィレンツェを象徴するものだと解釈されました。

「カラヴァッジョ」の絵画『ゴリアテの首を持つダビデ』(1609年)

『ゴリアテの首を持つダビデ』 ボルゲーゼ美術館(ローマ)
(出典:Wikimedia Commons User:Ismoon)

ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ(通称カラヴァッジョ)(1571年~1610年)は、描く対象を理想化する古典的手法を排除した写実的な作風で、聖書を題材とした絵画を多く制作しました。

『ゴリアテの首を持つダビデ』では、ゴリアテの頭部を哀しげな表情で見つめる少年ダビデがリアリティを持って迫ってきます。ゴリアテはカラヴァッジョの自画像だとされます。

「ダビデの星(ダビデスター)」とは?

「ダビデの星」はユダヤ民族を象徴する”六芒星”の図像

「ダビデの星」と呼ばれる、正三角形を二つ重ねた「六芒星」の図像があります。この図像はユダヤ民族を象徴するものとしされ、イスラエルの国旗にも描かれています。

「ダビデの星」はユダヤ民兵部隊の旗印として考案されたもの

「ダビデの星」とは、聖書に書かれたイスラエル王ダビデに由来するとされますが、17世紀の三十年戦争の際に、ユダヤ民兵部隊の旗印として考案されたものであるため、聖書に「ダビデの星」の図像についての記述はありません。

そのため、聖書を典拠として作られる「ダビデ」図に「ダビデの星」が描かれることはありません。

まとめ

「ダビデ」とは、『旧約聖書』の歴史書の中に勇敢な少年として登場し、やがてイスラエルの王となる人物のことです。巨人ゴリアテに挑む無垢な姿が、西洋絵画のモチーフとして好んで用いられました。

特にルネサンス期においては、同性愛文化の背景もあり、耽美的なダビデがメディチ家の注文によって作られました。

■参考記事
『旧約聖書』とは何か?「創世記」や「ヨブ記」のあらすじも解説